家賃滞納リスクと督促する前に知っておくべきポイント

不動産オーナーにとって頭の痛い問題は、借主による家賃の滞納です。家賃はオーナーの重要な収益源であり、滞納されてしまっては当然収入が不安定になってしまいます。 場合によってはローンの返済に影響が出て生活が立ち行かなくなるケースもあるので、注意しておきましょう。 今回は、家賃を滞納されたときの督促方法や効果的な対策を紹介します。

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データから分かる!家賃滞納の実態

 

2020年上期

2020年下期

首都圏

4.2

4.1

関西圏

7.2

8.2

▲月初全体の滞納率

 

2020年上期

2020年下期

首都圏

1.5

1.6

関西圏

2.1

3.0

▲月末での1ヶ月滞納率

 

2020年上期

2020年下期

首都圏

0.6

0.8

関西圏

1.1

1.4

▲月末での2ヶ月滞納率

出典:公益財団法人日本賃貸住宅管理協会日管協総合研究所「第25回 賃貸住宅市場景況感調査『日管協短観』2020年10月~2021年3月」

公共財団法人日本賃貸住宅管理協会によるアンケート調査によると、2020年度の月初全体における家賃の滞納率は首都圏で4.1~4.2%、関西圏で7.2~8.2%であることがわかりました。

月末まで1ヶ月滞納している人の割合が上期から下期に向かって増えているのは、コロナ禍における就業状況・収入悪化などが影響しているのではないかと考察されています。また、2ヶ月を超える滞納となると正常化が難しいとされており、滞納率はほぼ横這いで推移しています。

コロナ禍による影響は、家賃滞納率の変化だけでなくクレームの増加にも現れています。「在宅勤務をしている日中に近隣家庭が騒音を発している」など、在宅時間が増えたことによるクレームも多くなっているため、場合によっては対策が必要です。

家賃滞納が起こる原因は収入減だけではない

家賃滞納が起きる代表的な原因は、借主の収入減少です。他にも、振込忘れ・金額の認識ズレなど支払う意志がありながら滞納になってしまうケースもあります。

実際にあった家賃滞納の理由として、モラル低下を含む下記のような理由が挙げられます。

・車を買ってお金がないから

・滞納しても簡単には追い出されないから(少しくらい良いと思った)

・事業に失敗して家主が行方不明になったから

・払っていると思い込んでいた(滞納の自覚がなかった)

・夫の失業と妻の妊娠・出産が重なったから

オーナーから見ると一方的で身勝手な都合に見えますが、それぞれの事情が影響していることを理解しておきましょう。

家賃滞納者に対する督促の流れ

家賃滞納には、早急な対処が必要です。放置していると滞納額が増えて返済してもらえなくなる可能性があるだけでなく、オーナー自身の損失も膨らんでローン返済に多大な影響を及ぼします。

また、滞納分の請求には「本来の支払い時期から5年以内」と時効も定められているので、速やかに催促しておきましょう。

ここでは、家賃滞納者に対する督促の流れを紹介します。

口頭や文書での確認と督促

まずは、未払いの事実を口頭や書面で知らせます。単なる支払い忘れであれば、通知するだけで速やかに支払ってくれることが大半です。

本人に直接会える場合は対面で、なかなか機会が掴めないときは電話や書面で連絡するのが第一です。

弁護士への相談

口頭や文書での督促に反応がない場合、弁護士への相談に進みます。この後の書類や行動が法的に活用できる資料となるので、事前に弁護士へ相談しておくと以降の対処がスムーズです。

また、次項で解説する内容証明郵便も、弁護士へ相談した後に発送することをおすすめします。

内容証明郵便の送付

状況が改善されない場合、弁護士に相談のうえで内容証明郵便を送付します。「契約解除の予告通知書(催告書)」として発送し、明確な期限を設けて賃貸借契約の解除について触れましょう。

内容証明郵便を送ることで「届いてない」「知らない」と言い逃れされるリスクが減りやすく、法的措置を取る第一歩が踏み出せます。

保証人への連絡

内容証明郵便を送っても支払われなかったり、本人に支払い能力がなかったりする場合、保証人に連絡します。手順は本人への督促と同じく、口頭または文書での通達を経てから内容証明郵便を発送します。

それでも解決しない場合、次項の法的措置を検討します。

法的措置の執行

法的措置の執行には、滞納が3か月以上あり、督促しても支払われなかったなど信頼関係が崩れている客観的な証拠が必要です。いつ、どのようなアクションをしたか、口頭・文書での督促や内容証明郵便発送の日付も含めて細かく記録しておきましょう。

滞納された家賃を督促するときの注意点

最後に、滞納された家賃を督促するときの注意点を解説します。

当然オーナー側には督促する権利がありますが、間違った対処をすることで却って訴えられたり不利になったりするケースもあるので注意が必要です。

注意点1.督促するときは伝える相手に注意しよう

電話や郵送で督促するときは、原則として滞納者本人に督促します。勤務先や実家など、関係者に無断で取り立てに行くことは貸金業法でも禁じられているので注意しましょう。

ただし、本人が「家族に電話して請求してくれ」など合意している場合、連絡して問題ありません。同じく、本来の滞納者へ電話がつながらない(電話番号が変わったなど)場合も、勤務先や実家に連絡して取次を頼めます。

あくまで本人と連絡を取りたいことを伝えるのに留め、滞納者の社会的名誉を傷つけないように配慮しましょう。

注意点2.社会通念上の常識的な時間帯を守ろう

社会通念上の常識的な時間帯に督促することも大切です。具体的には、貸金業法の第十九条法第二十一条第一項第一号の内閣府令で定める時間帯(8時から21時)の範囲で行いましょう。

訪問はもちろん、電話・Fax・メール・文書の投函なども、夜間や早朝に実施しないことがポイントです。裁判時に常識的な時間帯での督促であったことを証明できるよう、時間帯が分かる写真や記録を残しておくと安心です。

注意点3.強引な手段は避けよう

貸金業法の第二十一条では、取り立てが私生活を害するものであってはならない、と定められています。期限から1週間程度で督促したり、短期間で何度も督促したりすると、過剰な行為とみなされる恐れがあるので注意しておきましょう。

また、マスターキーを使って許可なく室内に入ることや、勝手な家財の移動・処分、職場など第三者に滞納の事実を公表することもNGです。

遅延損害金の利率は原則、当事者間で定めることができますが、上限は年14.6%までと決まっています。それを超える金額は無効となるため、覚えておきましょう。

まとめ

家賃の滞納は、オーナーにとって速やかに解決したいトラブルです。一声かけてもなかなか振り込んでもらえなかったり、明らかにモラルの問題で滞納していたりする場合、つい強引な督促をしてしまいがちなので注意しましょう。

場合によってはオーナー側の督促に違法性があると判断され、却って訴えられたり不利な条件になったりすることもあります。そのため、あくまでもオーナー側は法律とルールに則った手続きをすることが重要です。

今回紹介した内容をもとに、多少時間をかけてでも確実に滞納家賃を回収することをおすすめします。