賃貸物件のオーナーにとって、管理会社選びは事業の成否を左右する重要な決断です。しかし、単に安い管理費用だけで選んでしまうと、後々大きなトラブルに発展することがあります。多くのオーナーが「知っていれば避けられた」と悔やむ失敗事例は意外と多いのです。

この記事では、実際にあった管理会社選びの失敗事例を3つ紹介し、どのような点に注意して管理会社を選ぶべきか、また、万が一問題が発生した場合の対処法についても解説します。これから管理会社を選ぶ方はもちろん、現在の管理会社に不満を感じている方にも役立つ情報をお届けします。

管理会社選びの失敗で生じる典型的なトラブル

管理会社との契約は一度結ぶと簡単には変更できないため、選定には慎重さが求められます。まず、実際に起きうる失敗例を見てみましょう。

例1:報告不足から生じた深刻な空室損失

埼玉県のアパート(10戸)を所有していたが、管理手数料の安さに惹かれて地元の小規模管理会社と契約しました。契約当初は問題なく運営されていましたが、入居者の退去後、新たな入居者募集の動きが鈍いことに気づきました。

管理会社に確認すると、「現在募集中です」と回答するのみで具体的な活動報告がありませんでした。さらに追及すると、実は3ヶ月間ほとんど募集活動をしていなかったことが判明。その間に別の2室も退去となり、最終的には4室が空室となり、半年間で約120万円の家賃収入が失われていました

定期的な報告体制と活動履歴の確認ができる管理会社を選ぶことが重要です。安い管理費用の裏で、実は大きな収入機会を逃している可能性があります。

例2:設備トラブル対応の遅延による入居者流出

東京都内のワンルームマンション(20室)を所有している際、大手不動産会社から独立した元社員が立ち上げた管理会社と契約しました。管理費は相場より2%低く設定されており、コスト面での魅力を感じていました。

しかし、真冬に建物の給湯設備が故障した際、管理会社の対応は驚くほど遅く、連絡から修理完了まで5日間もかかりました。その間、入居者からの苦情が殺到し、最終的に3名の入居者が退去を決断。さらに口コミサイトにも悪評が広がりました。

トラブル対応力と24時間体制の有無を事前に確認することが管理会社選びでは欠かせません。安い管理費の背景には、緊急時の人員配置や対応体制の不足が隠れていることがあります。

例3:不透明な修繕費用請求による余計な出費

福岡県で2棟のアパート(計15室)を所有していましたが、管理手数料が標準より3%安い管理会社と契約していました。しかし、1年が経過したある日、突然「緊急修繕工事」として100万円超の請求書が届きました。

内訳を確認すると、本来定期的なメンテナンスで防げたはずの雨漏りが放置され、大規模修繕になってしまったことが判明。さらに、工事業者は管理会社の関連会社で、市場価格より3割ほど高い見積もりでした。

管理費用の安さで短期的に節約できたつもりが、結果的に高額な修繕費用という形で「隠れたコスト」が発生してしまったのです

修繕提案の透明性と見積もりの適正さを確認できる管理会社を選ぶことが長期的なコスト削減につながります

管理会社の種類と特徴

管理会社選びで失敗しないためには、まず各タイプの管理会社の特徴を理解することが大切です。それぞれに強みと弱みがあります。

デベロッパー系管理会社のメリットとデメリット

デベロッパー系管理会社は、不動産開発会社が運営する管理会社です。自社で建設した物件に精通しているため、建物の構造や設備について深い知識を持っています。

メリットとしては、建物に関する専門知識が豊富で、設計図や施工情報へのアクセスが容易なことが挙げられます。また、大手企業の場合は24時間対応の体制が整っていることも多いです。

一方、デメリットとしては管理費用が比較的高めに設定されていることや、自社物件以外の管理に関しては経験が限られる場合もあります。また、組織が大きい分、担当者の入れ替わりが多いケースもあるため、人間関係の継続性に注意が必要です

独立系管理会社のメリットとデメリット

独立系管理会社は、特定のデベロッパーや不動産会社に属さない独立した管理会社です。柔軟な対応やコスト面での優位性が特徴です。

メリットとしては、管理費用が比較的抑えられることや、特定の不動産会社に縛られないため公平な対応が期待できることが挙げられます。また、地域密着型の場合は、地元の賃貸市場に精通していることも強みです。

デメリットとしては、会社規模が小さい場合は人員不足になりやすく、緊急時の対応力に不安がある場合もあります。また、経営基盤が弱い企業もあるため、会社の財務状況や実績を確認することが重要です

ビルメンテナンス系管理会社のメリットとデメリット

ビルメンテナンス系管理会社は、清掃や設備管理を主業務としてきた会社が賃貸管理業務にも参入したケースです。設備面での専門性が高いことが特徴です。

メリットとしては、建物設備や清掃に関する専門知識が豊富で、設備トラブルへの対応力が高いことが挙げられます。また、長年のメンテナンス経験から予防保全の視点も持ち合わせています。

デメリットとしては、入居者募集や賃貸契約などの不動産運営面でのノウハウが不足している場合があります。設備管理は優れていても、空室対策や家賃設定などの運営支援が弱い可能性があるため、総合的な管理能力を見極めることが重要です

管理会社選びで確認すべき重要ポイント

失敗事例から学び、適切な管理会社を選ぶためには、以下のポイントを必ず確認しましょう。

担当者(フロント)の実績と対応力

管理会社の顔となる担当者(フロントマン)の質は、サービス全体の質に直結します。以下の点を確認することが重要です。

  • 類似物件の管理経験が豊富にあるか
  • 1人あたりの担当物件数が20件以下か(多すぎると対応が手薄になる)
  • 管理業務主任者などの資格を保有しているか
  • 在籍年数は何年か(頻繁に担当者が変わると一貫性のある管理が難しい)

面談時には具体的な質問をして、担当者の知識や対応力を見極めましょう。また、担当者だけでなく、会社全体としてのバックアップ体制も確認することが重要です。優秀な担当者でも、会社のサポートがなければ十分な対応はできません。

管理委託費の適正性と内訳

管理委託費は一般的に家賃収入の3〜8%程度が相場とされています。しかし、単に料率だけで判断するのではなく、その内訳と業務範囲を確認することが重要です。

料金体系には主に以下のようなものがあります。

  • 基本管理費(家賃収入の一定割合)
  • 入居者募集費(新規契約時の手数料)
  • 更新料(契約更新時の手数料)
  • 修繕工事の管理費(工事費に対する一定割合)

極端に安い管理費を提示する会社は、基本業務の範囲を狭くして、追加費用を別途請求するケースが多いため注意が必要です。見積書だけでなく、契約書と業務仕様書を詳細に確認しましょう。

業務対応範囲の明確な確認

管理会社によって業務範囲は大きく異なります。自分が依頼したい業務が契約範囲に含まれているか必ず確認しましょう。

主な業務範囲には以下のようなものがあります。

  • 入居者募集活動(広告掲載、内見対応など)
  • 家賃集金・滞納対応
  • 建物点検・清掃管理
  • 設備トラブル対応
  • 入退去立会い
  • クレーム対応
  • 定期的な収支報告
  • 空室対策提案

特に重視したい業務については、契約書に明記されているか必ず確認することが重要です。「当然含まれていると思っていた」という認識のズレが後々のトラブルにつながることがあります。

会計・資金管理能力の見極め方

資金管理は管理会社の重要な業務の一つです。透明性の高い会計処理と正確な報告ができるかどうかを確認しましょう。

確認すべきポイントには以下のようなものがあります。

  • 月次報告書のわかりやすさ(収支が明確に把握できるか)
  • 家賃入金状況の報告頻度と方法
  • 経費支出の承認プロセス(オーナーの承認なく勝手に支出されないか)
  • 滞納家賃の管理と報告方法
  • 修繕積立金の管理方法

可能であれば、実際の報告書サンプルを事前に確認し、理解しやすい形式かどうかを判断しましょう。また、経費削減の提案や税務面でのアドバイスが得られるかどうかも重要な選定ポイントです

トラブル対応力と24時間体制

賃貸物件では予期せぬトラブルが発生するものです。そのような緊急時に迅速に対応できる体制が整っているかを確認しましょう。

特に確認したいポイントは以下の通りです。

  • 24時間365日の緊急連絡体制があるか
  • 水漏れなどの緊急トラブル発生時の初動対応時間
  • 提携している修繕業者のネットワーク(地域をカバーしているか)
  • 災害時の対応計画(BCP)の有無
  • 過去のトラブル対応事例と解決までの時間

実際に起きたトラブル事例とその解決方法について質問し、対応の具体性を確認することが重要です。緊急時の対応が遅れると、被害の拡大や入居者の不満につながり、最悪の場合は退去という結果を招きます

失敗事例から学ぶ管理会社選びのポイント

前述の失敗事例を踏まえ、具体的にどのような対策を取れば良いのでしょうか。ここでは実践的なアドバイスをご紹介します。

知名度や規模だけで判断しないための工夫

大手だから安心とは限りません。会社の規模よりも、実際のサービス内容を確認することが重要です。

以下のような工夫が有効です。

  • 実際に管理している物件を見学させてもらう(清掃状況やメンテナンス状態をチェック)
  • 現在の契約オーナーから評判を聞く(紹介可能か尋ねてみる)
  • インターネット上の口コミや評判を調査する
  • 担当予定の物件数と対応体制を具体的に確認する

知名度より実績と対応の質、特に自分の物件に類似した管理実績があるかどうかを重視することが大切です。地域密着型の中小企業でも、特定エリアに強みを持つ優良な管理会社は多く存在します。

営業担当者の印象だけで決めない方法

優秀な営業担当者がいても、実際の管理を担当するのは別のスタッフであることが多いです。営業担当の印象だけで判断せず、実際の管理体制を確認しましょう。

具体的な確認ポイントは以下です。

  • 契約後の担当者(フロントマン)との事前面談を依頼する
  • 社内の情報共有体制について質問する(担当者不在時の対応など)
  • マニュアルや業務の標準化がどの程度進んでいるか確認する
  • 担当者変更時の引継ぎプロセスについて質問する

営業担当者が優秀でも、実務スタッフのレベルが低ければ意味がありません。契約後に実際の管理を担当するスタッフとの面談を必ず行い、コミュニケーション能力や知識レベルを確認することが重要です

業務範囲の確認不足を防ぐチェックリスト

契約書や業務仕様書の細かい確認は面倒ですが、後々のトラブルを防ぐために必須のプロセスです。以下のチェックリストを活用しましょう。

  • 基本管理業務の詳細内容(点検頻度、報告方法など)
  • 入居者募集活動の具体的な方法と範囲
  • トラブル対応の範囲と追加費用の有無
  • 修繕工事の発注プロセスと承認フロー
  • 定期的な報告内容と頻度
  • 契約外業務とその料金体系

曖昧な表現や解釈の余地がある条項については、具体例を挙げて確認することが重要です。「必要に応じて」「適宜対応」などの表現は、後々解釈の違いでトラブルになりやすいので注意しましょう。

比較検討なしの即決を避けるためのステップ

管理会社選びは、複数の候補を比較検討することが重要です。以下のステップで進めると効果的です。

  1. 最低3社以上の管理会社から見積もりと提案を取得する
  2. 同じ条件で比較できるよう、質問リストを事前に準備する
  3. 料金だけでなく、サービス内容や対応範囲を詳細に比較する
  4. 実際の管理物件を可能な限り見学し、管理状態を確認する
  5. 他のオーナーからの評判や口コミ情報を収集する

即決は避け、冷静に比較検討する時間を持ちましょう。また、値引き交渉に応じる会社については、何を削って値引きするのかを明確に確認することが重要です。安易な値引きは、サービスの質低下につながる可能性があります。

管理会社変更のタイミングと手順

現在の管理会社に不満がある場合、どのようなプロセスで変更すればよいのでしょうか。ここでは管理会社変更の際のポイントを解説します。

現契約の見直しと解約条件の確認

まずは現在の契約内容を改めて確認し、解約条件を把握しましょう。多くの管理委託契約には解約予告期間が設定されています。

主な確認ポイントは以下の通りです。

  • 契約の解約予告期間(通常は1〜3ヶ月前の通知が必要)
  • 契約の自動更新条項の有無
  • 解約時の精算方法(前払い管理費の返金など)
  • 原状回復や引継ぎに関する条項

解約を申し出る前に、現在の契約書を熟読し、法的な問題が生じないように準備することが重要です。国土交通省の「賃貸住宅標準管理委託契約書」に準拠した契約であれば、解約条件は比較的明確です。

管理会社間の円滑な引継ぎポイント

管理会社を変更する際は、適切な引継ぎが非常に重要です。以下の項目について、確実に引継ぎが行われるよう注意しましょう。

  • 入居者情報(契約内容、連絡先、保証会社情報など)
  • 建物図面や設備マニュアル
  • 鍵の管理と引継ぎ
  • 修繕履歴と今後の修繕計画
  • 滞納情報や特別な対応が必要な入居者情報
  • 共用部分の清掃・点検スケジュール

両社立会いのもとで引継ぎを行い、チェックリストで漏れがないことを確認することが重要です。特に鍵や重要書類の引継ぎは、紛失や混乱を防ぐために慎重に行いましょう。

入居者への配慮と通知方法

管理会社の変更は入居者にも影響します。混乱を避け、スムーズな移行のために入居者への適切な通知と配慮が必要です。

入居者対応の前に以下のポイントを確認しましょう。

  • 変更の1ヶ月前までに書面で通知する
  • 家賃振込先の変更がある場合は明確に案内する
  • 新管理会社の連絡先と担当者名を明記する
  • 質問や不安がある場合の問い合わせ先を明確にする
  • 保証会社の再契約など入居者に負担が生じる場合は、オーナー側で手数料を負担することも検討する

管理会社の変更によって入居者に不便や負担をかけないよう配慮することが、退去防止につながります。特に口座変更手続きなどは、入居者にとって手間となるため、十分な期間を設けて案内し、必要に応じてサポートすることが大切です

良い管理会社を見分けるための具体的な質問リスト

適切な管理会社を選ぶためには、面談時に的確な質問をすることが重要です。以下の質問リストを参考にしてください。

入居者募集力を見極める質問

空室を埋める力は管理会社の重要な評価ポイントです。以下のような質問で募集力を見極めましょう。

  • どのような入居者募集チャネルを使用していますか?(ポータルサイト、自社サイト、仲介業者ネットワークなど)
  • SUUMOやHOME'Sなど大手ポータルサイトへの掲載は標準で行っていますか?
  • 物件写真の撮影は専門のカメラマンが行いますか?
  • 内見対応の可能時間帯はどのようになっていますか?
  • 空室期間の平均的な日数はどれくらいですか?

ただ掲載するだけでなく、物件の魅力を引き出す写真や紹介文の作成、内見時の丁寧な対応など、総合的な募集力を持つ管理会社を選ぶことが重要です

空室対策の提案力をチェックするポイント

空室が出た際に、どのような対策を提案できるかも重要なポイントです。以下の質問で提案力を確認しましょう。

  • 過去に空室が長期化した物件で、どのような対策を行い成功したか具体例を教えてください
  • 家賃設定の見直しはどのような基準で行いますか?
  • リフォームやリノベーションの提案実績はありますか?
  • 設備投資(ネット無料化、セキュリティ強化など)の費用対効果についてどのように分析していますか?
  • 季節ごとの入居促進キャンペーンなどの実施経験はありますか?

単に「家賃を下げましょう」という安易な提案ではなく、物件の特性や地域性を踏まえた具体的な対策を提案できる管理会社が理想的です

柔軟な対応力を測る質問例

オーナーの状況や希望に応じて柔軟に対応できるかどうかも重要です。以下の質問で対応力を測りましょう。

  • 遠方に住むオーナー向けにどのような報告体制を取っていますか?
  • 修繕工事の際、複数の見積もり比較は標準で行っていますか?
  • オーナーの予算制約がある場合、どのように優先順位をつけて修繕を提案しますか?
  • 入居者からの要望や苦情にはどのように対応し、報告していますか?
  • オーナーの連絡希望頻度や方法(メール、電話、訪問など)に応じた対応は可能ですか?

オーナーの意向や状況を理解し、それに合わせたサービス提供ができる柔軟性は、長期的な信頼関係構築に欠かせない要素です。マニュアル通りの対応だけでなく、状況に応じた判断ができるかどうかを見極めましょう。

まとめ

管理会社選びは賃貸経営の成否を左右します。この記事でご紹介した確認ポイントを踏まえ、以下の5つのステップで管理会社選びを進めることをお勧めします。

  1. 自分の物件の特性と優先課題を明確にする(入居率向上、修繕費削減、管理の手間削減など)
  2. 複数の管理会社から見積もりと提案を取得し、サービス内容と料金を比較する
  3. 契約内容と業務範囲を詳細に確認し、不明点は必ず質問する
  4. 担当者だけでなく、会社の体制や実績も総合的に評価する
  5. 定期的に管理状況を確認し、必要に応じて改善を求める姿勢を持つ

管理会社は単なるサービス提供者ではなく、賃貸経営のパートナーとして位置づけることが重要です。安さだけで選ぶリスクを避け、適切な管理費用を支払い、質の高いサービスを受けることが長期的な収益性と資産価値の向上につながります。 現在の管理会社に不満がある場合は、改善のために直接伝え、改善されない場合は変更を検討しましょう。賢明な選択が安定した賃貸経営の基盤を築きます。

執筆者

エンマネ編集部

エンマネ編集部

将来のためにお金を準備したい方に向けて、資産形成の始め方や選び方、そしてリスクに備える方法などを発信しています。資産形成のコツを知って、大切なお金を上手に活かしましょう。