2025年は大阪・関西万博が開催され多くの来場者でにぎわいました。また10月には高市新政権が発足し、日本の経済状況も大きく変わろうとしています。

今回のコラムでは高市新政権による経済政策と万博後の大阪の不動産市況について述べてみたいと思います。

高市新政権の発足

2025年10月の自民党総裁選で高市氏が選出され、その後の総裁選では公明党の連立解消というサプライズの局面になったものの、自民と維新の連立により10月21日に高市新政権が発足しました。日本初の女性総理という事も特に注目を集め、またその直後に行われた日米首脳会談ではトランプ米大統領との会見も成功裏に収め、その支持率も特に若い世代から高くなっています。

200311月の首相は?

筆者が2003年11月に中野にオフィス野中を設立した当時は、小泉純一郎氏が首相でした。その当時から数えると高市総理は何と11人目となります。

簡単に言うと一人平均2年足らずで退陣しています。実際には第二次安倍政権などの長期政権がありましたが極めて短命な政権がいかに多かった事を物語っています。2003年以降で在職日数が1,000日を超えたのは小泉氏、安倍氏、岸田氏の3名になります。

新しい政権が誕生する度にネガティブな視点から見れば政策・方針が変わる事、ポジティブな視点から見れば新たな大規模な経済対策が発表される事などが社会的に大きな影響があると考えます。

不動産業界において過去に大きく影響を及ぼしたのがまず小泉政権です。小泉政権においては郵政民営化を争点として誕生した政権でした。その結果東京名古屋大阪などの大都市圏における中央郵便局や諸々の資産の有効活用が推し進められました。東京中央郵便局の跡地に建設された東京駅前のJPワーなど当時は日本最大級の容積を誇り、新たな都市計画法のもと多くの駅周辺が変貌を遂げてきました。大阪駅前の再開発においても一つの目玉である「大阪中央郵便局跡地」の開発である「JPタワー大阪」(2024年7月開業)も郵政民営化の延長線上に生まれた副産物とも言えます。

202311月当時からの歴代の首相

在職期間

首相

在職日数

2025年10月21日~

高市早苗

現職

2024年10月1日~2025年10月21日

石破 茂

396日

2021年10月4日~2024年10月1日

岸田 文雄

1,095日

2020年9月16日~2021年10月4日

菅 義偉

384日

2012年12月26日~2020年9月16日

安倍 晋三

2,824日

2011年9月2日~2012年12月26日

野田 佳彦

482日

2010年6月8日~2011年9月2日

菅 直人

452日

2009年9月16日~2010年6月8日

鳩山 由紀夫

266日

2008年9月24日~2009年9月16日

麻生 太郎

358日

2007年9月26日~2008年9月24日

福田 康夫

365

2006年9月26日~2007年9月26日

安倍 晋三

366日

2003年11月19日~2006年9月26日

小泉 純一郎

1,982日

<資料:首相官邸>

高市政権とアベノミクス

2012年12月には第二次安倍政権が発足し、「3本の矢」を中心とする「アベノミク」が開始されました。金融緩和によるデフレ脱却を目指し低金利政策が続けられました。この金融緩和政策は現在も継続しており、高市政権でも「アベノミク」路線を継承し金融緩和が継続される見通しです。高市総理は「責任ある積極財政」を掲げており、財政支出による経済支援を推進しています。さらに「日本成長戦略本部」を設置して成長戦略の策定を進めています。

高市総理の経済対策として
①生活の安全保障・物価高への対応
②危機管理投資・成長投資による強い経済の実現
③防衛力と外交力の強化

を柱とする案を中心に進める意向です。

但しアベノミク発足時の2012年頃はデフレ経済が続いており、現在は状況が大きく変化しています。金融緩和・積極財政を続ける場合には、インフレが加速する可能性も懸念されています。

景気動向と金利動向

株式市場は上昇傾向にありますが、10月27日には初の5万円超えとなり、また10月31日には5万2,000円を突破しました。

株式市場は好調に推移しており、株高が続いている状況です。但し株式市場の動きは急激な変化が表れる事もあり、今後も予断を許さない状況です。

日銀では現在政策金利を0.5%に据え置いており、10月の金融政策決定会合でも金利の据え置きが発表されました。但し新聞などの報道によると金利引き上げの意見も強くなってきているようです。

金融緩和の継続の意向を示している高市氏と金利引き上げの方向に傾いている日銀との間で、今後の金利動向にも注視が必要です。

但し日銀では金利引き上げによる「金利の正常化」を目指しており、金利が引き上げられたとしてもまだまだ低金利圏で推移するものと考えられます。

日本経済が本格軌道に乗るまでは大幅な金利上昇の可能性は低いのではないでしょうか。

大阪万博とそのレガシー

大阪・関西万博は2025年4月13日から10月13日までの日程で184日間に渡って行われ、約2557万人の来客数がありました。経済効果は約3兆円とも言われており、大阪経済にも大きな貢献を果たしたと考えられます。

閉会後の大屋根リングの使用された木材も「第76回全国植樹祭」や住宅などに再利用されるそうです。この大屋根リングもそのまま残しておいたら、と思いますがその600mを保存する場合の費用10年で約17億円かかるそうです。そのままにしておくと傷んでしまうので、建築物の維持管理が重要である事が分かります。

1970年に開催された大阪万博の際に建設された「太陽の塔」は当初解体される予定でしたが、その後に保存される事になり2020年には有形文化財となっています。岡本太郎氏のデザインであり非常に貴重であると言えます。東京の「渋谷」駅にも岡本太郎氏の大きな壁画があり、誰もが見る事ができるパブリックアートとして通路に展示されています。太陽の塔と同時期に制作され、塔と対(つい)をなすと言われています。

大阪万博と湾岸エリアの発展

大阪万博の第一の功績は、大阪湾岸エリアの将来性を高めた事ではないでしょうか。湾岸エリアには世界最大の水族館である「海遊館」が1990年に開業しましたが、その頃の湾岸エリアはそれほど発展していなかった印象があります。その後咲洲には1997年に「コスモスクエア」駅が開業。さらに2001年にはUSJが開業しました。

2018年に大阪万博開催が決定し、開催地である夢洲の注目度が高まってきました。その後、大阪・関西万博の開業に合わせて大阪メトロ中央線が夢洲まで延伸し「夢洲」駅が2025年1月19日に開業しました。現在夢洲まで乗り入れる鉄道はこの大阪メトロ中央線のみです。

夢洲への更なる鉄道延伸も検討中

大阪市では夢洲における国際環境拠点の形成に向けたまちづくりを進めており、夢洲への更なる鉄道延伸も検討されています。

「港北テクノポート線」は2025年の大阪・関西万博の際に「コスモスクエア」から「夢洲」までOsaka Metro中央線の延伸として2025年1月に開業(北ルート)しており、その先の「舞洲」から「新桜島」まで(北ルート)延伸する計画です。

「中之島新線延伸」は中之島線を延伸するもので、中之島線「中之島」駅から「西九条」駅を通り「新桜島」「舞洲」「夢洲」と運行する路線です。

さらに検討路線としてJR桜島線延伸(桜島〜舞洲~夢洲)と京阪中之島線延伸(中之島〜九条)などがあります。

今後これらの路線の運行が実現すれば、湾岸エリアへのアクセスが大きく向上します。また現在鉄道ルートのない舞洲へもアクセスしやすくなり、咲洲・夢洲・舞洲の3エリアの総合的につながります。

資料:大阪市「報道発表資料 夢洲アクセス鉄道に関する検討結果について」2025年8月6日

大阪「副首都構想」とは

日本維新の会は自民党への要求の中で「副首都構想」を挙げています。東京一極集中を是正して経済成長を促す成長戦略です。また首都圏が災害を被った場合のバックアップ機能もあり、これは維新の会が選挙の時に掲げていた公約です。また維新では「大阪都構想」も掲げており、副首都構想とも関連があります。副首都構想自体には大阪を副首都に指定するという文言はありませんが、大阪も有力な候補となっています。

将来的にはリニア中央新幹線などで東京・名古屋・大阪が結ばれ、複数の大都市が一つの都市ように結ばれる「スーパー・メガリージョン」を形成する可能性があります既に大阪は日本第二の都市であり、大阪が副首都となれば都市としての重要性も増し、また経済的にも発展する可能性もあります。

湾岸エリアの今後の発展は

大阪五輪の開催された夢洲には大阪IR(統合型リゾート)の建設が進んでいます。国際会議場や展示場、ホテル、レストラン、ラグジュアリーリテール、エンターテイメント施設、カジノなどの建設が計画されています。初期投資額約1兆5,000億円で、年間来訪者2,000万人、年間売り上げ5,200億円を見込んでいます。

同じく大阪湾岸エリアにあるUSJの来場者は2024年には1,600万人で東京ディズニーランド(1,510万人)を超えて世界第3位となっています。

今後はIRの開業により鉄道の延伸計画も進む可能性もあり、湾岸エリアも大きく変わって行く可能性があります。

さらに11月14日の新聞報道によると、大阪・関西万博の会場跡地に民間業者が2030年代前半にエンターテインメント施設を開業する構想がある事が報道されています。

IRとエンターテインメント施設の両輪により大阪の新たな観光スポットが誕生となるかもしれません。

東京&大阪不動市場の動向

現在は低金利が続いています。低金利による余剰資金は不動産にも流入し、都心のマンション価格も大きく上昇しており、不動産経済研究所の調べによると2024年上半期(4~9月)の東京都区部の新築ファミリーマンション価格は平均で 1億3,309万円となりました。前年同期比20.4%の上昇です。特に都心部のタワーマンションを投資目的で購入外国人も多く、価格上昇の要因となっています。

低金利を背景に不動産投資ローンも増加しています。不動産業への銀行ローン残高は過去最大の約29兆円となっています。

不動産価格は都心部を中心に大きく上昇していますが、世界的に見た不動産の水準から見るとまだ安いと感じる見方もあり、外国人投資家を含めた資金が東京の不動産市場にますます流入する可能性があります。

大阪の新築ファミリーマンション市場を見ると大阪市2025年4~9月の平均で5,202万円となり、東京都区部の半額以下となっています。

大阪では再開発が進み、大阪市を縦断する「なにわ筋線」による経済活性化も期待されています。東京に次ぐ第二に経済力を持った大都市であり、さらに今後「リニア中央新幹線」の開業も控えており、経済的成長の余力を大きく残した大阪エリアのマンション価格は東京と比較するとまだまだ上昇の余地があると言えます。

うめきたのタワーマンション「グラングリーン大阪 THE NORTH RESIDENCE」の最上階は25億円とも言われています。他には大阪市主要部では超高額マンションの多く出現しており、利便性の高いエリアでは価格の高額化が進んでいると言えます。

良い意味で価格の「出遅れ感」のある大阪エリアですが、低金利が続けば大阪市内のマンションも需要が増加し価格も上昇するケースも考えられます。

東京都区部の新築ファミリーマンション価格の推移

 

2022

2023

2024

202549

東京都区部

8,236万円

1億1,483万円

1億1,181 万円

1億3,309 万円

大阪市

4,654万円

4,202万円

6,126万円

5,202万円

<不動産経済研究所調べ>

<まとめ>

高市新政権における大きな方針としては、金融緩和政策と財政政策が挙げられています。まずは物価高対策が注目されていますが、総額15兆円とも言われる大規模な経済対策に注目度が高まっています。

不動産投資においては経済的な動向・再開発なども含めた地域的な動向がポイントなりますが、今回のコラムを通じて読者の皆様にとって参考になさって頂ければ幸いです。

インフルエンザも流行していますので、どうぞご自愛ください。

執筆者

住宅コンサルタント野中清志

住宅コンサルタント野中清志

株式会社オフィス野中 代表取締役
首都圏・関西および全国でマンション購入に関する講演多数。
内容は居住用から資産運用向けセミナーなど、年間100本近く講演。