目次
円安が起こっている原因
急激な円安が起こっている原因として、日米の金融政策にギャップが生じていることが挙げられます。
アメリカでは歴史的なインフレを抑える目的で利上げが行われました。FRB(米連邦準備制度理事会)の議長が2022年8月に「物価上昇が落ち着くまで利上げを続ける」旨の発言をしており、今後もしばらく同じ状況が続くと予想されています。
一方、日本では新型コロナウイルス感染拡大により落ち込んだ景気を回復させるため、大規模金融緩和を進めて金利が下がっています。日米の2国間で金利差が開いているからこそ、円を売却してドルにしようとする動きが活発になりました。
結果的に円の価値が下がり、現在の円安が起きているのです。
円安が進む為替相場の過去10年の推移
日米の金融政策にギャップが生じていることが大きな原因で円安が進んでいるため、もちろん米ドルの為替相場には大きな影響を与えています。
しかし、円安が進んでいるのは米ドルだけではありません。豪ドル、NZドル、人民元、英ポンド、スイスフラン、ユーロ、などさまざまな通貨で円安が加速しています。
ここでは、円安が進む為替相場の過去10年の推移を通貨別に解説します。なお、為替相場は三菱UFJ銀行外国為替相場チャート表から算出しています。
円/米ドルの推移
円/米ドルの10年間の推移は以下の通りです。
年月 | 為替相場 |
2015年7月 | 123.92円 |
2016年7月 | 102.06円 |
2017年7月 | 110.25円 |
2018年7月 | 111.81円 |
2019年7月 | 108.76円 |
2020年7月 | 105.89円 |
2021年7月 | 109.66円 |
2022年7月 | 133.20円 |
2023年7月 | 142.28円 |
2024年7月 | 161.69円 |
2024年7月時点の為替相場は161.69円です。10年前の2015年7月と比較すると、37.77円も増加していることが分かります。
2016年には一旦下がり、その後2021年までは同水準を推移していましたが、2022年からは増加傾向が見られます。
円/豪ドルの推移
円/豪ドルの10年間の推移は以下の通りです。
年月 | 為替相場 |
2015年7月 | 90.48円 |
2016年7月 | 77.59円 |
2017年7月 | 88.18円 |
2018年7月 | 83.05円 |
2019年7月 | 74.42円 |
2020年7月 | 75.60円 |
2021年7月 | 80.53円 |
2022年7月 | 93.13円 |
2023年7月 | 95.54円 |
2024年7月 | 109.07円 |
10年前の2015年と現在を比較すると、18.59円アップの109.07円となっています。
米ドルと比較すると、ややゆるやかな上昇傾向となっているものの、円安は確実に進んでいます。
円/NZドルの推移
円/NZドルの10年間の推移は以下の通りです。
年月 | 為替相場 |
2015年7月 | 81.72円 |
2016年7月 | 82.77円 |
2017年7月 | 82.37円 |
2018年7月 | 76.20円 |
2019年7月 | 71.34円 |
2020年7月 | 70.15円 |
2021年7月 | 76.43円 |
2022年7月 | 83.76円 |
2023年7月 | 88.32円 |
2024年7月 | 98.32円 |
2024年7月時点で98.32円です。上昇率や増加率は、豪ドルと同じような傾向があります。
ただし、10年前の2015年と比較すると16.6円ほど増加しているため、少なからず不動産投資への影響は懸念されるでしょう。
円/人民元の推移
円/人民元の10年間の推移は以下の通りです。
年月 | 為替相場 |
2015年7月 | 19.94円 |
2016年7月 | 15.37円 |
2017年7月 | 16.38円 |
2018年7月 | 16.41円 |
2019年7月 | 15.79円 |
2020年7月 | 15.17円 |
2021年7月 | 16.96円 |
2022年7月 | 19.74円 |
2023年7月 | 19.91円 |
2024年7月 | 22.21円 |
人民元の増加は、10年間で2.27円とわずかなものです。ただし、過去10年の推移では最大値、上昇率は約11.38%となっています。
その結果、中国人投資家が日本の不動産に対して積極的になっている傾向があります。
円/英ポンドの推移
円/英ポンドの10年間の推移は以下の通りです。
年月 | 為替相場 |
2015年7月 | 185.98円 |
2016年7月 | 134.96円 |
2017年7月 | 145.64円 |
2018年7月 | 146.77円 |
2019年7月 | 132.26円 |
2020年7月 | 138.50円 |
2021年7月 | 152.52円 |
2022年7月 | 162.26円 |
2023年7月 | 182.61円 |
2024年7月 | 207.72円 |
英ポンドは、10年前の2015年からは約11.68%ほど増加しています。円安傾向であることに間違いはないものの、ややゆるやかに上昇しています。
なお、200円台になったのは2008年以来16年ぶりです。
円/スイスフランの推移
円/スイスフランの10年間の推移は以下の通りです。
年月 | 為替相場 |
2015年7月 | 128.34円 |
2016年7月 | 105.31円 |
2017年7月 | 113.98円 |
2018年7月 | 112.95円 |
2019年7月 | 109.41円 |
2020年7月 | 115.81円 |
2021年7月 | 121.13円 |
2022年7月 | 139.98円 |
2023年7月 | 163.18円 |
2024年7月 | 179.69円 |
スイスフランは、2024年7月時点で179.69円と、2015年7月と比較すると大きく上昇しています。
上昇率は40.01%となっており、米ドルと比較しても高い上昇傾向です。
円/ユーロの推移
円/ユーロの10年間の推移は以下の通りです。
年月 | 為替相場 |
2015年7月 | 136.12円 |
2016年7月 | 114.10円 |
2017年7月 | 130.52円 |
2018年7月 | 130.79円 |
2019年7月 | 120.45円 |
2020年7月 | 124.66円 |
2021年7月 | 130.21円 |
2022年7月 | 136.20円 |
2023年7月 | 156.44円 |
2024年7月 | 175.10円 |
ユーロも他の通貨と同様に円安傾向です。2015年と比較すると約28.63%アップしており、円安の加速が顕著に表れています。
円安の加速によって海外不動産の物件価格は上昇傾向にありますが、リスクが高いとは限りません。円安によって家賃が増加するため、今まで以上の収入を見込める可能性も秘めています。
「円安が進んでいるから海外の不動産投資は避けておく」のではなく、円安だからこそ資産を守るために外貨建ての投資を始めるのもひとつの手段です。
不動産投資に円安がもたらす影響
不動産投資の観点からすると、円安はメリットとなる一方で、場合によってはデメリットにもなり得る事態です。物価高が続くので一般的にマイナスイメージの強い円安ですが、資産運用も視野に入れると全てがデメリットとは限りません。
下記では円安が不動産投資に与える影響を解説します。
円安がプラスに影響する理由
円安がプラスに作用する要素として、家賃収入増への期待が挙げられます。円安が続いてインフレが起きた場合、家賃を上げる環境が整います。「円安であれば仕方ない」と考える人も多いので、無理のない範囲で価格設定すれば多くの収入を得られるのです。
また、家賃を含む物価高騰を受け、あえて郊外の賃貸を検討する人が増加します。そのため郊外の安い物件の需要が伸びる可能性が高いです。該当する物件を保有できていれば効率良く空室対策ができるでしょう。
他にも海外の不動産に投資している場合は、為替レートの影響で恩恵を受けられるケースもあります。
円安がマイナスに影響する理由
家賃収入への期待が高まる一方で、円安がマイナスに影響する例として支出増が懸念されます。円安において不動産投資をする場合、物価高への注意が必要です。
例えば部屋をリフォームしてから貸す場合、材料費の高騰によりリフォーム代が想像以上に高くなる可能性があります。消耗品の経年劣化など後回しにできないリフォームも多いため、安易に工事を諦めれば済む問題とはいえないのが悩みどころです。
管理会社に支払う手数料が値上げされる可能性もあり、家賃収入を得られていてもローンの返済に回せる額が減少するかもしれないので注意しましょう。
また、「都心の物件は家賃が高くて手が出せない」と考える人が増え、エリアによっては空室率が高くなる傾向も出てきます。
入居者も物価高によって家賃に回せるお金が減り、家賃滞納が起きる可能性もあるので、家賃の引き上げは慎重に検討しなければなりません。
円安の加速によって得られる不動産投資のメリット
不動産投資では、円安の加速によってさまざまなメリットの恩恵を受けられます。
ここでは、円安の加速によって得られる不動産投資のメリットを解説します。
不動産の資産価値上昇が期待できる
円安の加速によって、不動産の資産価値上昇を期待できるメリットがあります。
一般的に円安にともなってインフレも加速してしまうため、必然的に不動産価格が上昇します。
そのため、キャピタルゲインを目的とした不動産投資が有利です。円安が加速する前に物件を取得しているのであれば、家賃収入が見込めないと判断した場合は売却を検討するのもひとつの手段となるでしょう。
海外投資家の参入によって不動産市場が活性化される
円安の加速は、海外投資家の参入が増加します。
インバウンドの増加によって、日本の不動産投資を考える海外投資家が増え、不動産市場の活性化が期待できるでしょう。とくに観光地などはホテルの増加が予想されることもあり、北海道のニセコでは実際にリゾートマンションが建設され、大きな経済効果をもたらしています。
また、円安の進行によって海外企業が日本に拠点を構えだしています。円安が加速すればコストを抑えられるため、大型工場などの拠点を日本に建設する海外企業も少なくありません。
海外企業の拠点が日本国内に建設された場合、雇用の創出にも大きな影響があり、人口の増加などによって周辺不動産の資産価値上昇も期待できるでしょう。
円安によって懸念される不動産投資のデメリット
円安の加速によって、不動産投資が不利になるデメリットが生じる可能性があります。円安の影響を最小限におさえるためにも、不動産投資を始める前にデメリットの把握が重要です。
ここでは、円安によって生じる不動産投資のデメリットを解説します。
あらゆるコストが高額になりやすい
円安によって懸念されるデメリットのひとつが、コスト面の増加です。
円安にともなってインフレが進み、建築資材の材料費やエネルギーコストが増加。結果的に物件価格の上昇が懸念されます。つまり、物件購入時の初期費用はもちろんのこと、運用時に発生する修繕費用などの増加も懸念されるでしょう。
すでに不動産投資を運用しているのであれば、空室リスクを防ぐためにも修繕は欠かせません。そのため、円安は不動産投資に大きな影響を与えます。
また、円安の影響によって外国人労働者が不足してしまいます。今までは、日本円で稼ぐことにメリットのあった外国人労働者ですが、円安によってうまみが減り、雇用が難しい状況に陥ってしまうでしょう。
その結果、建設に携わる人材に日本人労働者を雇用する必要があり、建設コストの増加とともに物件価格の上昇も懸念されます。
今後の動向が分からない
円安の状況については、今後の動向が分からないのもデメリットです。
円安が進むと確約があればキャピタルゲインによる不動産投資が確実ですが、今度の動向は予測できません。
例えば、円安が進むと予測してキャピタルゲインを目的とした不動産投資を始めたものの、円高に転じてしまい、購入時よりも資産価値が低下してしまうケースも懸念されるでしょう。
急激に暴落する可能性もゼロではないため、キャピタルゲインを目的とした不動産投資にはリスクがともないます。
不動産投資ローンの金利上昇が懸念される
円安の加速を抑えるための金融政策の一環として、金利上昇が懸念されます。実際に住宅ローンの代表的なフラット35の金利は、2022年以降上昇傾向にあり、不動産投資ローンの金利上昇も予想されるでしょう。
しかし、不動産投資ローンの金利上昇は、不動産投資において大きなマイナスポイントです。
不動産投資家の多くはローンを利用して物件を購入するため、金利上昇によって返済額が増加しています。返済額の増加は利回りの低下にも影響を及ぼし、投資回収期間の長期化や収益性の縮小が考えられます。
円安によるマイナスの影響を抑えるポイント
ここでは不動産投資において円安によるマイナスの影響を抑えるコツを解説します。
影響を最小限に抑えて、むしろ円安のメリットを得るためにも対策を学んでおきましょう。
キャピタルゲインよりインカムゲインを狙う
不動産投資におけるキャピタルゲインとは不動産の売却による利益のことです。円安においては不動産価格も含めて高騰する傾向にあるため、一見すると売却によるキャピタルゲインを狙った方が良いと感じるかもしれません。
しかし、不動産を取得したときより確実に資産価値がプラスになっているとは限らず、場合によっては円安でもマイナス収支になってしまうことがあります。無理にキャピタルゲインを狙うより、徐々に資産を成長させていくインカムゲインを狙った方が効果的なケースが多いのです。
インカムゲインとは、家賃収入を得て長期的な利益を得る手法です。円安により変化した入居者のニーズに対応できる物件であれば、空室リスクを抑えられます。
円安でも円高でも「住む場所」は必ず必要であることを考えると、時代のニーズに合った不動産投資物件を選ぶことが重要だとわかります。不安定な時代こそ安定収入を得ることにシフトすることがポイントです。
買いやすい物件を狙う
円安における不動産投資では、買いやすくニーズが高まりそうな物件を取得することが大切です。
東京23区内・駅チカ物件・築浅物件などいわゆる「好条件の物件」は、外国人投資家など一部の富裕層による購入が増加します。物価高の影響も受けて価格が吊り上がり、「手が出ない」と感じるかもしれません。
無理をして取得しても、円安中は高額な賃貸に住む人の割合が少なくなるおそれがあります。「条件が良い物件なのに空室率が高い」という思わぬ落とし穴に陥ることもあり得るので、本当に今買うべき物件なのか慎重に判断することが必要です。
物件の取得費用が高いと、その分管理費・共益費・固定資産税などのランニングコストも高くなります。ローンの返済プランに悪影響が出るおそれがあるため注意しましょう。
円安下では郊外にある比較的手の届きやすい物件や非公開物件など、安く購入できて今後ニーズが拡大する可能性のある物件を探す方が効率的です。
なお、ゼロ金利政策が続いている昨今、住宅ローン金利だけでなく不動産投資ローン金利も長期的に低く抑えられています。日銀総裁の任期が2023年4月までであり、今後の金融政策について正確な予想を立てるのは難しい状況です。そのため低金利を活用した不動産投資を始めるなら今が理想といえます。
物件価格の低下を待って機会を逃すより、現段階で手の届く物件を低金利のうちに取得しておいた方が、トータルで多くのメリットを得られるかもしれません。
なかには円安に合わせて不動産投資を始める人をサポートしてくれる不動産会社もあるので、「物件選定時に円安の影響を懸念している」と伝えてみましょう。専門家から情報収集することで、効果的な不動産投資ができるかもしれません。
まとめ
円安の影響によってインフレが加速、物件価格が上昇することで「今は不動産投資を始めるタイミングではない」と考える方が多いかもしれません。
円安の影響によってコスト面の増加が懸念されるのは事実ですが、資産価値の上昇、家賃のアップ、市場の活性化などさまざまなメリットも持ち合わせています。円安が進む現代で不動産投資を成功させるためには、影響やメリット・デメリットをしっかりと把握して、時代にあったニーズを予想することが大切です。
資産価値の上昇を予想して、むやみに売却益(キャピタルゲイン)を狙わずに長期保有によって運用益(インカムゲイン)を狙ったり、インフレ対策として取得しやすい物件に焦点をあてるのがよいでしょう。
アセットテクノロジーは、不動産投資における管理業務全般をサポートいたします。オーナー様の手間を最小限に抑えながらも、入居者の満足度アップに努め、入居率アップを実現します。円安の影響を抑えるためにも、入居率アップの施策は欠かせません。
円安の影響を抑えた安定的な不動産投資をお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。