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人生を歩んでいく中で様々な、いわゆる「入り口と出口」に遭遇する機会が多くあります。幼稚園の入園と卒園、学校における入学と卒業、会社における就職と退職、そして結婚と離婚。日常生活においても駅の入り口と出口、その他枚挙にいとまがないほどの入り口と出口を体現している訳です。
人生における大きな代表的な買い物としては車が挙げられますが、まさに高額商品購入の入り口と言えます。
車の場合は幼少の頃からの憧れとか本当に心の底から欲しいという心理の延長線上にある買い物です。しかし車は古くなれば廃車となり売却とか処分という出口を迎える訳です。では不動産の場合はどうでしょうか。
不動産の場合はもちろん欲しいという感情が購入に作用するのは当然ですが、そういう気持ちになる事自体が入り口の第一歩なのです。いかんせん高額な買い物ですので、そこには諸条件・買い時のタイミング・決断力など様々な要素が求められる訳です。
今回のコラムでは不動産購入における入り口と出口について様々な角度から述べてみたいと思います。
不動産の買いのタイミング(入り口)とは
不動産の入り口、つまり不動産購入を検討する際にあたっては「二つのタイミング」が大切と考えます。
「実家を出て自活する」「結婚を機に家が欲しい」「子供の成長に合わせて広い住宅が欲しい」「老後に備えて投資用としてマンションが欲しい」など、これらは全て検討者本人のタイミング・入り口と言えます。また経済の面から見た「個人的な買い時」について述べてみたいと思います。
筆者は定年後は住宅ローンの支出がない経済生活設計を奨励していますので、筆者が言うところの「購入適齢期」は、「定年退職までに住宅ローンが完了」する事を逆算した年齢です。
例えば35年の住宅ローンを組み65歳が定年とすると30歳に購入、70歳まで働くとすると35歳に購入で定年までにローンが終了します。また20年返済にする場合は、65歳完済なら45歳が購入期となります。これはあくまでも一つの目安ですので、頭金は少なくても長期のローンを組む方や頭金を多く貯めて短めのローンを組む方など、ローンの期間や返済方法などは様々です。また退職金等で現金購入するシニア層などを除いて多くの方が住宅ローンを組んで購入しますので、金融機関からの「信用力」がある時が買い時と言えます。
ここで言う信用力とは「勤続年数」、ローンの返済にふさわしい「年収」、それから絶対条件ではありませんが団体信用生命保険に加入できる「健康状態」などが挙げられます。
二つ目は「市場のタイミング」です
住宅ローン金利・住宅税制・さらに今後の経済状況がデフレに向かうのかインフレに向かうのか、まさに経済・不動産市場の要因も一つのポイントとなります。
不動産価格が下落するデフレ期においても多くの方が住宅を購入されました。価格が下落基調の中で購入する事はとても勇気のある事です。それはまさしく冒頭に述べた個人的な買い時のタイミング・必要時がマッチングしていく過程の中で不動産購入における入り口が形成されていく訳です。
購入する時の妥協すべき点は
買いのタイミングの中で大切なキーワードは、様々な条件や要望などについて「妥協すべきか否か」という点です。その問題点が解決できずなかなか購入という入り口にたどり着けない方は実際に世の中に多くいらっしゃいます。
住宅購入に踏み切れない多くの方の共通点としては、
(1)あまりにも慎重過ぎる
(2)リスクに対する意識が高すぎる
(3)妥協できない点が多々ある、などが挙げられます。
筆者が講演の中でもよく述べる事の一つに、住宅購入は自分が買える時に「80点の評価」が得られる物件を買えば合格ですよ、と述べています。
足りない20点については将来の買い替えなどでカバーできるからです。とりあえず購入できるものを購入しておくという考え方も大切です。
多くの物件の中でもし100点満点の物件があったとしても、好条件のため価格が高い場合があります。不動産は条件が良い程価格も高くなりますので、予算に糸目はつけないという方以外は優先順位を付けて、その8割がマッチすれば、良い物件と言えます。
不動産購入の出口
不動産における「出口」とは長年住んだ、あるいは貸した物件を売却する事です。
不動産業界には昔から「売り場短し買い場長し」という格言があります。購入する入口の部分で成功を遂げても、出口(売却)において成功できない方も多々いらっしゃいます。
居住用不動産と投資用不動産とでは、その考え方は異なります。
今の不動産居住用のマーケットにおいては3つの層に分類されます。
A 近年より住宅購入を検討していたが、あまりにも価格が上がりすぎて購入を断念した方
➡ このような購入を断念した方々が賃貸に長く住まれますので、家賃の上昇に拍車がかかるという皮肉な状況が招かれています。
B 幸い価格上昇前に住宅を購入して一定の値上がり幅(キャピタルゲイン)を得たが、買い替え先の物件も同様に上がっているので、より広い住戸には手が届かなくなった方
➡ 自分が購入した住宅が値上がりすれば当然嬉しいのですが、それと同等、もしくはそれ以上に購入したい住宅が値上がりして、むしろ買い替えのチャンスが遠のいてしまったという方々は居住用住宅を検討する中でとても多い事例と言えます。
つまり入り口と売却という出口が成功しても新たな入り口で失敗するという事例がいかに多いかという事です。投資や資産運用目的で購入する方はあえて売却する必要性がなければいわゆる絵にかいた餅になりますが、自己所有物件の資産価値が上昇すればその「幸福感」を味わえる訳です。
C 運よく希望物件が購入できたが、その後、経済・不動産市況の下落により資産価格が元値を割ってしまったケースです。
例えば2015年に50㎡の2LDKを5,000万円で購入しました。10年後、価格が2割下がり4,000万円に下落しました。ところが10年前に元々手が届かなかった70㎡の3LDKで7,000万円だったマンションも10年後に20%下落して5,600万円になりました。
10年前は2,000万円の乖離がありましたが、お互いに下落してくれたので5,600万円-4,000万円=1,600万円の差と、むしろ希望物件がより近づいてきてくれた訳です。このケースでは入り口で成功し、出口で失敗しましたが、新たな入り口ではむしろ成功に近づいたという事例です。
不動産の値動きは時代によって変わっていきますが、必ずしも資産価値が上がればいいという単純な話ではないという事例です。
千代田区のマンション転売規制とは
現在、千代田区長の発案により、区内のマンションの転売規制が世間の話題を呼んでいます。これは区長が一部の再開発などによって建設された新築マンションの転売を5年間禁止する事を不動産協会に要請したものです。
千代田区を始めとする都心エリアのタワーマンションは投機的な購入が増加し、しかも購入している方の半分近くが外国人という問題点が発生しています。その結果価格や賃料が大きく上昇し、区内に居住したい方が住めないことが問題視されています。
筆者は全国の主要都市で多くの講演をしてきましたが、特に東京や大阪など大都市圏のタワーマンションにおいてはマンション購入セミナーの参加者の中で近年外国人の方々がとても増えてきたというのが感じるところであります。実は日本に限らず海外、例えばマレーシアにおいては政府が海外のマネーの流入を促した結果、特に中国から大量の投資マネーが流入しマレーシア国民が住宅購入できないという問題が今から4年前にクローズアップされました。当時の解決方法としては外国人投資家が購入できる物件は一部の高額物件に限定されました。そして国民が購入する場合には政府から一定の住宅資金支援が行われました。マレーシアに限らずフィリピンなど主に東南アジアの諸外国においてこのような動きが見られました。
マンション転売規制のポイントとは
今回のこの問題については筆者は3つのポイントがあると考えています。
一つ目はそもそも外国人投資家が日本、特に東京・大阪都心のマンションをなぜ狙い撃ちにするのでしょうか。これはアベノミクス以来続いている金融緩和政策(現在においては多少金利は上昇傾向となってきましたが)、東京・大阪自体のアジアにおける都市の魅力が再開発等の影響で年々高まっている事、円安である事もあり、また日本の住宅価格が世界の大都市と比較して安い事もあり、世界の投資資金が東京・大阪などのタワーマンションなどに集中している事が挙げられます。
二つ目のポイントとしては2025年8月25日、中国大手不動産会社「中国恒大集団」が上場廃止となりました。この背景には中国の住宅市場は日本と違って手付金・中間金・最終金を完成前に支払うシステムとなっており、販売の不調や引き渡し時期の遅延などの理由でユーザーが背中を向ける状況がここ数年続いています。この販売システムにおいては中国の当局がメスを入れた事が発端と言われています。
つまり中国における富裕層が中国不動産市場から日本の不動産投資市場に目を向けた事が大きなターニングポイントをなっています。
三つ目のポイントとしては、この自由主義社会においては国民には「財産権」という権利が付与されている事です。
つまりいつどこでだれがどこのマンションを買おうが、基本的には自由な訳です。
諸外国の事例を見てみると、不動産購入について様々な規制があります。
このようにマンション転売規制はとてもハードルが高く、もしできるとすれば大手デベロッパー加入の不動産団体の自主規制か税務上の規制も考えられますが、一筋縄ではいかないと予想されます。
将来の出口のための不動産投資戦略とは
それでは将来の売却益を上手に得るためにはどのような不動産投資戦略が必要でしょうか。
その究極のキーワードは、「ズバリ多極分散投資」です。例えばAさんは一度に都心型タワーマンションの80㎡を1部屋買いました。
Bさんは同じ都心エリアですが、場所を変えて40㎡のマンションを2部屋購入しました。
多くのユーザーはご自身が購入された物件が値上がりしたら嬉しい訳です。例えば80㎡のマンションを8000万円で購入し、5年後1億円で売りました。
2,000万円というキャピタルゲインが得られましたので、出口戦略としては成功と言えます。
しかしその後、1億円で売却したマンションが、結果論ですが1億2000万円、4000万円と値上がりしたら、残念という気持ちも残るかもしれません。
しかし40㎡のマンションを2つ購入して値上がりした時に、とりあえず一つ「利益確定」として売却し、残りの1戸は所有して市場の行方を見守るという事もできます。
残りの1部屋が上がれば嬉しいですし、もし値下がりしても利益確定した資金で買い戻しも可能です。
税制上の売り時は
売りのタイミングとしては税制上における短期と長期の仕分けも大切です。マンションを売却して譲渡益が出た時は譲渡所得税がかかります。譲渡所得は売却益から特別控除や購入費や費用などを引いた金額です。同じ2000万円の譲渡益でも下記のように5年以下、5年超えとでは課税される譲渡所得税に大きな差異が生じます。
マンション売却の譲渡所得税
所有期間 | 所得税 | 住民税 | 合計 |
長期譲渡所得(5年超) | 15% | 5% | 20% |
短期譲渡所得(5年以下) | 30% | 9% | 39% |
不動産市場動向から見た売り時とは
また特に投資用のマンションにおいては「資産効果」が大きな影響力を与えますので、まさに日経平均株価の行方は極めて重要なファクターをなります。つまり株価が上がれば潤沢な資産を有する投資家が増え、住宅の購入能力も上がるからです。
人間の心理としては株にしろ不動産にしろ、全てを一旦手離すという考え方、また実行する方がいますが、断捨離・取捨選択という思考のもと、優良株、優良不動産だけは手元に残しておきたいという心理が働くのも理解できます。
先ほど不動産購入は80点が合格と述べましたが、まさに100点満点の超優良不動産は一般的には不動産市場には出回りません。超一等地の超優良物件は、信託銀行系の不動産会社を通じて超優良顧客にその所有権が移るケースが多々あります。
このように不動産の購入、売却においてはいい意味で「アバウトな思考」が求められます。
それでも不動産投資は一定の「戦略」に基づいて推し進める事が極めて重要と考えます。今後買いのタイミングで有望なエリアは東京では東京駅、丸の内、に近い東京東側エリア、田町、品川、川崎など空港に近い、海に近い、鉄道交通アクセスの進展が見込める城南エリア、関西においては東京と比べてまだまだ価格において出遅れ感のある大阪都心6区エリア、関西万博で注目度が急上昇中の大阪西エリア、などが挙げられます。
このようなエリアの優良不動産、「コンパクト・タワー系」などが注目に値します。
以上今後のマンション購入に関しましては入り口の部分であまり高いハードルを設定せず、出口においても最高のピーク時に売却するのは不動産のプロでも至難の業と言えますので、程々の価格で売れたら良しとする、ある意味寛大な気持ちが大切です。
今後の皆様の参考にして頂ければ幸いです。