2024年公示地価  三大都市圏以外の特徴のある地価上昇地点

国土交通省から発表された2024年の公示地価では全国・全用途の平均が3年連続上昇になるなど地価の上昇が続いています。 都市部を中心に高い上昇率となっていますが、地方都市や郊外などにおいても大きく地価が上昇した地点も多くあります。 今回のコラムではこうした三大都市圏(東京・名古屋・大阪)以外の地価が上昇した特徴のある地点について述べてみたいと思います。

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北海道

北海道では地価は上昇傾向にあり、北海道平均では住宅地で4.4%、商業地で5.1%、工業地で5.3%のそれぞれ上昇となりましたが、いくつかのエリアで大きな上昇率を示している地点があります。

全国・全用途及び商業地の地価上昇率ランキングでは、「千歳市幸町3丁目19番2」の地点が30.3%の上昇で3位となりました。

全国・全用途の地価上昇率ランキングの上位10位の中には北海道が4地点も入っています。その内3ヵ所は千歳市で、9位には住宅地の「北海道富良野市北の峰町4777番33」(27.9%)が入りました。この地点は住宅地でのランキングでは全国1位で、同じ北海道の「千歳市栄町2丁目25番20」が住宅地で2位となりました。

また北海道の「北広島」の地点も23.3%の上昇です。それぞれの特徴を見てみましょう。

千歳市

千歳市は北海道の玄関口である新千歳空港があります。支笏湖など自然にも恵まれたエリアですが、今回大きく地価が上昇しているエリアがあります。地価上昇要因として次世代半導体工場である「ラピダス(Rapidus)」の進出が挙げられます。北海道最大規模の進出と言われており、政府も大きく推進する国家プロジェクトであり大きな経済効果が見込まれます。2027年からの量産を目指しており、就業人口も大きく増加、周辺の住宅需要が急増する事からマンションなどの建設が進み地価も大きく上昇しています。

これは後に触れますが、熊本県なども半導体工場の進出が要因で地価が上昇しています。

富良野市

富良野市は千歳市のラピダスにも近く工場建設の影響もあります。また富良野は観光地としても有名で、インバウンドの回復に従い観光客も増加してきています。また富良野はラベンダーでも有名ですが良質なスキー場としても知られており、海外からの投資マネーも多く集まっています。

北広島

北広島には日本ハムファイターズの本拠地である「エスコンフィールドHOKKAIDO」が2023年(令和5年)3月14日に開業しました。札幌にも近い立地にあり交通利便性も高い事から地価も上昇しています。経済効果は北広島市で500億円とも言われておりスポーツを中核としたまちづくり」が進んでいます。駅周辺では複合ビル「tonarie(トナリエ)北広島」やマンションの建設も進んでいます。

今後も来場者が増える事により開発も進み、ますます発展する可能性のあるエリアです。

将来性の高いエスコンフィールド周辺

実際筆者は今年の3月にエスコンフィールドを訪れました。その目的は巨人対日本ハムのオープン戦の観戦です。関東の人から見ると、北海道に広島があるのか、と思われる方も多いのではないでしょうか。北広島駅は千歳空港からJR快速エアポートで4駅、札幌駅までわずか2駅で到着します。駅周辺は商業施設、タワーマンションなどの工事現場が多くあり、これから駅周辺はますます開発が進む可能性を感じさせます。エスコンフィールドは野球だけではなく、コンサートを始め年間多くのイベントが開催されますので、年間を通じての来場者が期待できます。当該施設及び周辺の開発により就業人口も増えこれらの要因も今後の地価上昇につながると考えられます。

北海道では他にも住宅地では「帯広市大空町1-6-13」が20.4%、「中川郡幕別町札内あかしや町」の地点が19.5%など、商業地では「札幌市東区北8条東」の地点が23.0%など多くの地点で地価が上昇しています。

2024年公示地価 上昇率ランキング(全国・全用途)

順位

用途

上昇率

3

北海道

千歳市幸町3丁目19番2(ホワイトビル)

商業地

30.3%

5

北海道

千歳市千代田町5丁目1番8

商業地

29.3%

7

北海道

千歳市錦町2丁目10番3(ビジネスホテルホーリン)

商業地

28.8%

9

北海道

富良野市北の峰町4777番33

『北の峰町25-11』

住宅地

27.9%

<国土交通省「令和6年地価公示」>

仙台市

物流施設需要を背景に地価が上昇

仙台市は東北地方の中心的都市であり、また自然も多く「杜の都」として知られています。東北地方の唯一の政令指定都市です。宮城県の経済の多くが集中しています。

2024年の公示地価では工業地の地方圏ランキングでは宮城県仙台市の地点が2カ所トップ10入りしています。

2位の「仙台市泉区明通3丁目」の地点は「東北道泉インターチェンジ」に近く、トラックドライバーなどの残業が規制される物流の2024年問題もあり物流施設の需要が高く、地価上昇に結び付きました。

「扇町1-1-41」「苦竹3-4-5」は国道4号仙台バイパス「苦竹IC」に近い立地で、物流施設の需要増によって地価が上昇しています。

活気のある仙台市

筆者は昨年取材で仙台を訪れましたが、仙台駅周辺は「ここは新宿か渋谷か」と思われる程、駅周辺は若者であふれかえっており、その活気に驚かされました。当然の事ながら仙台市の中心部も地価が上がっていた事は認識していましたが、今回の発表では工業地の上昇率が際立っている事がクローズアップされました。これはまさしくインターネットでの買い物などが増加し物流が増え、物流の2024年問題もありドライバーの人手不足が懸念されている事から大型物流施設の需要も高く、インターチェンジ付近などの地価上昇につながっています。

また宮城県では富谷市の住宅地の地点が14.5%の上昇となりました。仙台市泉区に近い市の南側エリアは仙台市よりも割安感がある事が住宅の需要も増加しています。

2024年公示地価 上昇率ランキング(地方圏・工業地)

順位

用途

上昇率

2

宮城県

仙台市泉区明通3丁目9番

工業地

20.5%

5

宮城県

仙台市宮城野区扇町1丁目1番7外

『扇町1-1-41』

工業地

18.6%

6

宮城県

仙台市宮城野区苦竹3丁目1番15

『苦竹3-4-5』

工業地

17.9%

<国土交通省「令和6年地価公示」>

長野県

長野県には自然が多くあり、観光地としても栄えています。2024年の公示地価では全用途平均で0.3%の上昇と28年ぶりにプラスとなりました。中でも観光地の地価上昇が目立っています。

長野県の「北安曇郡白馬村」の地点が30.2%の上昇で全国・全用途及び商業地ランキングで4位となりました。

白馬村は周辺のスキー場も多いリゾート地です。白馬村の地点は住宅地・商業地ともに長野県の地価上昇率1位となっています。

インバウンドや国内観光客の増加や別荘需要などで地価が上昇していると考えられます。

長野県は民間の調査で、移住したい都道府県のランキングで1位に選ばれています。今後も住宅の需要が高く地価上昇も続く可能もあります。

2024年公示地価 上昇率ランキング(全国・商業地)

順位

用途

上昇率

4

長野県

北安曇郡白馬村大字北城字山越4093番2

(こいや)

商業地

30.2%

<国土交通省「令和6年地価公示」>

福岡県

福岡市中心部で地価が上昇

福岡県の中心である福岡市は空港から都心部までの距離が近く、コンパクトシティを形成しています。福岡県の地価上昇率は商業地では前年比6.7%で日本一となりました。福岡市の地価は2024年には住宅地で9.6%、商業地で12.6%、工業地では15.4%と高い上昇率となっています。

福岡市では中心部の博多駅周辺や天神などは「都市再生緊急整備地域」にも指定されており、再開発の進むエリアです。天神では「天神ビッグバン」、博多駅周辺では「博多コネクティッド」、湾岸エリアでは「ウォーターフロントネクスト」などのプロジェクトが進行しています。

地下鉄七隈線が2023年3月に「天神南」から「博多」駅までの延伸・開業しており沿線の利便性も高くなっています。

2024年公示地価

福岡県の地価変動率の推移

 

住宅地

商業地

工業地

 

2023

2024

2023

2024

2023

2024

福岡県

4.2%

5.2%

5.3%

6.7%

6.6%

8.1%

福岡市

8.0%

9.6%

10.6%

12.6%

14.3%

15.4%

<国土交通省「令和6年地価公示」>

都心周辺部にも地価上昇が波及

福岡県の商業地で最も地価上昇率が高かったのは博多区「竹丘町2-1-11」の地点で21.6%の上昇です。2024年3月に開業した新駅・西鉄天神大牟田線の新駅「桜並木駅」と「南福岡」駅に近い地点で新駅の誕生で地価も上昇しています。

「博多区清川2丁目」は博多駅や天神にも近い那珂川沿いのエリアです。「麦野3-17-24」は「ららぽーと福岡」開業や最寄りの西鉄「雑餉隈」駅付近の立体交差化が進められた影響も考えられます。いずれも利便性の高さから住宅需要も増加しています。

また「福岡市早良区」などでも地下鉄七隈線沿線の博多延伸の影響もあり地価が上昇しています。

福岡市内ではすでに大濠公園界隈では1億円を超えるマンションも数多く建設されており、若年層のみならず富裕層の住宅需要も今後期待でき、再開発と共にさらに地価が押し上がる可能性があります。

2024年公示地価 上昇率ランキング(全国・商業地)

順位

用途

上昇率

12

福岡県

博多区竹丘町2丁目10番「竹丘町2-1-11」

商業地

21.6%

18

福岡県

博多区清川2丁目4号13番1「清川2-4-19」

商業地

19.3%

<福岡県「令和6年地価公示の概要」>

 

2024年公示地価 上昇率ランキング(全国・住宅地)

順位

用途

上昇率

7

福岡県

博多区麦野3丁目5番3「麦野3-17-24」

住宅地

19.6%

<福岡県「令和6年地価公示の概要」>

熊本県

熊本県の地点が地価上昇率のトップに

2024年公示地価では全国・全用途の地価上昇率のトップは「熊本県菊池郡大津町」の商業地の地点で前年比33.2%の上昇となりました。2位も熊本県の「菊池郡菊陽町」の地点で30.8%の上昇です。

こうした要因もあり、熊本県平均では住宅地で2.5%、商業地で3.1%の上昇ですが、工業地では6.0%と高い上昇率となりました。

2024年公示地価

熊本県の地価変動率の推移

 

住宅地

商業地

工業地

 

2023

2024

2023

2024

2023

2024

熊本県

1.9%

2.5%

1.9%

3.1%

3.8%

6.0%

<国土交通省「令和6年地価公示」>

半導体工場の進出が要因

熊本県が東京など大都市圏を抜いて大きく地価が上昇した要因には半導体関連の大型工場の開設があります。熊本県には「TSMC(台湾積体電路製造)」が進出する事が2021年11月9日に決まりました。同社はApple社のiPhoneやiPadに搭載されているチップなどを生産している世界的規模のメーカーです。

九州には半導体関連企業が約1,000社集積し「シリコンアイランド」と呼ばれていますが熊本には200社以上が集積しています。TSMCの進出する「熊本セミコンテクノパーク」には「ソニーグループ」の工場や半導体製造装置メーカー「東京エレクトロン」などがあり、多くの関連企業もあるまる一大ITエリアとなっています。

このように企業の進出は地方の土地の発展や地価に大きな影響を与えます。政府はこうした半導体企業の誘致を積極的に支援しており、今後も企業の進出が続く可能性もあります。

今後は地域の大きな発展が期待されており、住宅需要も急速に高まる事から周辺の地価も上昇が続くと考えられます。

余談ですが地価上昇率1位の地点には写真館がありますが、突然地価上昇率が日本一となり当の本人もかなり驚いたのではないでしょうか。

2024年公示地価 上昇率ランキング(全国・全用途)

順位

用途

上昇率

1

熊本県

菊池郡大津町大字大津字拾六番町屋敷1096番2外

(村上写真館)

商業地

33.2%

2

熊本県

菊池郡菊陽町大字津久礼字石坂2343番2

(冨永ビル)

商業地

30.8%

<国土交通省「令和6年地価公示」>

TSMCの進出により就業人口が大幅に増加し、さらに雇用における給与体系もとても高額で魅力的のようです。そのような高収入の就業人口の増加により住宅購入(戸建て・マンション)を始め良質な賃貸需要も急速に増え首都圏からも多くの不動産会社が土地の争奪戦に参加しているようです。また住宅需要の増加により周辺の街における出店も相次ぎ急速に街の活力が上昇しています。この流れはしばらく続くのではないかと考えられます。

沖縄県

観光の増加と開発の進む沖縄

沖縄は海に囲まれたリゾート地としても知られており、本州から離れており南国気分を味わう事もできます。インバウンドを始め観光客の多く訪れホテル稼働率も上昇、新型コロナからの回復も見られています。1泊10万以上のホテルも多くあり周辺の住宅の資産価値の引き上げにもつながります。

また沖縄に多くの米軍施設がありますが、用地の返還も進んでおり「返還軍用跡地における土地区画整理事業」も行われています。大規模な再開発計画が進行し、新しい街の開発やリゾート施設の建設など多くのプロジェクトが進み沖縄県全体の発展にもつながっています。

2024年の公示地価では沖縄県は全用途(住宅地、商業地、工業地)の平均変動率が前年比5.5%の上昇となり、福岡県に次ぐ全国第2位となりました。また住宅地で5.5%、商業地で5.0%の上昇となりました

2024年公示地価

沖縄県の地価変動率の推移

 

住宅地

商業地

 

2023

2024

2023

2024

地価上昇率

3.6%

5.5%

2.7%

5.0%

<国土交通省「令和6年地価公示」>

宮古島などで地価が大きく上昇

リゾート地としても知られている宮古島なども地価が上昇しており、観光地の地価上昇も今後進む可能性があります。宮古島市は住宅地で12.3%、商業地12.4%の上昇で沖縄県でも上昇率がトップになっています。沖縄県の地価最高価格は商業地の「那覇市久茂地3丁目1番1」の地点となりました。「県庁前」駅に近い地点です。

また那覇新都心地区などではマンション需要が高く供給が限定的な事もあり地価の上昇が続いています。

沖縄ではリゾートの回復とともにホテル・商業施設などの投資も増加し、また新たなテーマパークの開業も予定されているなど、今後も観光面でも集客が期待できるエリアです。

インバウンドなどの増加により今後ますます不動産価格なども上昇する可能性があると考えられます。

2024年公示地価 上昇率ランキング(全国・住宅地)

順位

用途

上昇率

3

沖縄県

宮古島市上野字野原東方原1104番

住宅地

21.2%

18

沖縄県

宮古島市城辺字比嘉比嘉125番

住宅地

18.4%

<国土交通省「令和6年地価公示」>

円安でインバウンドなども増加

筆者は最近沖縄県那覇市の物件のレポートをしましたが、沖縄は現在のような円安傾向の続く中でインバウンドはもとより国内からの旅行者も非常に多く、居住用はもとよりセカンド・資産運用としての需要も非常に高まっています。

読者の皆様もご存じの通り沖縄県はほとんど花粉が飛びませんので、特に2月3月限定で花粉から避難するためにロングステイする日本人の方も多いと聞いています。このような中で住宅地・商業地ともに需要も高まっています。

沖縄はホテル需要も非常に高く、特に宮古島周辺なども地価上昇が続くと考えられます。

<まとめ>

従来の地価動向を見ていると、三大都市圏が突出しており地方圏はおだやかな上昇という傾向がありましたが、近年では三大都市圏以外の多くの地点で地価上昇が見られています。

この背景の一つに「60年」というキーワードが見え隠れします。つまり今から60年前の東京五輪の前後の高度経済成長期に大規模な再開発、新線計画がありましたが、その後は経年劣化が進み、社会インフラも首都圏同様、地方都市においても修繕の時期を迎える時期になっています。

また全国の主要都市の住宅も経年劣化を迎え同時多発的に開発・投資が加速しています。

このような時系列における要因も現在の地価動向に反映されています。

さらに経済・社会の構造変化、例えば半導体・物流もそうですが、その時代を象徴する経済のキーワードが地価に直結しているという事も分かります。