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賃貸経営を始めたものの、確定申告の手続きに不安を感じている方は少なくありません。家賃収入は不動産所得として申告が必要ですが、適切に経費を計上すれば大きな節税効果が得られます。本記事では、賃貸経営における確定申告の基本から、計上できる経費の種類、減価償却の仕組み、必要書類、そして青色申告と白色申告の選び方まで、実践的な知識を体系的に解説します。

賃貸経営における確定申告の基本

賃貸経営を行う上で避けて通れないのが確定申告です。まずは確定申告の基本的な仕組みと、賃貸経営における申告の必要性について理解しましょう。

確定申告とは何か

確定申告とは、1年間(1月1日から12月31日まで)に得たすべての所得を税務署に申告し、所得税額を確定させる手続きです。会社員の場合は勤務先が年末調整を行いますが、賃貸経営による収入は自分で申告しなければなりません。

申告期間は毎年2月16日から3月15日までと定められており、この期間内に前年分の所得を申告します。所得税を申告するとそれに基づいて住民税も自動的に算定されるため、所得税の申告のみで手続きは完了します。

不動産所得の定義と計算方法

賃貸経営で得られる収入は「不動産所得」として分類されます。不動産所得は、家賃収入や礼金などの総収入金額から、必要経費を差し引いた金額です。

計算式は「不動産所得=総収入金額−必要経費」となります。この不動産所得が給与所得など他の所得と合算され、総所得金額が算出されます。総所得金額から各種所得控除を差し引いた課税所得に対して、税率が適用されます。

不動産所得は総合課税の対象であり、他の所得と合算して累進税率(5%〜45%)が適用されます。

賃貸経営で確定申告が必要となるケース

すべての賃貸経営者が確定申告をしなければならないわけではありません。申告義務の有無を正しく理解し、適切に対応しましょう。

年間所得が20万円以上の場合

給与所得者(サラリーマン)が賃貸経営を行っている場合、不動産所得が年間20万円を超えると確定申告の義務が発生します。これは本業以外の副収入に対する申告基準です。

ここで注意すべきは、20万円という基準は「収入」ではなく「所得」である点です。家賃収入が年間100万円あっても、経費が85万円かかっていれば所得は15万円となり、申告義務は生じません。

経費を適切に計上することで、申告義務の有無が変わる可能性があるため、すべての支出を記録しておくことが重要です。

年間所得が20万円未満または赤字の場合

不動産所得が20万円未満、あるいは赤字の場合は、法的には確定申告の義務はありません。しかし、確定申告をすることで税制上のメリットを受けられるケースが多くあります。

最も大きなメリットは「損益通算」です。不動産所得の赤字を給与所得などの他の所得と相殺することで、課税所得を減らし、既に源泉徴収された税金の還付を受けられます。

賃貸経営初年度は初期費用が大きく赤字になりやすいため、確定申告による還付を受けることで資金繰りを改善できます。

専業で賃貸経営を行う場合

給与所得がなく、賃貸経営のみで生計を立てている場合は、所得金額に関わらず確定申告が必要です。基礎控除(48万円)などの所得控除後の課税所得がゼロ以下でも、申告書の提出が求められます。

専業の場合、事業的規模(おおむね10室以上または5棟以上)であれば、青色申告による特別控除や専従者給与などの優遇措置を受けられる可能性が高まります。

賃貸経営の確定申告で計上できる経費

賃貸経営における経費の適切な計上は、節税の基本です。どのような支出が経費として認められるのか、具体的に見ていきましょう。

租税公課

租税公課とは、事業に関連して支払う税金や公的な負担金のことです。賃貸経営では、固定資産税、都市計画税、不動産取得税、登録免許税、印紙税などが該当します。

固定資産税と都市計画税は毎年課税されるため、確実に経費として計上しましょう。不動産取得税や登録免許税は物件取得時に発生する税金ですが、これらも取得年度の経費となります。

所得税や住民税は経費として認められない点に注意が必要です。あくまで事業に直接関連する税金のみが対象となります。

損害保険料

賃貸物件にかける火災保険や地震保険の保険料は、全額を経費として計上できます。また、施設賠償責任保険など、賃貸経営に関連する各種保険料も対象です。

複数年分の保険料を一括払いした場合は、その年度に対応する金額のみを経費計上し、残りは前払費用として資産計上します。例えば、5年分30万円を支払った場合、初年度は6万円のみを経費とし、残り24万円は翌年以降に振り分けます。

自宅兼事務所の保険料など、個人利用分が含まれる場合は、事業使用割合に応じて按分する必要があります。

減価償却費

建物や設備などの資産は、取得時に全額を経費とするのではなく、法定耐用年数に応じて毎年少しずつ経費化していきます。これが減価償却です。

建物の法定耐用年数は構造によって異なり、木造は22年、鉄骨造は34年、鉄筋コンクリート造は47年です。例えば、2,200万円の木造アパートなら、毎年100万円(2,200万円÷22年)を減価償却費として計上できます。

減価償却費は実際の現金支出を伴わない経費であるため、キャッシュフローを悪化させずに所得を圧縮できる有効な節税手段となります。

修繕費と資本的支出の違い

物件の修理や改良にかかった費用は、その性質によって「修繕費」と「資本的支出」に区分されます。修繕費は全額をその年の経費とできますが、資本的支出は減価償却の対象となり、複数年にわたって経費化します。

修繕費は、原状回復や維持管理のための支出です。壁紙の張り替え、畳の表替え、雨漏りの修理などが該当します。一方、資本的支出は、物件の価値を高めたり耐用年数を延長したりする支出で、間取り変更やエレベーター設置などが該当します。

判断に迷う場合は、支出額が60万円未満、または資産の前期末取得価額の10%以下であれば、全額を修繕費として計上できるという基準があります。

管理費と仲介手数料

賃貸管理会社に支払う管理手数料や、入居者募集時に不動産会社に支払う仲介手数料は、全額が経費となります。管理手数料は通常、家賃の5%前後で設定されることが多いです。

共用部分の清掃費、エレベーターの保守点検費、給水設備の管理費なども管理費に含まれます。これらは定期的に発生する費用なので、毎月の帳簿にしっかりと記録しましょう。

ローンの利息

アパートローンや不動産投資ローンの返済額のうち、利息部分は経費として計上できます。ただし、元本返済部分は経費にならない点に注意が必要です。

金融機関から送られてくる年間返済予定表や償還表には、毎月の返済額が元本と利息に分けて記載されています。利息部分のみを正確に集計して経費計上しましょう。

不動産所得が赤字の場合、土地取得のための借入金利息は損益通算の対象外となるため、計算時に注意が必要です。

広告宣伝費

入居者募集のための広告費用も経費として認められます。不動産ポータルサイトへの掲載料、募集チラシの印刷費、看板の作成費などが該当します。

近年では、自主管理のオーナーがSNSやウェブサイトで物件をPRするケースも増えています。こうしたデジタル広告費やウェブサイトの運営費も、賃貸経営に関連していることが明確であれば経費計上可能です。

通信費・交通費

賃貸経営に関連する電話代、インターネット料金、郵送費などの通信費は経費となります。ただし、個人利用分と事業利用分が混在している場合は、合理的な基準で按分する必要があります。

物件の確認や管理会社との打ち合わせのための交通費も経費です。自家用車を使用する場合は、走行距離や使用日数に基づいて事業使用割合を算出し、ガソリン代や駐車場代を按分します。

その他の経費

上記以外にも、賃貸経営に直接関連する支出は経費として認められます。弁護士や税理士への報酬、不動産セミナーへの参加費、経営に関する書籍代や新聞代なども対象です。

消耗品費として、帳簿や筆記用具、名刺などの事務用品も計上できます。また、入居者への挨拶品や清掃用具なども経費となります。

経費計上の基本原則は「賃貸経営に必要かつ直接関連する支出」です。プライベートな支出を含めると、税務調査で指摘される可能性があるため、明確な事業関連性を説明できる支出のみを計上しましょう。

減価償却の仕組みと計算方法

減価償却は賃貸経営における最も重要な節税手法の一つです。その仕組みと具体的な計算方法を詳しく解説します。

減価償却とは何か

減価償却とは、時間の経過とともに価値が減少する資産について、取得費用を使用期間にわたって配分し、毎年少しずつ経費化していく会計処理です。建物や設備などの固定資産が対象となります。

例えば、2,000万円のアパートを建築した場合、初年度に2,000万円全額を経費とするのではなく、耐用年数に応じて毎年一定額ずつ経費計上します。これにより、資産の経済的価値の減少を適切に反映できるとともに、長期的な節税効果が得られます。

減価償却の対象となる資産

減価償却の対象となるのは、使用や時間の経過によって価値が減少する資産です。賃貸経営では、建物本体、付属設備、構築物などが該当します。

建物本体には、賃貸住宅の躯体や屋根、外壁などが含まれます。付属設備には、電気設備、給排水設備、ガス設備、冷暖房設備などがあります。構築物には、駐車場の舗装、外構、フェンスなどが該当します。

土地は時間の経過によって価値が減少しないため、減価償却の対象外です。物件を取得した際は、取得価額を土地と建物に適切に区分する必要があります。

法定耐用年数と償却率

減価償却を計算する際に使用する「法定耐用年数」は、資産の種類と構造によって税法で定められています。賃貸住宅の建物本体の法定耐用年数は以下の通りです。

  • 木造・合成樹脂造:22年
  • 木骨モルタル造:20年
  • 鉄骨造(骨格材の厚み4mm超):34年
  • 鉄骨造(骨格材の厚み3mm超4mm以下):27年
  • 鉄骨造(骨格材の厚み3mm以下):19年
  • 鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造:47年

償却率は、法定耐用年数に応じて定められており、定額法では「1÷耐用年数」で計算されます。例えば、耐用年数22年の木造建物の償却率は0.046(約4.6%)です。

定額法による減価償却の計算

平成28年4月以降に取得した建物は、定額法のみが適用されます。定額法では、毎年同じ金額を減価償却費として計上します。

計算式は「減価償却費=取得価額×償却率」です。例えば、建物部分が2,200万円の木造アパート(耐用年数22年、償却率0.046)の場合、毎年の減価償却費は「2,200万円×0.046=101.2万円」となります。

初年度は取得月から12月までの月数に応じて按分します。7月に取得した場合、使用月数は6カ月なので「101.2万円×6カ月÷12カ月=50.6万円」が初年度の減価償却費です。

中古物件の耐用年数

中古の賃貸物件を取得した場合、法定耐用年数ではなく、簡便法による残存耐用年数を使用できます。これにより、新築よりも短期間で減価償却できるため、年間の経費額が大きくなります。

法定耐用年数を超過している場合の計算式は「法定耐用年数×20%」です。例えば、築25年の木造アパート(法定耐用年数22年)の場合、「22年×20%=4.4年」となり、簡便法により耐用年数は4年となります。

法定耐用年数の一部を経過している場合は「(法定耐用年数−経過年数)+(経過年数×20%)」で計算します。築10年の木造アパートなら「(22年−10年)+(10年×20%)=14年」が耐用年数です。

建物と設備の区分

建物本体と建物附属設備は、それぞれ異なる耐用年数で減価償却します。建物附属設備の耐用年数は建物本体より短いため、区分することで早期に経費化でき、節税効果が高まります。

主な建物附属設備の耐用年数は、電気設備15年、給排水設備15年、ガス設備15年、冷暖房設備13年などです。新築時の見積書や契約書で、建物本体と設備の金額が区分されているか確認しましょう。

区分されていない場合でも、合理的な基準で按分することが認められるケースがあります。詳細は税理士に相談することをお勧めします。

確定申告に必要な書類と準備

スムーズに確定申告を行うためには、必要書類を事前に整理しておくことが重要です。ここでは、準備すべき書類を具体的に解説します。

収入に関する書類

賃貸経営における収入を証明する書類を準備します。賃貸借契約書、家賃入金明細、管理会社からの送金明細書などが該当します。

礼金や更新料、駐車場収入なども不動産所得に含まれるため、これらの入金記録も必要です。管理会社に委託している場合は、年間の収支報告書を取り寄せておくと便利です。

給与所得者の場合は、勤務先から発行される源泉徴収票も必須です。不動産所得と給与所得を合算して総所得金額を算出するため、両方の収入証明が必要になります。

経費に関する書類

経費として計上する支出については、すべて領収書や請求書、振込明細などの証拠書類を保管しておきます。税務調査では、経費の妥当性を証明するために提示を求められることがあります。

固定資産税の納税通知書、火災保険や地震保険の保険証券と領収書、管理会社への支払明細、修繕工事の見積書と領収書、ローンの返済予定表などが主な書類です。

クレジットカード払いの場合は利用明細書、口座引き落としの場合は通帳のコピーも証拠書類として有効です。領収書がない場合でも、出金記録と支払内容が明確であれば経費として認められるケースがあります。

物件取得時の書類

減価償却費を計算するために、物件取得時の書類が必要です。売買契約書、重要事項説明書、登記事項証明書(登記簿謄本)などを用意します。

これらの書類から、建物と土地の取得価額、建物の構造と面積、取得年月日などの情報を確認します。中古物件の場合は、築年数も減価償却の計算に必要です。

新築の場合は、建築請負契約書や工事代金の内訳明細書も保管しておきましょう。建物本体と設備を区分して減価償却するために役立ちます。

控除証明書

各種所得控除を受けるためには、それぞれの控除証明書が必要です。生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書、社会保険料(国民年金保険料)控除証明書などが該当します。

ふるさと納税をしている場合は、寄附金受領証明書も準備します。医療費控除を受ける場合は、医療費の領収書または医療費通知書が必要です。

これらの証明書は通常、10月から12月にかけて各機関から郵送されてきます。届いたらすぐにファイリングしておくと、申告時に慌てずに済みます。

マイナンバー関連書類

確定申告書にはマイナンバー(個人番号)の記載が必須です。マイナンバーカードを持っている場合は、カードの両面コピーを添付します。

マイナンバーカードがない場合は、通知カードまたはマイナンバーが記載された住民票の写しと、運転免許証やパスポートなどの本人確認書類が必要です。

e-Taxで電子申告する場合は、マイナンバーカードとICカードリーダーが必要です。スマートフォンがマイナンバーカードの読み取りに対応している機種であれば、カードリーダーは不要です。

青色申告承認申請書(青色申告の場合)

青色申告を行う場合は、事前に「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出しておく必要があります。新規開業の場合は開業から2カ月以内、既存事業の場合は青色申告をしようとする年の3月15日までが提出期限です。

青色申告では、複式簿記による帳簿の作成と保存が義務付けられます。確定申告時には、貸借対照表と損益計算書(青色申告決算書)を提出します。

青色申告承認申請書を提出していない場合は、その年は自動的に白色申告となり、青色申告特別控除などの特典は受けられません。

賃貸経営の確定申告の流れとスケジュール

確定申告は年に一度の作業ですが、計画的に進めることでスムーズに完了できます。年間を通じた流れとポイントを確認しましょう。

日常的な帳簿記録(通年)

確定申告の準備は、日々の帳簿記録から始まります。収入があったとき、経費を支払ったときに、その都度記録する習慣をつけましょう。

帳簿の形式は自由ですが、日付、項目、金額、相手先を記録します。手書きのノート、Excelシート、会計ソフトなど、自分に合った方法を選びます。白色申告の場合は簡易な帳簿で構いませんが、青色申告では複式簿記が必要です。

領収書やレシートは、月ごとにファイリングしておくと、年末の集計作業が格段に楽になります。デジタルデータの場合は、フォルダを作成して整理しておきましょう。

年末の決算準備(12月)

12月になったら、1年間の収支を確定させる準備を始めます。1月から12月までの収入と支出をすべて集計し、未処理の項目がないか確認します。

減価償却費の計算、前払費用や未払費用の計上、棚卸資産の確認など、決算整理の作業を行います。この段階で、翌年の経費として計上できるものと今年の経費となるものを区分します。

年末年始は管理会社や税理士も休みに入るため、疑問点があれば12月中旬までに確認しておくことをお勧めします。

必要書類の収集(1月)

年が明けたら、確定申告に必要な書類を本格的に集め始めます。源泉徴収票は通常1月末までに勤務先から発行されます。控除証明書など、まだ手元にない書類があれば、発行元に問い合わせます。

管理会社に物件管理を委託している場合は、年間の収支報告書や送金明細書を依頼します。金融機関には、ローンの年間返済明細や利息証明書の発行を依頼します。

この時期に書類を揃えておけば、申告期間中に余裕を持って作業できます

申告書の作成(1月下旬〜2月)

収支が確定し、必要書類が揃ったら、確定申告書の作成に取り掛かります。国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の指示に従って入力するだけで申告書が作成できます。

不動産所得の内訳書(または青色申告決算書)を先に作成し、その結果を確定申告書に転記します。給与所得や各種控除の情報も入力し、最終的な納税額または還付額を算出します。

会計ソフトを使用している場合は、ソフトから直接e-Taxのデータを作成できる場合があります。税理士に依頼している場合は、必要資料を渡せば申告書を作成してもらえます。

申告書の提出と納税(2月16日〜3月15日)

確定申告書の提出期間は、毎年2月16日から3月15日までです。この期間内に、前年分の所得を申告し、納税を完了します。

提出方法は、税務署への持参、郵送、e-Taxによる電子申告の3種類があります。e-Taxを利用すれば、自宅から24時間いつでも提出でき、青色申告特別控除額も最大65万円(電子申告でない場合は55万円)になります。ただし、不動産所得だけの場合には「事業的規模」が要件として求められ、e-Taxによる電子申告や電子帳簿保存の要件を満たすと65万円、そうでないと55万円または10万円の控除額になります。

納税は、口座振替(振替納税)、ダイレクト納付、インターネットバンキング、クレジットカード、コンビニ納付などの方法があります。口座振替を選択すれば、4月中旬に自動引き落としとなり、納付手続きの手間が省けます

還付金の受け取り(申告後1〜2カ月)

確定申告の結果、納めすぎた税金がある場合は還付されます。還付金は、申告書に記載した金融機関の口座に振り込まれます。

還付金の入金時期は、e-Taxで申告した場合は約3週間、書面で提出した場合は1〜2カ月程度かかります。申告内容に誤りや不備があると、確認作業のため更に時間がかかることがあります。

還付申告は、翌年1月1日から5年間提出可能なので、過去に申告し忘れた分も遡って申告できます。

青色申告と白色申告の選択

賃貸経営の確定申告には、青色申告と白色申告の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、自分の状況に合った方法を選びましょう。

青色申告のメリット

青色申告の最大のメリットは、青色申告特別控除です。複式簿記で記帳し、e-Taxまたは電子帳簿保存により申告すれば、最大65万円の控除が受けられます。簡易帳簿の場合は10万円の控除です。

青色事業専従者給与も大きなメリットです。配偶者や親族に給与を支払い、その金額を全額経費として計上できます。ただし、事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要です。

その他、純損失の繰越控除(3年間)、貸倒引当金の設定、30万円未満の少額減価償却資産の即時償却など、複数の税制優遇措置が用意されています。

青色申告のデメリットと要件

青色申告のデメリットは、複式簿記による記帳が必要で、白色申告より手間がかかる点です。簿記の知識がない場合、会計ソフトの導入や税理士への依頼が必要になり、コストがかかります。

青色申告を行うには、事前に「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。新規開業の場合は開業から2カ月以内、既存事業の場合は青色申告をしようとする年の3月15日までが期限です。

また、一定規模以上(おおむね10室以上または5棟以上)でないと、事業的規模とみなされず、青色申告の一部の特典が制限されます。

白色申告の特徴

白色申告は、青色申告の承認を受けていない場合に行う申告方法です。簡易な帳簿で済むため、記帳の手間が少なく、簿記の知識がなくても対応しやすいメリットがあります。

ただし、青色申告特別控除や専従者給与などの優遇措置は受けられません。配偶者や親族への給与は「事業専従者控除」として、配偶者86万円、その他の親族50万円までしか控除できません。

賃貸経営の規模が小さく、所得が少ない場合や、簿記に不慣れで複式帳簿の作成が難しい場合は、白色申告から始めるのも一つの選択肢です。

事業的規模の判断基準

不動産貸付が「事業的規模」に該当するかどうかで、青色申告の特典の範囲が変わります。事業的規模の形式的な基準は「5棟10室」と呼ばれ、独立家屋は5棟以上、アパート・マンションは10室以上です。

駐車場の場合は、50台以上で事業的規模とされます。異なる種類の不動産を組み合わせる場合は、独立家屋1棟=アパート2室=駐車場10台で換算します。

事業的規模と認められると、青色申告特別控除65万円の適用、青色事業専従者給与の全額経費化、事業税の課税などの影響があります。規模が基準に満たない場合でも青色申告は可能ですが、特別控除は10万円が上限となります。

どちらを選ぶべきか

賃貸経営の規模が大きく、所得が多い場合は、青色申告のメリットが大きくなります。特に、青色申告特別控除65万円は大きな節税効果があるため、事業的規模に達している場合は青色申告を選択すべきでしょう。

小規模で始めたばかりの場合や、本業が忙しく記帳に時間を割けない場合は、まず白色申告で慣れてから、将来的に青色申告に切り替えるという方法もあります。

会計ソフトを利用すれば、複式簿記の知識がなくても青色申告に対応できます。初期費用はかかりますが、長期的には青色申告の税制優遇により元が取れる可能性が高いでしょう。

賃貸経営の確定申告における注意点

確定申告を適切に行うために、押さえておくべき重要な注意点をまとめます。これらを理解することで、税務リスクを回避できます。

個人使用分と事業使用分の按分

自宅兼事務所として使用している場合や、自家用車を賃貸経営にも使用している場合は、経費を個人使用分と事業使用分に按分する必要があります。

按分の基準は合理的である必要があります。例えば、自宅兼事務所の家賃や光熱費は、床面積や使用時間に基づいて按分します。自動車関連費用は、走行距離や使用日数で按分するのが一般的です。

按分割合は一度決めたら、継続して同じ基準を適用することが重要です。毎年按分割合が大きく変動すると、税務調査で説明を求められる可能性があります。

消費税の取り扱い

住宅の家賃収入は消費税の非課税取引です。ただし、事業用物件の賃料、駐車場収入、礼金や更新料などは課税取引となります。

課税売上高が1,000万円を超えると、2年後から消費税の課税事業者となり、消費税の申告・納税が必要になります。賃貸経営の規模が拡大してきたら、消費税についても考慮する必要があります。

課税事業者になると、仕入税額控除により建物の修繕費や設備投資にかかる消費税の還付を受けられる場合があります。消費税の届出には期限があるため、税理士に相談することをお勧めします。

修正申告と更正の請求

確定申告後に誤りに気づいた場合、納税額が少なかったときは「修正申告」、多く納めすぎていたときは「更正の請求」を行います。

修正申告には期限がありませんが、税務署から指摘される前に自主的に修正すれば、加算税が軽減されます。更正の請求は、原則として法定申告期限から5年以内に行う必要があります。

経費の計上漏れや所得控除の適用忘れなどに気づいたら、速やかに手続きを行いましょう。特に還付を受けられる場合は、請求期限を過ぎると権利を失ってしまいます。

税務調査への備え

税務調査は、申告内容の正確性を確認するために行われます。賃貸経営では、経費の妥当性や収入の計上漏れなどがチェックポイントとなります。

税務調査に備えるには、日頃から適切な記帳と証拠書類の保管が重要です。帳簿や領収書は、法律で原則7年間(一部の書類は5年間)の保存が義務付けられています。

調査の連絡があったら、焦らずに対応しましょう。不明点があれば税理士に相談し、事実に基づいて正確に説明することが大切です。

赤字が続く場合の対応

賃貸経営で赤字が続くと、税務署から「事業実態があるか」を問われる可能性があります。趣味や節税目的だけの不動産投資とみなされると、損益通算が否認されるリスクがあります。

合理的な経営計画があり、将来的に黒字化する見込みがあることを説明できるようにしておきましょう。初期投資や大規模修繕により一時的に赤字になるのは正常な経営判断ですが、構造的な赤字が続く場合は経営戦略の見直しが必要です。

確定申告を活用した賃貸経営の節税戦略

確定申告を単なる義務ではなく、経営戦略の一部として活用することで、税負担を最適化できます。実践的な節税手法を紹介します。

損益通算の活用

不動産所得の赤字は、給与所得や事業所得などの他の所得と相殺できます。これが損益通算です。特に、物件取得初年度や大規模修繕を行った年は、経費が収入を上回りやすく、損益通算により大きな節税効果が得られます。

サラリーマンが賃貸経営を行う場合、不動産所得の赤字を給与所得と相殺することで、源泉徴収された所得税の還付を受けられます。還付金は貴重なキャッシュインフローとなり、<賃貸経営の資金繰りを改善できます。

減価償却の戦略的活用

減価償却費は実際の現金支出を伴わない経費であるため、所得を減らしながらキャッシュフローを確保できる優れた節税手段です。特に、建物と設備を適切に区分することで、早期に経費化できる金額が増えます。

中古物件を取得する場合は、耐用年数が短くなるため、年間の減価償却費が大きくなります。築古物件の購入は、節税という観点からも有利になる場合があります。

ただし、減価償却による節税効果は物件保有期間中に限られます。売却時には、減価償却した分だけ帳簿価額が下がり、譲渡所得が増える点に注意が必要です。

修繕費と資本的支出の判断

修繕費は全額をその年の経費とできますが、資本的支出は減価償却の対象となり、複数年にわたって経費化します。支出の性質を正しく判断することで、適切な節税ができます。

判断に迷う場合、支出額が60万円未満または前期末取得価額の10%以下であれば、修繕費として処理できる基準があります。大きな工事を行う際は、工事内容を細分化して契約することで、修繕費として処理できる部分を増やせる場合があります。

小規模企業共済の活用

事業的規模で賃貸経営を行っている場合、小規模企業共済に加入できます。掛金は全額が所得控除の対象となり、最大で年間84万円の所得控除が受けられます。

小規模企業共済は、将来の退職金や事業資金として積み立てながら、毎年の所得税・住民税を軽減できる制度です。廃業時や引退時に共済金を受け取る際も、退職所得や公的年金等の雑所得として税制優遇が受けられます。

青色事業専従者給与の設定

青色申告で事業的規模の場合、配偶者や親族を青色事業専従者として給与を支払えば、その金額を全額経費とできます。家族全体の税負担を考えると、大きな節税効果があります。

専従者給与を設定する際は、業務内容と給与額が妥当であることが求められます。過大な給与は否認されるリスクがあるため、同業他社の水準や業務の実態に見合った金額に設定しましょう。

専従者給与を支払うと、配偶者控除や扶養控除は受けられなくなります。総合的な税負担を計算して判断することが重要です。

ふるさと納税の併用

賃貸経営による所得が増えると、所得税・住民税の負担も増加します。ふるさと納税を活用すれば、自己負担2,000円で、所得税と住民税の控除を受けながら返礼品も受け取れます。

ふるさと納税の控除上限額は総所得金額によって変わります。不動産所得が増えた年は、控除上限額も上がるため、より多くの寄附ができます。

ふるさと納税は、確定申告時に「寄附金控除」として申告します。複数の自治体に寄附した場合は、すべての寄附金受領証明書を添付しましょう。

会計ソフト・税理士の活用

確定申告の負担を軽減し、正確性を高めるために、会計ソフトや税理士の活用を検討しましょう。それぞれのメリットと選び方を解説します。

会計ソフトのメリット

会計ソフトを使用すると、複式簿記の知識がなくても青色申告に対応できます。収支を入力するだけで自動的に仕訳が作成され、決算書や確定申告書まで作成できます。

銀行口座やクレジットカードと連携できるソフトなら、取引データを自動取得して記帳の手間を大幅に削減できます。また、確定申告書をe-Taxデータとして出力できるため、電子申告もスムーズに行えます。

主な会計ソフトには、freee、マネーフォワード クラウド確定申告、弥生の青色申告オンラインなどがあります。料金は年間1万円前後から利用でき、初期費用も抑えられます。

会計ソフトの選び方

会計ソフトを選ぶ際は、使いやすさ、機能、料金のバランスを考慮します。簿記の知識がない場合は、質問に答えるだけで仕訳ができる初心者向けのソフトがお勧めです。

不動産所得に特化した機能があるかも確認ポイントです。減価償却の自動計算、物件ごとの収支管理、複数物件の一元管理などの機能があると便利です。

多くのソフトは無料試用期間を設けているので、実際に使ってみて自分に合うか確認してから契約するとよいでしょう。

税理士に依頼するメリット

税理士に依頼する最大のメリットは、税務の専門家による正確な申告書作成と、適切な節税アドバイスが受けられることです。複雑な税制や最新の改正にも対応してもらえます。

税務調査が入った場合も、税理士が立ち会って対応してくれるため、安心です。また、記帳代行を依頼すれば、確定申告にかかる時間と手間を大幅に削減できます。

賃貸経営の規模が大きい場合や、複数の収入源がある場合、相続税対策も含めた総合的なアドバイスが必要な場合は、税理士への依頼を検討する価値があります。

税理士費用の相場と選び方

税理士報酬は、業務内容や賃貸経営の規模によって異なります。確定申告のみの依頼なら5万円〜15万円程度、記帳代行も含めると年間15万円〜30万円程度が相場です。

税理士を選ぶ際は、不動産所得の申告経験が豊富か、説明が分かりやすいか、料金体系が明確かなどを確認します。複数の税理士に見積もりを依頼し、比較検討するとよいでしょう。

税理士報酬は経費として計上できます。節税効果と報酬を比較して、費用対効果が見合うかを判断しましょう。

自分で行うか専門家に依頼するかの判断基準

小規模で収支がシンプルな場合、会計ソフトを使えば自分でも十分に対応できます。青色申告特別控除10万円であれば、簡易帳簿で済むため、初心者でも挑戦しやすいでしょう。

物件数が多い場合、法人化を検討している場合、相続対策も必要な場合などは、税理士の専門的なアドバイスが有益です。また、本業が忙しく時間が取れない場合も、税理士への依頼を検討すべきです。

最初は自分で行い、規模が拡大したら税理士に依頼するという段階的なアプローチも有効です。確定申告を通じて税務の基本を理解しておくと、税理士とのコミュニケーションもスムーズになります。

賃貸経営の長期的な視点と確定申告

賃貸経営は長期的な事業です。確定申告を単年度の手続きとしてではなく、経営全体の中で戦略的に捉えることが成功の鍵です。

キャッシュフローと税金のバランス

賃貸経営では、会計上の利益とキャッシュフローが一致しないことがよくあります。減価償却費は経費ですが現金支出を伴わないため、黒字でもキャッシュは潤沢、赤字でも資金繰りは苦しいといった状況が生じます。

節税を重視しすぎて経費を増やすと、所得は減りますが、金融機関からの評価が下がり、次の融資が受けにくくなる可能性があります。逆に、税金を気にせず利益を出すと、税負担が重くなります。

税金とキャッシュフローのバランスを考えた経営判断が重要です。長期的な資金計画を立て、毎年の確定申告の結果を分析しましょう。

建て替え・大規模修繕のタイミング

建物の老朽化に伴い、いずれは大規模修繕や建て替えが必要になります。これらの工事は多額の費用がかかるため、計画的に準備することが重要です。

大規模修繕を行う年は経費が増加し、所得が減少または赤字になります。他の所得がある場合は損益通算により節税効果が得られますが、修繕の時期や規模は、税負担だけでなく、<物件の市場競争力や収支も総合的に考慮して判断すべきです。

相続税対策としての賃貸経営

賃貸用不動産は、相続税評価額が自用地・自用家屋より低く評価されるため、相続税対策として有効です。貸家建付地は更地の約80%、貸家は建物価格の約70%で評価されます。

ただし、相続後に賃貸経営を継続できるか、相続人間でトラブルが起きないかなども重要な検討事項です。生前から家族と経営方針を共有し、必要に応じて遺言書や信託の活用も検討しましょう。

毎年の確定申告で収支を明確にしておくことは、相続時の財産評価や遺産分割協議をスムーズに進めるためにも役立ちます。

法人化の検討

賃貸経営の規模が大きくなり、所得が増えてくると、個人事業より法人化した方が税負担を抑えられる場合があります。一般的に、課税所得が800万円〜1,000万円を超えると、法人化のメリットが出始めると言われています。

法人化すると、所得税ではなく法人税が適用され、税率が異なります。また、役員報酬として自分に給与を支払うことで給与所得控除が受けられ、家族を役員にすることで所得分散もできます。

ただし、法人化には設立費用や維持費用(決算申告費用など)がかかります。また、社会保険への加入義務も発生します。税理士に相談して総合的にシミュレーションしてから判断しましょう。

経営データの蓄積と分析

毎年の確定申告を通じて蓄積されるデータは、賃貸経営の貴重な資産です。収支の推移、経費の内訳、稼働率の変化などを分析することで、経営の課題や改善点が見えてきます。

複数年のデータを比較すると、季節変動や経年劣化の影響、市場環境の変化なども把握できます。こうした分析を基に、賃料設定の見直しやコスト削減、リフォーム投資などの経営判断を行えます。

確定申告を単なる税務手続きとしてではなく、経営分析のツールとして活用することで、賃貸経営の質を高められるでしょう。

まとめ

賃貸経営における確定申告は、単なる税務上の義務ではなく、経営戦略の重要な一部です。適切に経費を計上し、減価償却を活用することで、合法的に税負担を最適化できます。青色申告と白色申告の選択、必要書類の準備、年間スケジュールの把握など、基本を押さえることでスムーズに申告できるようになります。

会計ソフトや税理士を活用すれば、記帳や申告の負担を軽減しながら、正確性と節税効果を高められます。また、確定申告を通じて蓄積される経営データは、長期的な事業計画や投資判断にも役立ちます。賃貸経営の規模拡大や相続対策も視野に入れ、総合的な視点で確定申告に取り組みましょう。まずは今年の確定申告から適切な帳簿記録を始め、税金・キャッシュフロー・融資のバランスを意識した戦略的な経費計上により、賃貸経営の長期的な収益性向上を目指してください。

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