目次
不動産売却確定申告を自分で行うための基礎知識
確定申告の基本的な仕組み
毎年1月1日から12月31日までに得た所得を合算し、納める税金を計算・申告する手続きを確定申告といいます。会社員として給与所得だけを得ている場合は、年末調整により会社が代行するため個人での申告は不要です。ただし、不動産売却によって譲渡所得が発生すれば自分で申告する必要が生じます。 申告期間は翌年2月16日から3月15日までが原則で、土日祝にあたる場合は延長されることがあります。申告期限を守らないと延滞税や加算税が発生するので、余裕を持って準備を進めましょう。 期限を過ぎるとペナルティが大きくなるため、ゆとりをもったスケジュールを組むことが重要です。不動産売却による譲渡所得とは
不動産を売却した際の利益を譲渡所得といい、売却代金から取得費や譲渡費用を差し引いた金額で算出します。もしこの譲渡所得がプラスになると課税対象となり、確定申告によって納める税額を確定しなければいけません。いわゆる「不動産売却で得た利益」が税金計算の対象です。 譲渡所得の計算式は「売却価格-(取得費+譲渡費用)」となり、取得費が不明な場合は概算取得費として売却価格の5%を用いることができます。概算取得費を使うと実勢の経費より費用が少なくなる恐れがありますので、不明な場合は専門家へ確認してみると良いでしょう。 譲渡所得がゼロまたはマイナスになれば課税は発生しませんが、控除や損益通算など有利になる制度もあるため注意が必要です。申告分離課税のしくみ
不動産譲渡による所得は、他の給与所得や事業所得とは切り離して計算する「申告分離課税」が適用されます。そのため、給与所得の計算とは別に譲渡所得にかかる税額を算定しなければなりません。一方、給与所得などとは合算しない分、税率も独自に設定されています。 短期譲渡(所有期間5年以下)の場合は約39.63%、長期譲渡(5年超)の場合は約20.315%が標準的な税率です。10年以上所有していた場合は一部軽減税率が適用される制度もありますので、所有期間はしっかり把握しましょう。 長期譲渡に当たるかどうかで大きな税負担の差が生まれますから、売却タイミングの見極めも重要です。確定申告が不要なケースと行った方がよいケース
譲渡所得が発生しない場合
売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた結果がマイナスになった場合、いわゆる譲渡損失となります。この状態ですと、譲渡所得が生じていないことになるため、通常は課税対象がなく申告は不要です。売却による利益がない以上、納める税金はゼロ円ということです。 ただし、譲渡損失が出た場合でも必ず申告しないと損になるケースがあります。他の所得との損益通算や繰越控除が可能な特例があるので、状況によっては申告で大きく税負担を下げられるかもしれません。 「どうせマイナスだから関係ない」と放置すると節税のチャンスを逃すことがあります。損益通算や特例を利用する場合
不動産の売却がマイホームで、所有期間が一定以上などの要件を満たす場合、譲渡損失を給与所得など他の所得と相殺できる特例があります。これを損益通算と呼び、さらに損失が大きい場合は翌年以降3年間繰り越して税額を減らせる繰越控除も利用できることがあるのです。 このような特例を適用すると、結果的に年末調整で源泉徴収された所得税や住民税も減額される可能性が高まります。特例の適用要件は細かいため、国税庁ウェブサイトや税理士への相談で確認すると安心です。 損益通算や繰越控除を使えるかどうかは納税額に直結する大切なポイントです。申告しないと不利になるケース
譲渡所得がゼロまたはマイナスでも、損益通算による節税メリットや住宅ローン控除など、同時に適用できる控除制度がある場合は申告しないと損になる可能性があります。最終的に支払う税金を減らせる仕組みを活用しない手はありません。 また、将来何らかの形で所得が増減した時に、過去の損失を繰り越して差し引けるかどうかも重要です。譲渡損失の繰越控除を受けるためには毎年の確定申告が必須なので、面倒でも続ける価値があります。 「利益が出ないなら申告不要」は必ずしも正解ではない点をしっかり押さえましょう。不動産売却時の譲渡所得を計算する手順
譲渡所得の基本計算式
不動産の譲渡所得は以下の式で求められます。すなわち、売却価格から取得費(購入時に支払った代金や手数料など)と譲渡費用(売却時の仲介手数料など)を差し引いた残りが譲渡所得です。- 譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)
取得費に含まれる項目
取得費とは、購入時の不動産価格だけを指すわけではなく、仲介手数料や購入時の諸費用なども含めます。具体的には、不動産購入時の仲介手数料、不動産取得税、印紙税、ローン事務手数料、設備費や改良費などが考慮されます。 これらを合算すると意外と大きな金額になることが多いので、必ず購入時の書類や支払証憑をまとめておくようにしましょう。取得費が不明な場合は概算取得費として、売却価格の5%を取得費として認めてもらえますが、一般に実費より不利になるケースが多いです。 なるべく実際の領収書類を確保して正確な取得費を算定する方が納税額を抑えられます。譲渡費用の内訳を見落とさない
譲渡費用には、売却時にかかった仲介手数料や測量費、契約書の印紙税、立ち退き料などが含まれます。固定資産税の清算金や抵当権抹消費用は譲渡費用に該当しないので注意しましょう。支払い時に何の目的で使われた経費なのかを明確にしておくことが大切です。 誤って譲渡費用に含めてしまうと過少申告リスクを高めるため、国税庁のガイドラインや契約書の内容を再度確認する必要があります。もし判別が難しい場合は早めに税理士に相談することがおすすめです。 売却に直接関係しない費用は譲渡費用として扱えない点を見落とすと、後でトラブルになりかねません。不動産売却確定申告に活用できる特例
3,000万円の特別控除
マイホームとして使用していた不動産を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度があります。これは居住用財産の特例と呼ばれ、所有期間にかかわらず適用が受けられる可能性があります。ただし、売却までに居住の実態があったかなどの細かい要件を満たす必要があります。 この3,000万円特別控除が適用できるかどうかで納税額は大きく変わりますので、該当しそうな人は要件を念入りに確認しましょう。また、この特例が使えるのは1つの物件に対して1回限りである点にも注意してください。 ご家族で住んでいた実家を売却する場合などは、この特例が大きな節税策となります。軽減税率の特例
不動産を5年以上所有してから売却する場合、「長期譲渡所得」として約20.315%の税率が適用されます。一方、5年以下であれば「短期譲渡所得」となり約39.63%という大きな税率差があります。さらに10年を超えて所有していた場合は、一定条件を満たすとさらに税率が軽減される仕組みがあります。 所有期間の判定は売却した年の1月1日時点で確認しますので、何年何月に取得したのか厳密に把握しておくことが大切です。手元の契約書などで確認を先延ばしにしないようにしましょう。 5年を超えるかどうかで税金が倍近く変わるケースもあるため、売却時期の検討が重要です。買換え特例や被相続人居住用財産の特別控除
自宅を売却して、新たにより高額なマイホームを購入した場合などに適用される买換え特例や、相続で取得した空き家を売却する際に利用できる3,000万円特別控除など、さまざまな特例があります。これらの要件や申告手続きは複雑になりやすいです。 1億円以下の売却価格であることや、一定の居住要件があるなど、それぞれに細かい適用条件が設けられています。特例を活用する際は必ず国税庁の規定や専門家への確認を行うことが大切です。 相続などが絡む場合は遺産分割協議書なども必要になるため、書類の用意に時間がかかる点を考慮しましょう。必要書類の整理と管理方法
申告に必要な主な書類
不動産売却に伴う確定申告では、以下のような書類が必要となります。売買契約書や仲介手数料などの領収書類は特に重要です。後になって探す手間を減らすためにも、早めに整理しておきましょう。- 確定申告書B
- 申告書第三表(分離課税用)
- 譲渡所得の内訳書
- 不動産売買契約書の写し
- 仲介手数料など譲渡費用の領収書