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大阪市におけるワンルームマンションの供給エリアの変化について
筆者は2003年より大阪市内のマンションに関する講演や多くのコラムを執筆してきました。この20年間の間で大きく変化した事は、ワンルームマンションの供給エリアです。
少し前までは大阪都心6区(北区、福島区、中央区、西区、天王寺区、浪速区)、東京に例えると千代田区、中央区・港区・渋谷区・新宿区・品川区に相当するようなエリアの新築ワンルームマンションが多く供給されていました。
特に大阪のこれらの都心6区エリアは近年まれに見る大規模再開発、鉄道の延伸計画・新駅計画が一機に加速し街が大きく変化してきました。
コロナ禍においては地価の調整局面もありましたが、その後地価も上昇し、徐々に新築のワンルームマンションの供給が減少傾向となってきており、ここ数年ではあまり新築ワンルームマンションの供給が少なかった尼崎エリア、吹田エリア、岸辺エリアなどの供給も増加傾向となってきています。
新築のワンルームマンションデベロッパーにおいては今後の土地仕入れ計画において大阪市内だけではなく大阪府内に供給エリアを拡大しているのが現状です。
また大阪というと「キタ」と「ミナミ」というイメージがありますが、近年では「ニシ」エリアの供給も増えつつあり、投資エリアとして人気も高まりつつあります。
大型イベントの前後の市況について
東京五輪開催が決定したのは2013年でした、それからコロナの影響で1年開催年が先送りされました。当時巷間よく囁かれたのが、東京五輪終了後には東京の不動産市場が崩壊するとか大きく値崩れするとか、またそのような報道もよく目にしました(筆者は当時から東京五輪後のクラッシュはないと各方面でアナウンスしてきましたが(笑))。
実際東京五輪が終わった後も東京のマンションを中心とする不動産価格はむしろ上昇に拍車がかかってきた訳です。ではなぜこのような現象が起きたかと言うと、もちろん世界的な経済の潮流・日本における極端な金融緩和政策・円安・1960年代のインフラの劣化に伴う同時多発的な大規模再開発など多くの要因が重なった訳です。
しかし筆者はもう一つの要因として東京五輪の世界へのアナウンス効果が極めて大きかったと類推します。
つまり東京五輪を通じて世界中の子供たち、大人も含めた多くの方々が「日本はどんな国?どんな文化があるのか?」と多くの関心を持って頂き、それらの関心が醸成されそれが年間2500万人という莫大なインバウンドにつながっている訳です。
結果、インバウンドの増加により、商業施設を中心とした売上が上がる、⇒店舗賃料が上がる⇒地価が上がる⇒マンションを中心とした特に商業地域の不動産価格が上がる、という構図が出来上がった訳です。
それでは来年2025年開催される関西大阪万博の経済効果・不動産に与える影響はどうなるでしょうか。
関西万博により新たに生まれる需要とは
経済産業省の発表によると関西大阪万博の経済効果は全国で2兆9155億円と言われ、また大阪市でも経済効果が1兆6182億円に上ると資産され、大きなものがあります。
それは開催期間や施設の規模からして、納得できるかと考えられます。
関西万博のような大きなイベントにおいては、まず莫大な雇用を生み出します。
雇用が生み出されれば、その周辺に住宅ニーズが生まれます。来場者がいっぱい増えればホテルの需要が爆発的に増えていきます。多くの人が訪れれば商業施設の売り上げが上がり、それは大阪市内だけではなく、神戸、京都、和歌山はもとより、近畿圏においえる回遊も増えてきます。その経済効果は広域化していく事が予想されます。
今後ホテル需要が供給を上回る可能性が高く、それに伴い不動産投資業界における民泊の需要が拡大する可能性を秘めています。民泊においては各マンション・アパートなどにより規制が敷かれている例もありますが、一方一定のルールの下に民泊を容認する不動産も今後増えてくるかと考えられます。
例えば新築のワンルームマンションであれば、民泊業者が定期借家権を利用して期間限定で民泊需要をするとか、あるいはフロア限定で民泊を容認するとか、様々な動きが今後予想されます。民泊は一泊料金が比較的高く設定されているので収益物件としては魅力が高いと考えられます。
大阪市内における今後の賃料水準の動向について
現在新築のワンルームマンションですと、東京都内ではネット利回りで3.5%前後、大阪市内においては4%弱がスタンダードとなっています。
しかし地価の上昇・建築費の上昇などによりマンションにおける建築原価が上昇し、特に新築においては今年の秋以降も価格が徐々にですが強含みに推移していく可能性が高くなってきます。
賃料は不動産価格と違って一言で言うと「粘着性」が高く、しかも賃料相場はある程度広範なマーケット上で形成されていきますので、短期間に相場自体が大きく動く事は希です。という事はネット利回りは特に新築においては今後若干下がる可能性があります。
しかし中期的に見れば今年の春闘で大手企業を中心に賃金が上がり、また日銀の植田総裁も先般の会見で来年の春闘の賃金アップは期待したいと明言しています。
今後大阪市内においては、大手企業が多く集積する大阪都心6区、人気の御堂筋線、堺筋線、四つ橋線などの多く大企業が集積しているエリア・沿線においては特に「法人賃貸契約」を中心に来春以降、賃料が切り上がる可能性があると考えます。
つまり大阪市内においても賃料における優勝劣敗が今後鮮明化すると考えられます。
近年進化したワンルームマンションのスペックとは
ワンルームマンションの構造・スペックもここ10年の間に大きく変わってきています。耐震性能や建築性能のアップによって地震などに対する安全性が高まってきているのに加えて、デジタル時代に対応した様々な設備も増えてきています。その中でもスマートフォンを利用したIotが普及してきています。
もちろん物件によってその仕様は異なりますが、手持ちのスマホで照明やテレビ、エアコンなどの操作ができたり、また目覚めの時間に合わせて照明を付けたりする事が可能な仕様なども見受けられます。自宅外からの操作も可能となり帰宅前にエアコンをつけて部屋の温度調整をしておく事も可能となります。
さらにインターネットによるショッピングに対応した「宅配ロッカー」の設置も増えてきています。
マンションの安全性や快適に加えたこうした先進の設備が今後も普及していく可能性があります。
大阪都心エリアにおいてますます高まる中古ワンルーム
これは一つの参考ですが、2003年、今から20年前は東京都心3区における新築ワンルームマンションは東京全体のなんと約30%も占めていました。ところが昨年は都心3区には新築ワンルームマンションの発売がありませんでした。これは地価建築費の上昇とともに都心ではキャップレートがついて来れず、都心から遠ざかるを得ない状況になったからです。
ここで大切な事は東京と大阪の市場は同じスピードで動くのではなく、まず東京が先行する傾向となっている事です。東京のマーケットの変化が数年経過した後に大阪のマーケットで現れる可能性が高いと考えられます。つまり大阪市内においては現在においても都心エリアにおいて一定の供給戸数はありますが、今後は徐々に都心6区の新築の割合が減少していくと考えられます。という事は現在の新築のみならず、中古もその希少性・資産性がより高まる可能性を帯びていると類推されます。
大阪の地価・人口動向
マンション価格にも大きな影響を与える地価の動向を見てみましょう。2024年の基準地価(都道府県地価調査・7月1日時点)を見ると、大阪市の地価は住宅地で4.5%、商業地では10.6%もの大きな上昇となりました。
10年前からの地価変動率の推移を見ると、住宅地では微増が続き2024年にはここ10年で最も地価が上昇しています。また商業地では2019年に13.1%と大きく上昇しましたが2021年には新型コロナの影響もあり調整局面となり、2023年には5.5%と地価が回復しさらに2024年には10.6%と再び上昇率が10%となっています。
地価は新型コロナの影響を除けば上傾向が続いておりマンションの資産価値も上昇傾向にあると考えられます。
<基準地価>大阪市の地価変動率の推移
年 |
2014 |
2015 |
2016 |
2017 |
2018 |
2019 |
2020 |
2021 |
2022 |
2023 |
2024 |
住宅地 |
0.4% |
0.5% |
0.5% |
0.5% |
0.6% |
1.0% |
0.3% |
0.2% |
1.1% |
2.5% |
4.5% |
商業地 |
3.9% |
6.1% |
8.0% |
8.0% |
8.4% |
13.1% |
2.6% |
△2.0% |
1.7% |
5.5% |
10.6% |
<国土交通省「令和元年都道府県地価調査」>
ワンルームマンションの賃貸需要を考える上で、人口動向も重要です。特に大阪市へ転入してくる人口がポイントとなります。
大阪市は転入人口が転出人口よりも多い「転入超過」状態となっています。2023年の年間の転入超過人口は12,966人となり10年前の7,742人より5,000人以上も増加しています。
都市別の転入超過ランキングでは大阪市は2012年には全国で5位でしたが2023年には東京都区部に次ぐ全国第2位となっており、大阪への転入が相対的に増加している事が分かります。
人口が減少傾向にある中で転入超過となっている自治体は少なく、さらに全国第2位の転入超過人口の大阪市はそれだけ住宅需要も多いと考えられます。
転入超過人口
|
2012年 |
2023年 |
増加数 |
大阪市の転入超過人口 |
7,742人 |
12,966人 |
5,224人 |
<総務省「住民基本台帳人口移動報告」>
転入超過人口ランキング
順位 |
2012年 |
2023年 |
1 |
東京都特別区部 |
東京都特別区部 |
2 |
仙台市 |
大阪市 |
3 |
福岡市 |
横浜市 |
4 |
札幌市 |
札幌市 |
5 |
大阪市 |
福岡市 |
<総務省「住民基本台帳人口移動報告」>
ワンルームマンションの需要層となる単身世帯動向も重要です。国勢調査から単身世帯の動向を見てみると、2010年には大阪市の単身世帯数は62万2,010世帯で単身世帯割合が47.4%でしたが、10年後の2020年には78万4,785世帯と約16万世帯も増加、また単身世帯割合も53.6%と半数を超えました。
このように大阪市では単身世帯が大きく増加しており、好立地のワンルームマンションの需要も堅調に推移してきていると考えられます。
大阪市の単身世帯数の推移
|
2010年 |
2015年 |
2020年 |
一般世帯数 |
1,311,523世帯 |
1,352,413世帯 |
1,464,615世帯 |
単身世帯数 |
622,010世帯 |
657,205世帯 |
784,785世帯 |
単身世帯率 |
47.4% |
48.6% |
53.6% |
<大阪市「令和2年 国勢調査」>
大阪都心エリアのワンルームマンションの新たに生み出される顧客層とは?
大阪市内のワンルームマンションの購入者は近畿圏を中心とし、関東・中部・名古屋・を始め全国区となっています。しかしこれからは日本を通り越して香港・台湾などアジアの中心的な市場からも顧客が増えると考えられます。
その理由としては東京スター銀行は香港などアジア在住者向けの不動産投資ローンを拡充しており、海外在住の方が日本国内の不動産に投資ができる時代になりつつあります。
つまり要約すると大阪市内の供給は若干厳しくなりますが、需要層としてはむしろ拡大していくマーケットが予想されるという事です。
今後の大阪市内における投資の穴場は
いつの時代でも不動産投資は「相乗り投資」が大切です。ここで言う相乗り投資とは、誰かが投資する所に自分もいい意味で便乗させて頂いて投資効果を享受させて頂く事です。
そのキーワードは新線・新駅・大規模再開発・鉄道の高架事業・土地区画整理事業などが挙げられます。また自治体単位で考えると、国家戦略特区、都市再生緊急整備地域、MICEなどが挙げられます。例えば下記のような大阪市内において都市再生緊急整備地域に挙げられている場所は再開発が加速しています。
こうしたエリアは極めて将来性が高く、街が大きく発展していく可能性があるエリアであると考えられ、その周辺や沿線などは今後不動産投資の立地としても狙い目と言えます。
大阪市の都市再生緊急整備地域
地域 |
面積 【】は特定地域 |
大阪城公園周辺地域 ※R2.9.16名称変更 |
121ha |
【特定地域】 |
490ha |
難波・湊町地域 |
36ha |
新大阪駅周辺地域 |
114ha |
阿倍野地域 |
21ha |
【特定地域】 |
154ha |
特定地域:都市の国際競争力の強化を図る上で特に有効な地域
<内閣府「都市再生緊急整備地域及び特定都市再生緊急整備地域の一覧」>
また鉄道計画においては、現在大阪で進められている新線計画として「なにわ筋線」が挙げられます。うめきたの「大阪」駅から「中之島」「難波」「南海新難波」「新今宮」駅などを結ぶ路線です。関西国際空港や新大阪駅へのアクセス性の向上や大阪の南北都市軸の強化などの効果も期待され2031年の開業予定です。2037年に予定されている「リニア中央新幹線」の新大阪延伸に向けて、大阪市全体の鉄道ネットワークも向上します。
さらに「大阪関西万博」の開催される「ニシ」エリアでは大阪メトロ中央線が「コスモスクエア」駅から「夢洲(ゆめしま)」駅までの延伸計画が2025年に予定されています。
今後は万博やIRなど「ニシ」エリアの発展も期待され、「キタ・ミナミ」に次ぐ有望なエリアとなる可能性もあります。
今後も大阪エリアは「万博」「リニア」など発展が期待され注目も集まっています。
さらに転入超過人口や単身世帯も増加する中で単身者向けの住宅需要もますます増加すると考えられます。地価・不動産価格の上昇から東京ではワンルームマンションが都心から周辺部に移行してきており、今後は大阪でもワンルームマンションの供給が徐々に都心部から周辺部に向かう可能性もあります。
街の大きな発展が見込まれ、賃貸需要も堅調に推移する現在、大阪都心エリアにワンルームマンション投資をお考えの方はまさに今がチャンスではないでしょうか。