アルヒ・アプラスによる不正融資問題を振り返る

住宅ローン融資会社アルヒと、新生銀行系の信販会社アプラスによる不正融資問題をご存じでしょうか。両社が手掛けた投資用マンションの融資に関して、審査書類の改ざん疑惑が浮上し、マスコミ各社や監督省庁が動き出すまでの問題になりました。 そこで今回はアルヒ・アプラスによる不正融資問題について、現在までの調査過程や事件の裏側、真相をお話しします。

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アルヒ・アプラス不正融資問題とは

住宅ローン融資会社アルヒと信販会社アプラスが提携して、投資用マンションローンを提供していました。アルヒが融資の窓口となって、実際はアプラスが融資や審査を行います。しかし、融資を担当するアプラスは、販売業者が物件価格を水増しして、物件価格が担保評価を大きく上回る場合でも融資を行っていました。

アプラスの融資に対してアルヒが、フランチャイズ店社員に融資の審査書類である源泉徴収票や課税証明書の改ざんを指示していたり、第三者が改ざんしたのを知りながら取り次いでいたりした疑惑が浮上しました。

表面化している改ざんの例は一部に過ぎず、実際は相当数にわたって「書類の改ざん」がありました。「アルヒ・アプラス不正融資被害者同盟」が立ち上がり、当方は同同盟においてマスコミ各社への広報的な役割を担いました。

被害者の実態を調べたきっかけ

2019年4月中旬頃、当初は投資家からの依頼で「知人が不動産ブローカーに言葉巧みに騙されて、投資用マンションを購入したが、書類の内容がどうもおかしい。調べてくれないか」という相談がありました。

投資用不動産への不正融資をめぐっては、2018年からの「スルガ銀行問題」や「かぼちゃの馬車事件」が既に表面化していた時期です。

当方は事実関係の確認を行い、専門家に見解を聞けば終わるような内容だろう、と考えていました。同時に「騙される方も悪いのではないか」「不動産を買う際に収入などを偽って記入したのだろう」と「改ざん」とまで言える内容ではないと考えていました。

「改ざん」ではなく「〇〇」だった

某ジャーナリストを介して、被害に遭った「被害者A」と会うことに成功し、「改ざんされた書類」を見て驚愕しました。

偽りの内容を記載したというレベルではなく、不動産購入を勧めてきたブローカーがアルヒ・アプラスとの間に介在して、「源泉徴収票」や「課税証明書」を偽造していたことが判明したからです。「改ざん」ではなく「犯罪(公文書偽造)」だったのです。

重大な犯罪の事実があったため、単なる調査では済みません。クライアントの許可の基、マスコミ各社への情報提供と警察へ被害届を提出するように勧めました。

明らかに改ざんの証拠となる書類を入手しても、一方の主張に過ぎず、双方から話を聞かなければなりません。加えて、1人の被害者だけでは証拠として弱いため、さらに被害者から話を聞く必要がありました。

ブローカーの真相は闇の中に

販売した関係者全員に接触しても、誰も真実を話しません。問題の不動産ブローカーに至っては、連絡を取ることすら出来ませんでした。

証拠が明白であったのと、決済に立ち会ったメンバーの対応が芳しくなかったため、アルヒの担当者の上司にあたる支店長、さらにはその支店を運営する運営会社の社長にも事実を突きつけました。

一同に「社内では改ざんに一切関与していない」という回答でした。問題のブローカーとはコンタクトが取れないため、真相は闇です。

しかしこの「社内では改ざんに一切関与していない」という言葉自体に懐疑心を抱きました。関与していないにしても「改ざんした事実に気づいていて目をつぶった」のではないかと。

不自然と感じたのは以下の3点です。

1.この取引で使われたのは「アルヒ川崎店」で、物件住所や被害者の住所、販売した不動産業者の住所にまったく脈略がない(全国に支店があるのだから本来最寄りの支店を使うはず。特別に癒着の関係があるのでは)

2.そもそもの不動産価格が相場の倍価である(不動産業者、金融機関ならひと目見ただけでわかる)

3.審査は書類のみで電話での本人確認などを一切行っていない

「巧みな細工」が不正の追求を阻止

被害者Aは刑事告訴する決意をしていました。アルヒとアプラス自体が「書類の改ざん」に関与した証拠は見つけられませんでしたが、ブローカーの犯罪の証拠は十分にあったためです。

しかし「私文書偽造」「公文書偽造」「詐欺」で告訴しても、「刑事告訴状」は受理されませんでした。理由は多々ありますが、被害者が本当の被害者であるかが焦点だったためです。

ブローカーに騙されていたことが事実であっても、金融機関から見れば「ブローカーと共謀して金融機関を欺いた」と取られてしまいます。事実、ブローカーの小細工は巧みでした。

例えば、本契約が締結した後、すぐにブローカーは収益を得られます。その収益から「最初の1ヶ月分の引き落としは家賃収入より先だから」と言って、被害者Aの口座に2ヶ月分の家賃を支払っていました。確かにこの事実は、見方によっては単なるキックバック(共謀)とも取れます。

悔しいことに、納得しなければならない部分が多くあります。しかし、刑事告訴は断念してもアルヒ・アプラスの不正は今後も追求できます。

被害者がたくさんいたのは事実で、マスコミ関係者や法曹界も本件にはずっと注目していました。そして、本件の事態が大きく動きだしたのは、2019年が明けてからです。

【アンケート】A氏が束ねる被害者の声

A氏は、独自のルートで詐欺被害に詳しい、A弁護士に民事紛争の委任をしていました。A弁護士の下には全国から被害者が集まっています。「かぼちゃの馬車事件」「ジュピタープロジェクト」など、詐欺被害救済の弁護を数多く手掛けてきた実績からでしょう。

当方には、いままでの調査内容を共有してほしい旨を依頼されました。当然、クライアントであるA氏が許可しているので問題ありません。この時の調査レポートこそが現在にもつづく、本件の基となっています。さらに当方は、A氏が束ねる被害者からアンケートを取ることができました。

被害者方への質問内容

 

回答の一部を以下に抜粋します。

・30代男性、会社員「不正の兆しは掴んでいるはずなのにウヤムヤにしてもみ消そうとする企業姿勢に憤慨しています

・30代男性、会社員「決算前の株主に体裁よく見せるための独り相撲だとしか思えない

・30代女性、会社員「被害者がいるのに何をもって無関係と言えるのか教えて頂きたい

・50代女性、自営業「書類改竄の明らかな結果に対する回答が、ないことに驚いている。結果が出たら説明すべき

そしてこの問題が、ようやく本格的に扱われるようになります。最初に報じたのは2020年1月27日の日本経済新聞電子版で、即日「アルヒ」はIRで弁明しました。

まとめ

アルヒ・アプラスによる不正融資問題は、すでに2人が自己破産を申し立て、ほかに3人が申し立て手続きをする事態にまで広がっています。A弁護士によると、さらに自己破産者が増える可能性もあり、法的手続きを視野に入れて現在も調査中とのことです。

同様の問題に遭わないためにも、知識を身につけて、融資会社選びには気をつけてください。当方の本件調査記事が、被害者の方々や、融資を受けようと検討している方々のお役に立てればと存じます。