2025年10月に自民党総裁選において高市早苗氏が選ばれ、2026年2月8日衆議院選挙では自民党が単独で3分の2を超える310議席を獲得、戦後最多となる圧勝となりました。それまでの議席数を考慮するとすさまじい獲得議席です。その分高市政権の期待と責任は大きいと言えます。さて今回のコラムでは高市総理による経済政策、いわゆる「サナエノミクス」により今後不動産業界がどう変わっていくか検証してみたいと思います。

アベノミクスの再来か 株式市況も活性化

下の表にあるように、2012年12月の第二次安倍政権発足当時の直近の株価を比較してみると、なんと約5倍となっています。安倍政権においては株価も低いラインでのスタートでしたが、高市政権においてはもともと高い株価でのスタートとなります。

株価上昇が不動産市場に与える良い効果としてはまず、「資産効果」が挙げられます。株の売却益で得た譲渡益が車や住宅、旅行、飲食を含め多岐にわたる分野で消費が活性化します。特に東京や大阪を中心としたタワーマンションなどは現金購入層もとても多く、資産効果の恩恵を受ける事になります。

株価は不動産市場における一つの先行指標という見方ができますので、もちろん上がったり下がったりのボラティリティはありますが、中・長期トレンドで今後も株価が上昇すれば不動産市況における活性化にもつながります。日経平均株価は2026年2月26日に史上最高となる5万8,753円を記録しました。ただし今回の米国・イスラエルのイランにおける紛争による原油価格の上昇に伴い、3月9日には史上三番目の下げ幅となり一時4,200円も下落、しかし翌日にはトランプ大統領の停戦への言及から1,500円以上するなど、中東情勢により株価は乱高下の様相を示しています。

若い方を中心にNISAの口座開設が増え、今や国民の5人に1人がNISA口座を所有しており、株式市場はより安定が望まれると考えられます。最近ではNISA口座開設をきっかけに不動産投資に関心を持たれる方が増えているようです。

アベノミク発足(2012年12月26日)当時と現在の株価の違い

 

日経平均株価(終値)

2012年12月26日

1万0,107円

2026年 2月26日

5万8,753円

2026年 3月11日

5万5,025円

企業業績の向上と手取りの賃金はどうなるか

アベノミクスの功績はとても大きく、日本経済に大変多く寄与しました。しかしながら一つ問題を挙げるのであれば、内部留保がとても巨大化し、設備投資や特に賃金アップにはあまり恩恵が来なかったという事です。

税制ひとつとってみても法人税は下がったにも関わらず、国民の税金や社会保険は上がる一方で、つまり企業は潤ったが、国民はあまりその恩恵を感じていないという事です。

昨年から国民の玉木総裁がとらえているように、とくかく手取りを増やす政策、このアナウンスが奏功し自民党内においても手取りアップが政策の重要ポイントの一つとなっています。具体的にはこれから論議されていきますが、税負担の軽減、社会保険料の引き下げ、さらに今年4月の春闘により家計における可処分所得がどの程度増えるのか、実質賃金がどの程度増えるのか、などです。

以前と比べて直近では物価もやや落ち着きを見せています。しかし今回の中東情勢により3月中旬現在、原油価格は1バレル90ドル台に上昇しており、今後供給負担が続けは100ドルや150ドルを超える水準も危惧されています。こうした原油高が定着すると日本の経済の影響はとても大きくなり、また物価上昇に拍車がかかる可能性が高くなってきています。サナエノミクスにおいては早速エネルギー価格抑制のため「石油備蓄放出」を決定しました。しかしこのような方策の持続性には疑問符がつくかもしれません。

2026年1月にはガソリン減税の恩恵もあり実質賃金が13ヵ月ぶりにプラスに転じました。しかしこうした原油高・物価高が続けば実質賃金は春以降もマイナスとなる可能性もあります。

積極財政が与える住宅ローンへの影響は

高市政権においては、アベノミクスのように「積極財政」を行うと表明しています。当然の事ながら財務省は「利上げ」には慎重な姿勢を見せています。高市総理はもともと金融においては「ハト派」として知られ、金融緩和路線を主張しています。

そもそも財政とは国が国民のためにお金を使う事を意味します。しかしあまりにも使い過ぎると国債の利払いが増え、長期金利の上昇によりその負担も大きくなります。高市総理の考え方としては、長期金利は上昇するが、その分企業業績や国民の所得アップ、消費の拡大によりGDPの中での相対的な国債への利払いという考え方で、しかも1年単位ではなく2年3年というタームの中での財政政策という視点です。簡単にいうと「目先の事でとやかく言わないで中期的な視点で見て欲しい」というシグナルと考えられます。

但し財政負担が多くなると円安→物価高の要因ともなりますので、そのさじ加減が求められるのではないでしょうか。

では実際、住宅ローンは上がるのでしょうか。既に長期金利は上昇していますので、フラット35などの居住用の固定金利は上昇傾向となってきています。しかし政策金利を基準とする変動金利はいまだ低金利圏で推移しています。日銀の政策金利におけるターミナルレートは1%~1.5%程度と予想されていますが、そこにたどり着くためにはかなりの時間を要すると考えます。つまり現在の政策金利が例えば1%になるためには、実質賃金のプラスが常態化するという事が必須条件ですので、そこはしばらく時間がかかるかと考えます。特に不動産投資に利用されるローンは変動型が多く、しばらくは低金利の恩恵を受けられる時期が続くと考えられます。

ここで最も重要な事は、金利が上昇するにしても「上昇するスピード」が極めて重要となります。不動産投資の観点から見ると、金利がゆっくり上昇する事によりその間に給料が上がったり家賃が上がったりという金利上昇をカバーできる準備が整いやすいからです。そのような観点から今後は金利上昇に強い不動産投資、端的に言うと家賃が上がりやすい(都心からの距離、駅からの距離、周辺の賃貸需要、再開発による資産価値の増大などの恩恵を受けやすい)投資不動産を選ぶ事が重要となります。

どうなる地価・建築費

中東情勢による原油価格上昇は不動産業界においても建築資材・物流、さらにエネルギーコストの上昇による建設現場での電力、様々な部品の製造工程のコストの上昇、さらにガソリンの値上げによる物流コストの上昇など、その影響はとても大きいと考えられます。

つまりもともと高止まりしている建築コストがさらにもう一段階あがるという事です。その先に起こる事は、大きく分けて二つあると考えます。

一つ目は、工期の長期化です。供給サイドもなるべく高コストを下げたいために設計から着工まで多くのシミュレーションを作ります。また途中からコストが上がる事が考慮されるとまた長期化する可能性もあります。

二つ目は、供給サイドから見たコスト圧縮型マンションの出現の可能性です。例えば同じ3LDKでも70㎡から65㎡へ、同じワンルームマンションでも28㎡から25㎡へ、つまり価格転嫁できない部分を面積圧縮で補うという考え方です。このように様々な影響が出ると考えられます。

建築費においては先に述べたように今年は原油高、エネルギー価格の上昇と共に人手不足の加速、さらに多くのインフラ整備、官民合わせた建て替え事業など建築費が下がる要素が見当たりません。

地価については、大阪圏内では都心部などを中心に地価の上昇が続いており、2026年も強含みとなると予想されます。建築費が為替とか原油など外的要因の影響を受けるのと違って、地価は国内の需要によって変動しますので、海外リスクからの影響度は極めて低いと考えられます。東京も大阪もそうですが、特に駅近の商業地はとてもその需要層が厚く、例えば不動産会社・金融機関、ホテル、メディカルビル、多くの商業施設など土地の争奪戦が続く状態となっています。

サナエノミクスでは人口知能(AI)や半導体への支援を強化しており、近年では熊本の半導体進出エリアの地価やインバウンドが訪れるエリアの地価が上昇していますが、今年も例えば北海道千歳市に巨大半導体施設が建設されるという事で既に地価が反応しています。

また日中関係の冷え込みからインバウンドが減ると考えられましたが、減った分を欧米・他のアジア諸国などを中心に余りあるインバウンドが来日し日本経済を支えています。人が多く集まる所は土地の収益性の高まりと共に上昇波動となります。一方、人口減・シャッター通りのエリアにおいては需要の減退と共に地価の下落も予想されます。

国土強靭化計画が与える影響は

サナエノミクスの掲げる政策の一つに「国土強靭化計画」があります。

この計画は元々あるものですが、近年の気候変動による自然災害は日本のみならず世界中で頻発しています。日本国内においても過去に経験したことがないような暴風雨、土砂災害、さらに地震や津波なども発生しています。

こうした災害から国民の生活と財産を守るためにもとても重要な計画となります。

その中でも急がれるのは、特に1960年代に建設された高速道路や様々な社会インフラが経年劣化とともにそのメンテナンス・大規模工事が必須となっています。日本初の高速道路である名神高速道路は1963年の開業以来、実に60年以上が経過しています。

都心部では道路が突然陥没したり、ガス管や水道管が大きなダメージを受けたりする事故が発生する事もあり、まさに私達の生活に直結する訳です。特に日本では昭和22年から24年生まれのいわゆる団塊の世代が郊外に多くの人が住宅を持つようになり、市街地が広がったという歴史があります。それに伴い社会インフラも多くできましたが、それらを含め老朽化している訳です。安全な街にできる安全な住宅に住む事によってはじめて安全となる訳です。

国土強靭化計画により多くの建築資材や人材の需要が高まれば、マンションなど建設現場で働く人の確保や資材の確保がより難易度が高まっていきます。こうした事からも今後も建築費の上昇が続くと考えられます。

建設後50年以上経過する社会資本の割合

 

2030年3月

2040年3月

道路橋[約73万橋(橋長2m以上)]

約54%

約75%

トンネル[約1万2千本]

約35%

約52%

河川管理施設[約2万8千施設]

約42%

約65%

水道管路[総延長:約74万km]

約21%

約41%

下水道管渠[総延長:約49万km]

約16%

約34%

港湾施設[約6万2千施設]

約44%

約68%

<国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来」より作成>

今年も続く海外からの不動産購入

現在都心のタワーマンションなどで外国人投資家の短期転売が問題点としてクローズアップされています。

サナエノミクスにおいては決して外国人を排他的な視点で見るのではなく、日本の法律・ルールに基づいて健全な状況で過ごしてくれる人はむしろ歓迎という事です。

海外から来る方や海外の投資家も決して短期転売という視点でない資産運用であれば金融がボーダーレス化している現在においてはむしろ自然な事と考えます。

では海外の投資家がなぜ日本の不動産を選ぶのか、その主な理由としては、

1-日本国内における治安が良い

2-不動産を取り巻く法制度の信頼度が高い

実際2026年4月からマンション管理に関する法律が改正されています。

3-所有権である事や外国人でも不動産を購入しやすい事

このような理由から日本における不動産の信頼度は極めて高く、さらに建築技術、安全性も高い評価を受けています。

まとめ

今回のイスラエル・米国とイラン戦争は世界に衝撃が走りました。このような出来事は株式市場などには顕著に反応がありますが、では不動産市況においてはどのような影響が出るでしょうか。かつてリーマンショックやコロナショック、湾岸戦争、様々な出来事がありましたが、同じ不動産業界でもオフィスビル、と違って居住用の不動産はその影響度は極めて低いと考えられます。

例えば実際にバブル時代にマンションを購入した人は今年で40年目を迎える訳です。その間、先ほど述べたように阪神淡路大震災、リーマンショック、東日本大地震、コロナと多くの荒波をくぐってきましたが、今現在の不動産価格は過去の歴史の中で一番高い状況となってきている訳です。長期の視点で見た場合に不動産がいかに強いかという事がよく理解する事ができます。

2026年はサナエノミクスのもと、投資環境は引き続き良好な状態が続くもの、今年以降はまさにマンション投資における「選択の時代」になると考えます。つまり同じマンション業界においても優勝劣敗の状況が加速するという事です。外側の要因はともかくとしてマンション選択の個別要素(立地・構造・スペック・管理)が空き家住宅900万戸時代においえはまさに重要なキーワードとなると確信します。

今回の自民党政権は維新との連立となりましたので、今後は維新の大阪都構想を中心に関西大阪万博跡地の再開発、IR・カジノ構想など大阪から万博終了後、さらに世界的な脚光を浴びる可能性を帯びています。

大阪では「夢洲」への複数路線の延伸計画、さらに「なにわ筋線」や「リニア中央新幹線」の開業も予定され、さらに大規模な再開発が続き街が大きく変貌してきています。

サナエノミクスによる経済発展の波を受けて、今後ますます大阪の不動産市場も活性化する可能性も高いのではないでしょうか。

 

執筆者

住宅コンサルタント野中清志

住宅コンサルタント野中清志

株式会社オフィス野中 代表取締役
首都圏・関西および全国でマンション購入に関する講演多数。
内容は居住用から資産運用向けセミナーなど、年間100本近く講演。