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【2023年10月改正】ふるさと納税制度の改正内容
ふるさと納税制度とは、応援したい地方自治体を選んで寄附をすると、翌年に税金控除が受けられるお得な制度です。ふるさと納税制度は年間を通していつでも利用でき、何度でも寄附ができます。
また、各自治体で生産された魅力的な返礼品をもらえるのも魅力です。返礼品は地場産のおいしい食べ物から特産の工芸品、生活に役立つ日用品、雑貨、家電と多岐にわたり、節税に役立ちます。
多くの納税者が楽しみながら利用する制度ですが、ふるさと納税制度は2023年10月に大きな見直しが行われました。
ふるさと納税制度の改正点は、次の二つです。
・募集適正基準の厳格化
・地場産品基準の厳格化
納税者にとっても影響があるので、改正内容を詳しく解説します。
改正点1.募集適正基準の厳格化
ふるさと納税制度では、地方自治体が使える必要経費は寄付金額の5割以下、返礼品に関連する費用は寄付金額の3割以下とするルールがあります。今回改正されたのが、いわゆる「5割ルール」と呼ばれる基準の厳格化です。
改正前までは、自治体が負担すべき必要経費は以下の項目とされてきました。
【改正前の経費】
・返礼品の調達費用
・配送料
・広報費用
・寄附金受領証の発行
今回の改正では必要経費の項目が見直され、以下の通りに変更されました。改正後に地方自治体が負担する経費の項目は増加しています。
【改正後の経費】
・返礼品の調達費用
・配送料
・広報費用
・寄附金受領証の発行
・発送費用
・ワンストップ特例事務の費用
・その他の付随費用
・仲介サイト事業者への手数料
含まれる必要経費の項目が増えた分、地方自治体は返礼品の価格調整や品質の見直しをする必要に迫られています。
改正点2.地場産品基準の厳格化
ふるさと納税で地方自治体が提供する返礼品は、地域で生産された「地場産品」とするルールがあります。今回の改正では、返礼品のうち熟成肉と精米の基準が明確に示されました。
これまでは特定の基準がなく、他の地域で生産された米や輸入肉でも、一定の条件を満たせば返礼品として提供されてきました。ですが、次の条件が追加されて、改正後は肉や米の返礼品が厳しく制限されています。
【改正後の条件】
・返礼品の熟成肉や精米は、原材料が同じ都道府県産とする
・地場産品と他の地域で生産された品物をセットとして提供する場合は、地場産品の割合を全体価格の70%以上とする
返礼品として提供する加工品は、主要な工程を自治体内で行っていることとされています。工程の詳細はふるさと納税のポータルサイト上に明記されているので参考にしてください。
ふるさと納税が改正に至った背景
ふるさと納税が改正されたのは一部の自治体に寄付が偏り、税収のバランスが崩れている状況を是正するためです。返戻金によって住民からの税収が少なくなる状況が続けば、財政悪化は避けられません。
ふるさと納税の制度の目的は人口が多い都心部の市区町村から田舎へ資金を移動させ、自治体間で適正なバランスを保つことです。地方都市の税収が増えすぎている現状は格差を是正するという本来の目的からかけ離れた好ましくない状態だといわざるを得ません。
施行後に散見されたのは、寄付金額に占める5割以上の割合を経費に算入している事例です。5割ルールで計上できる支出の範囲が明確ではなく各自治体の判断に委ねられたために生じた状況です。
以上を踏まえて、2023年10月に行われた改正ではルールの厳格化に焦点が当てられました。自治体の地域外で生産された返礼品を対象外とみなすのも各自治体の裁量に委ねられる部分を極力取り除いて、制度の健全化に努めるためです。
ふるさと納税制度の改正による影響
私たち納税者にとってのふるさと納税制度の改正による影響は、次の通りです。
・寄付金額が増加する
・返礼品の質・量が低下する
・返礼品の選択肢が狭まる
それぞれを詳しく解説していきましょう。
影響1.寄付金額が増加する
今回の改正によって影響を受けるのが寄付金額の増加です。改正前は経費に含まれる項目が少なく、その分少ない寄付金額でも返礼品を提供できていた経緯があります。
ですが、改正によって項目が増えたため、次の影響が生じています。
【改正前】
・10,000円の寄付をすると、牛肉1kgを返礼品にもらえる
【改正後】
・12,000円の寄付をすると、牛肉1kgを返礼品にもらえる
返礼品のグレードを維持しようとすると寄付金額が上がるため、納税者にとってはお得感が下がります。
影響2.返礼品の質・量が低下する
改正後に寄付金額を据え置く場合、自治体としては増えた経費の分だけ返礼品のグレードを下げる必要があります。
【改正前】
・10,000円の寄付をすると、牛肉1kgの返礼品がもらえる
・10,000円の寄付をすると、A5ランクの牛肉1kgを返礼品にもらえる
【改正後】
・10,000円の寄付をすると、牛肉800gの返礼品がもらえる
・10,000円の寄付をすると、B5ランクの牛肉800gを返礼品にもらえる
返礼品の質や量を下げるかは、自治体の判断次第です。ですが、従来の返礼品と比較すると、納税者にとってはやや物足りないと感じるかもしれません。
影響3.返礼品の選択肢が狭まる
これまで返礼品のなかでも肉と米は人気が高く、様々な種類が提供されていました。ですが、今回の改正で地場産品の条件が厳しくなったため、自治体で提供できる返礼品のラインナップが減少しています。
自治体産の明記が必要となり、基準に満たない返礼品が提供されなくなったことで、納税者にとっては寄附できる機会が減少しています。自治体独自の面白い返礼品がなくなる可能性もあり、自治体が得られる寄附金額も今後減少すると予想されています。
不動産投資は控除限度額に注意
ふるさと納税では、自己負担額の2,000円を控除した後の金額が自治体に対して支払う所得税や住民税から控除されます。不動産投資の場合は控除限度額が通常と異なるため、留意してください。
原則上の取り扱い
ふるさと納税の控除限度額は総所得金額等によって異なります。原則的な扱いは課税対象所得の30%〜40%だと捉えましょう。累進課税の仕組みがある日本の所得税は所得の金額に応じて税率が変動します。
例えば年収300万円、独身または共働きで扶養者がいない人の控除限度額は28,000円です。
扶養控除をはじめ、住宅ローン控除や医療費控除の対象とならないと仮定しての金額です。
控除上限額の範囲内であれば、以下の計算式で算出された金額が控除の対象です。
- 所得税の控除:(寄付額-2,000円)×ふるさと納税対象者に課される税率
- 住民税の控除(基本分):(寄付額-2,000円)×10%
- 住民税の控除(特例分):(寄付額-2,000円)×(100%-10%-所得税の税率)
ふるさと納税の控除限度額は年収や家族構成、利用可能な控除の種類などさまざまな事情が絡み合って決定します。控除を期待して寄付したのに上限を超えて制度を利用できなかったことがないよう、上限額の目安を把握することをおすすめします。
不動産投資がある場合
本業に加えて不動産投資による所得がある場合、赤字でも黒字でも控除上限額が変動します。端的にいえば不動産収入を合算した結果として限度額は上がり、損失が出れば課税所得が減少して、限度額も小さくなります。
赤字の場合元々ふるさと納税を上限額に近い水準で行っていると、不動産運用の損失を考慮した結果、制度の恩恵を受けられないはみ出し分が発生する可能性があります。
所得税の申告や納税では所得の種別を超えて、赤字と黒字を合算して課税対象所得を減らす「損益通算」と呼ばれる制度があります。給与所得が800万円、不動産運用の赤字が300万なら税率が課せられる所得は800万-300万の500万円です。
損益通算を活用すると所得税や住民税の額を抑えられる反面、ふるさと納税の上限額は下に移動する点に気を付けましょう。
不動産投資家がふるさと納税を始めるメリット
本業以外に不動産収入がある人がふるさと納税を始めると、控除限度額が上昇し、寄付金額の多くを税金の減少に充当できます。収入が増えて寄付にあてる十分な資金源を確保して、返礼品の選択肢が増える利点も見逃せません。
不動産投資家とふるさと納税は相性が良いといえるでしょう。具体的にどのようなメリットがあるか詳しく紹介します。
控除金額が大きい
課税所得に不動産運用の収入を加えた結果、控除限度額が上昇して所得税や住民税の減少効果が高くなります。本業以外に収入のあてがない人と比較して、ふるさと納税の上限額に生じる差異を算定しました。
給与収入の400万円のみが控除対象額となる配偶者がいるサラリーマンの限度額は33,000円です。一方、給与に上乗せして200万円の不動産所得(経費控除後の金額)がある人の場合、限度額は69,000円です。当初と比較して、2倍以上の寄付額を控除に丸々充当できてお得感が高まります。
なお給与収入が400万円の人が不動産投資で100万円の損失を出した場合、ふるさと納税の限度額は19,000円です。
選べる返礼品の種類が豊富
利益が出た時のリターンが大きい不動産投資家は、上限の範囲内でさまざまな返礼品を購入できます。今回の改正で地場産品の対象品目は少なくなったとはいえ、資金的に余裕がある人ならば、厳正な基準を満たす数多くの魅力的な商品から選び放題です。
ふるさと納税は限度額の範囲内であれば一律で2,000円の自己負担が課されます。10,000円拠出して8,000円の税額控除を受けるか、3,000円の返礼品で1,000円だけになるか、どちらがお得かは明白です。
寄付できる金額が大きい高額所得者の方が恩恵を受けられる制度です。収入が高い人は10万円以上の高額な返礼品を購入しても上限の範囲内で目いっぱい税額控除の対象となります。
欲しい返礼品がお得か判断する重要な指標が、還元率(=市場価格÷寄付金額)です。20%を超えると市場価格との乖離が少なく、拠出金の全額控除効果も相まって、制度を賢く活用できているといえます。
不動産投資家がふるさと納税を行う際の注意点
不動産投資家にとってふるさと納税はメリットが大きく、積極的に活用したい制度なのは間違いありません。ただし仕組みや申請方法の知識が曖昧だと税額控除を存分に利用できない場合があります。不動産投資家がふるさと納税を行う前に確認すべき事項をまとめました。
納税する税金が減るのだと勘違いしない
ふるさと納税で寄付金を拠出しても税金が減るのではありません。居住地域の自治体に納める住民税や所得税は減少しますが、その分返礼品の購入費用を投じています。
支払った費用が増えれば控除金額も増えるという半ば当然の理屈で、住宅ローン控除や医療費控除などのその他の制度と根幹は変わりありません。
「節税になるから」という理由でふるさと納税を始めるつもりならば、正しい理解とは異なります。とはいえ購入費用の一部が税額控除の対象となり、お得なのは確かです。控除金額が大きくなるにとどまり、税金が減るのではないと捉えましょう。
ワンストップ特例が利用できない
不動産投資で安定的に収益を挙げている人は、申告をせずにふるさと納税の控除を受けられるワンストップ特例を利用できません。
本業以外で年間20万円以上の所得がある場合、年末調整とは別に、自ら管轄の税務署に確定申告をして申告書の提出と所得税の納付を済ませなければいけないからです。
ワンストップ特例制度の利用対象者は次の通りです。
- 本業以外に申告する所得がないサラリーマン
- ふるさと納税以外に利用する控除がない人
- 年間の寄付先が5自治体以内の人
上記に当てはまれば、郵送またはオンラインで申請の手続きを済ませるだけで上限の範囲内で寄付金から2,000円を控除した金額が全額所得控除になります。
リターンが大きい不動産投資で安定した収益を確保している人は、基本的に確定申告が必要です。
1月1日〜12月31日までに発生した所得を翌年の2月中旬から3月中旬に申告する際に、ふるさと納税の控除も合わせて受ける必要があります。
事業的規模を超えると就業規則に抵触する可能性がある
不動産投資は副業には該当せず、副業禁止規定の会社でも問題なく始められます。しかし投資対象の物件が多く事業にあたる規模に達しているケースは例外です。
具体的には一軒家で5軒以上、アパートやマンションの1室を10件以上運用している状況が該当します。
個人が資産運用の一環で家賃収入を得るのは許容しても、事業とみなす程スケールが大きな場合、勤務先は「本業に支障が出そうだ」と考えます。
就業規則で禁ずる副業の定義に当てはまり、会社の許可を得ずに日常的に投資に取り組む従業員に対して、ルールに基づき懲戒処分が下される可能性があります。
臨時所得が50万円を超えると課税対象になる
ふるさと納税を利用する際には控除限度額以外に、一時所得の非課税枠の範囲に収まるかどうか見極めが必要です。一時所得の一種である臨時所得は年間50万円を超えると課税対象になります。
寄付先から受け取った返礼品は労務や資産の提供がない非対価性の所得として一時所得の一種です。他にも宝くじや福引の賞金、生命保険の一時金、競馬や競艇の払い戻し品なども対象に含まれます。
すべての臨時所得を合算して50万円を上回ると超えた分につき、所得税がかかります。返礼品以外に一時的な所得がある人は注意が必要です。
まとめ
2023年10月に行われたふるさと納税の改正によって、必要経費および返礼品の対象につき厳格な基準が採用されるに至りました。
拠出金の額に変わりがなければ、改正前と比べて返礼品のグレードが落ちる可能性があります。
とはいえ税額控除の恩恵が受けられるのは今までと同じです。多くの寄付金を拠出できる不動産投資家は2,000円の自己負担で多額の控除を受けられるお得な人です。
不動産所得も加味した控除上限額の変動に注意を払いつつ、賢く制度を活用しましょう。