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勤務医が節税対策をした方が良い理由は?
所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる累進課税制度を採用しています。また、社会保険料も所得が多い人ほど、支払う額が高くなります。そのため、毎月の給与明細を見て、税金と保険料は高いと感じているのではないでしょうか。そんな勤務医の方に向けて、節税対策をした方が良い理由について解説します。
給与所得が大きい
医師は一般的に高収入であるため、その分、税金は高くなります。個人事業主である開業医なら、消耗品費などの必要経費を計上できるうえ、役員報酬などで節税できます。しかし、給与所得者である勤務医には、こうした経費での節税対策が望めません。
一般的に給与所得者は、年末調整により源泉徴収されるため、確定申告は原則不要です。そのため、節税に関心をもたず、知識がないために税金を多く支払っているかもしれません。税の仕組みを理解し、節税対策をすれば、手取り額を増やせる可能性があります。
基本的な控除には限界がある
給与所得者である勤務医には、以下の控除が適用されます。
・基礎控除
・配偶者控除
・扶養控除
・社会保険料控除
・生命保険料控除
・地震保険料控除
など
とはいえ、各控除には上限があるため、節税対策としても限界があります。
上記以外に、iDeCoの拠出額は全額控除の対象となりますが、この拠出額にも上限があります。収入の多い勤務医の場合、他にも節税対策をした方が効果的です。
そこで勤務医におすすめの節税方法と、それぞれのメリット、デメリットについてもご紹介します。
勤務医におすすめの節税方法その1.『特定支出控除』
勤務医におすすめの節税方法の一つとして、特定支出控除をご紹介します。特定支出控除は、業務に関係する専門書の購入や研修への参加などに対する出費について、その年の給与所得控除額の2分の1以上の場合は、その超えた部分の額が控除される制度です。
給与所得者であっても、特定支出控除を適用するためには、確定申告が必要です。確定申告の際に、領収書、明細書、源泉徴収票、身分証明書などを添付した証明書を用意し、申請することで適用できます。
給与所得者は経費が認められにくいですが、業務関係の出費が多い勤務医なら、利用できる可能性があります。
特定支出控除として認められる項目
・通勤費:通勤のために必要な支出
・職務上の旅費:勤務する場所を離れて仕事をするために必要と認められる旅行のための支出
・転居費:転任に伴う引っ越しのための支出
・研修費:仕事に直接関係のある知識などを習得するための支出
・資格取得費:仕事に直接関係のある資格取得のための支出
・帰宅旅費:単身赴任となり、勤務地と配偶者の居住地とを移動するための支出 など
上記の支出について、勤務先の証明が必要になります。
また、下の3つの経費についても、勤務先の証明があれば特定支出控除が認められますが、その金額は3項目の合計で65万円までです。
・図書費:書籍や定期購読している雑誌など、仕事に直接関係のある図書の購入に関する支出
・衣服費:制服や事務服など、勤務場所において着用が必要な衣服への支出
・交際費:教授や医師、得意先など、業務上付き合いの欠かせない人への接待・交際の支出
では、どれくらいの控除を受けることができるのでしょうか。年収が860万円で、特定支出が120万円ある場合を例として見てみましょう。この場合の給与所得控除は195万円になります。
1.特定支出控除の適用可否
特定支出120万円が、給与所得控除の1/2=97万5,000円(195万円×1/2=97万5,000円)より大きいため「特定支出控除の適用可」
2.特定支出控除額
特定支出控除額=特定支出120万円-97万5,000円(給与所得控除の1/2)=22万5,000円
特定支出控除22万5,000円は、給与所得控除195万円に上乗せして給与収入から控除することができます。
※2023年6月現在
特定支出控除のメリット、デメリット
特定支出控除を活用するメリットとデメリットは、次の通りです。
【メリット】
・研修費やその移動費、専門書などの購入費を回収できる
・給与所得者であっても経費計上ができる
・平成24年の法改正によって申請しやすくなっている
【デメリット】
・勤務先で押印をもらう、必要書類を用意するなど手間がかかる
・控除されるのは給与所得控除金額の1/2を超過した分だけ
特定支出控除は法改正により、平成25年の所得税分から範囲の拡大と適用判定の基準の見直しが行われ、活用しやすくなっています。適用したことのない人は、勤務先の総務部などの担当部署に問い合わせておくと良いでしょう。
勤務医におすすめの節税方法その2.『医療費控除』
医療費控除とは、1年間(1月1日から12月31日まで)の間に支払った医療費が、一定の金額を超えた場合に受けられる所得控除のことです。納税者本人だけでなく、配偶者や家族(どちらも生計を一にしていること)の医療費も控除の対象となります。医療費控除は、次の計算式で求めます。
医療費控除額=(1年間の実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補てんされる金額)-10万円(または総所得金額の5%の低い方)
出典:公益財団法人 生命保険文化センター「医療費控除について知りたい」
例として、下記の条件の場合の医療費をみてみましょう。
【条件】
・1年間の支払った医療費が30万円
・保険金などで補てんされる金額なし
・総所得金額が800万円
医療費控除額=30万円-10万円(上限)=20万円
※2023年6月現在
なお、医療費控除を受けるためには、確定申告が必要です。
勤務医におすすめの節税方法その3.『セルフメディケーション税制』
セルフメディケーション税制とは、1年間(1月1日から12月31日まで)の間に支払った特定の医薬品の購入費用などが、1万2,000円を超えた場合に受けられる所得控除のことです。1万2,000円を超えた部分(8万8,000円を限度)が控除額になります。納税者本人だけでなく、配偶者や家族(どちらも生計を一にしていること)の医療費も控除の対象です。(※2023年6月現在)
セルフメディケーション税制を受けるためには、対象となる医薬品等が一定の一般用医薬品などであること、納税者が健康のための一定の取り組みを行っていることといった、諸条件を満たす必要があります。また、セルフメディケーション税制を受けるためには、確定申告も必要です。
出典:厚生労働省「セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)について」
勤務医におすすめの節税方法その4.『ふるさと納税』
勤務医におすすめの節税方法として、ふるさと納税をご紹介します。
ふるさと納税とは?
ふるさと納税とは寄付金控除の一つで、自分で選んだ自治体(住んでいる自治体を除く)に寄付できる制度です。負担金2,000円で、地方自治体からの返礼品を受け取れ、寄付した額は、翌年の住民税から控除されます。
ふるさと納税のメリット、デメリット
ふるさと納税を活用するメリットとデメリットは、次の通りです。
【メリット】
・税金を前払いすることで、様々な返礼品がもらえる
・楽しみながら節税できる
・負担金2,000円以上の価値がある返礼品が多い
【デメリット】
・納税額自体が減るわけではない
・限度額があり、それを超えると自己負担となる
住民税は、前年度の所得に対して課税されます。ふるさと納税を通して寄付し、確定申告により寄付金控除を受けることで、税金の前払いと返礼品の受取ができます。
ただし、来年度支払う予定の住民税額の範囲内で寄付しなければ、超えた分は自己負担となるので注意しましょう。毎年12月に、年間の所得金額がおおむね判明してから寄付する金額を決めると、自己負担金を最小限に抑えられます。
勤務医におすすめの節税方法その5.『会社設立』
勤務医におすすめする節税方法の一つに、会社の設立があります。会社の設立が節税になる理由は、個人と法人の税率の仕組みの違いにあります。
個人では、所得が多いほど、所得税率も高くなる累進課税制度が導入されています。所得税率は所得金額に応じて5%〜45%の間で推移します。
一方、法人の場合は原則、税率が一定(資本金が1億円以下の普通法人なら15%〜23.2%の間の決まった税率)です。そのため所得金額が一定金額を超えた場合は、法人の方が納める税額が低くなります。
ただし、法人の設立には、資本金の用意や登記費用などにある程度のお金が必要になるデメリットもあります。会社設立を考える場合は、事前にどれくらいの節税効果があるかしっかり検討することが必要です。
勤務医におすすめの節税方法その6.『不動産投資』
最後に、不動産投資による節税対策をご紹介します。
不動産投資とは?
不動産投資とは、アパートやマンションなどの不動産を購入し、他人に貸し出すことで家賃収入を得る投資です。不動産所得に該当する家賃収入では、減価償却が利用できるうえ、経費計上も可能なので、課税対象となる所得金額を減らせます。
節税対策にもなるうえ、本業以外からも収入を得られます。
不動産投資のメリット、デメリット
不動産投資を活用するメリットとデメリットは次の通りです。
【メリット】
・減価償却、経費計上で節税効果がある
・本業以外に収入が入る
・手間をかけずに運用できる
・経営上赤字になった場合はさらに節税できる
【デメリット】
・失敗のリスクもある
・長期的な計画が必要
・修繕やメンテナンスで大きな出費がある
不動産投資には、失敗するリスクもあります。ただし、減価償却や経費計上、青色申告の適用などによるメリットを受けることができますので、給与所得を含めた総所得で考えると、多少の赤字もカバーできます。
勤務医が節税を検討する際に意識しておきたいこと
ここからは、勤務医が節税を検討する際に意識しておきたいポイントについてみていきます。
老後を視野に入れた節税を心掛ける
節税を考える上で注意したいのが老後の生活のことです。リタイア後は収入が大幅に減少します。そのため、今の所得に対する節税だけに気を取られすぎていると、老後の生活資金が不足する事態に陥る可能性もあります。
そのため、少しでも多く節税し、節税で得た資金を老後資金にするなど、老後資金を確保するようにしましょう。
並行して資産運用にも取り組む
上述しましたが、節税は老後の生活のことも考えながら行う必要があります。そこで、節税とあわせて資産運用に取り組むことも重要です。例えば、不動産投資は資産運用に取り組みやすいうえ、節税効果も期待できるためおすすめです。
不動産投資をすることで、支出のうち経費になるものが増えたり、相続税の対策になったりするなど、様々な税金の節税ができます。もちろん、資産運用で資金をためることも可能です。
まとめ
節税対策は、早く始めるほど、トータルの効果が大きくなります。最初は情報収集などに時間がかかるものの、慣れてしまえば負担にならないでしょう。
また、節税対策のなかでも不動産投資のように、ある程度リスクを取りつつ、本業以外の収入を得る方法もあります。
ご自身の状況に合わせて、ふさわしい節税対策を行いましょう。