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高齢化が進み将来の備えが重要な時代に
「人生100年時代」と言われる程、私達の平均寿命は長くなっています。それに従って定年後の、いわゆる老後の時間も長くなってきています。こうした将来に備えるための「投資」への関心が高まってきています。
厚生労働省の簡易生命表によると平均寿命は男性81.05歳、女性87.09年となりました。新型コロナなどで若干寿命は縮小傾向にあるものの、歴史的にみて非常に長寿となってきています。昭和22年には平均寿命は男性50.06歳、女性53.96であり30年以上長くなってきている事が分かります。
寿命が延びた要因としては医療の高度化、食生活を始めとする栄養の充実、冷暖房を始めとする住宅環境の良化など様々な要因が考えられますが、何よりも国民の健康への関心度が高まっている事も要因と考えられます。
平均寿命の推移
| 1947年(昭和22年) | 2022年(令和4年) |
男性 | 50.06年 | 81.05年 |
女性 | 53.96年 | 87.09年 |
<厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」より作成>
長寿化に加え出生率が低い「少子高齢化」の影響で、高齢化率も高まっています。令和4年10月1日現在の総人口に占める65歳以上の割合は29.0%です。高齢化は将来的にも進み、2070年には2.6人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上となると予測されています。2070年には15~64歳の1.3人で1人の65歳以上を支える事になると予想され、将来の高齢化はかつて見ない水準となると予想されます。
高齢化が進む中で将来の税や社会負担の増加、年金など給付の減少などの可能性もあります。こうした中で、「将来への備え」が極めて重要な時代となっています。
高齢化率の予測
| 2040年 | 2050年 | 2060年 | 2070年 |
高齢化率 | 34.8% | 37.1% | 37.9% | 38.7% |
65歳以上人口を15~64歳人口で支える割合 | 1.6人 | 1.4人 | 1.4人 | 1.3人 |
内閣府「令和5年高齢化白書」より作成
こうした高齢化のスピードについて地域別に見てみると、東京では都区部の方が市町村部よりも高齢化率が低くなっています。つまり都心部に若い人口が流入していると考えられます。
地域別高齢化率の推移(各年9月 15 日時点推計)
出典:東京都「令和5年「敬老の日にちなんだ東京都の高齢者人口(推計)」
家計の金融資産は過去最高に
家計の金融資産が増えています。日銀が発表した2023年4~6月期の資金循環統計(速報)によると2023年6月末時点の家計の金融資産は2,115兆円と過去最高となりました。株高などにより株式や投資信託の割合も過去最高となりました。
家計の金融資産の内訳を見ると「現金」の割合が最も多く52.8%を占めています。
こうした現金・預金の投資への活用が期待されています。
家計の金融資産の内訳
| 残高 | 構成比 |
現金・預金 | 1,117兆円 | 52.8% |
債務証券 | 28兆円 | 1.3% |
投資信託 | 100兆円 | 4.7% |
株式等 | 268兆円 | 12.7% |
保険・年金・定型保証 | 538兆円 | 25.4% |
うち保険 | 382兆円 | 18.1% |
その他 | 64兆円 | 3.0% |
金融資産計 | 2,115兆円 | 100% |
<日銀「資金循環統計(速報)」2023年4~6月期>
ここでこの「金融資産2,115兆円」を日本の人口(約1億2450万人)で割って見ると、1人当たり約1,700万円となります。3人家族では5,100万円にもなる計算になりますが、少し現実離れしている感じがします。これは1人で多くの資産を持っている方も多く、1億円以上の金融資産の保有層は約150万世帯以上もいるなど一部の方が大きな資産を持っている事も要因です。一般のサラリーマンの方はこうした多くの金融資産を作る事は難しく、安定した資産運用が重要となってきています。
岸田内閣では本年を「投資元年」と定める
将来の年金負担は国家財政にとっても年々厳しくなってきており財源の確保も急務となってきています。岸田内閣はこうした将来の自助努力と景気の活性化のために「投資」を推奨しています。岸田総理は今年2023年を「資産所得倍増元年」として「貯蓄から投資へ」というメッセージを発表しています。
こうした中で国民の投資を増やす事で資産形成を進め、なおかつ経済的にも発展を見込んでいます。
また2023年9月には「資産運用特区」を創設して海外からの日本への投資を促す環境を整備する事も表明しています。また「資産運用特区」は札幌・東京・大阪・福岡などが検討されており、今後「東京」などの国際的な魅力もさらに高まると考えられます。
このような背景から国を挙げて資産運用を推奨したり、個人でも投資への関心が高まっています。投資対象にも様々なバリエーションがありますが、政府は投資への推進として2024年からのNISAやiDeCoの拡充を発表していますので詳しく見てみましょう。
NISAと新NISA
2014年に始まった制度で、個人投資家のための税制優遇制度です。
NISAとは、株式や信託投資をした場合の利益や配当に対して税金がかからない制度です。
「NISA口座」を開設して一定の範囲内でしたら、その利益は通常20%の税金がかかる所が無税になります。
一般NISAは株式・投資信託を120万円まで購入でき、最大5年間非課税で保有できます。つみたてNISAは一定の投資信託を年間40万円まで保有でき、最大20年間非課税となります。
2024年からは「つみたて投資枠」「成長投資枠」という枠組みとなり、この二つは併用も可能です。年間投資枠は「つみたて投資枠」が120万円、「成長投資枠」は240万円で、年間最大360万円となります。
非課税保有期間は無期限となり、非課税保有限度額は生涯投資枠として1800万円となります。
2023年にNISA口座を開設すれば、2024年からの新NISA口座は自動的に開設されます。
iDeCoとは
確定拠出年金法に基づく私的年金制度です。自分で申し込み、自分で資金を運用してその運用により年金として受け取ります。
こうした掛け金、運用益、給付を受ける場合に税制上の優遇措置が受けられます。
通常、所得には所得税と住民税がかかりますが、iDeCoに拠出した場合は掛け金全額が所得控除されますので税金分が軽減される事になります。
運用益も通常は20%の課税がありますが、iDeCoの場合は非課税となります。
また年金として受け取る場合には「公的年金等控除」、一時金の場合は「退職所得控除」の対象となります。
このように優遇枠が広がる事で認知度も増し、投資を始める方のすそ野も広がる可能性があります。
NISA、iDeCoにも注意が必要
こうしたNISAやiDeCoは株式や投資信託による資産形成の制度です。このため注意しなければいけないのは、元本保証がない物もあり損失が出るケースもある事です。
またローンを利用したレバレッジを効かせた投資もできませんので、投資(掛け金)には全額現金が必要となります。
iDeCoなどは60歳になるまで引き出せませんので、急に資金が必要となる事も多い若い方や夫婦などには検討も必要な場合もあります。
金(きん)投資とは
現在世界有事などの影響もあり「金(きん)」価格が過去最高となりました。
金は昔から有事の際に価格が上昇してきた経緯があります。金はいざという時に換金できる事が最大の魅力と言えます。
しかし購入に現金が必要となり、また金を保有していて価格が上昇しても、その配当を受け取る事などはできません。また現在高値ですので、売却時には価格が下がっている事も考えられます。金を預けている場合は保管料などもかかる場合もあります。
「金預金」では「金」の所有権は運用会社となり、会社が倒産した場合は「金」が戻らない場合もあります。つまり将来の年金対策としての資産運用としてはあまり適していない可能性もあります。しかし金は資産運用という観点のみではなく、可搬性や常に一定の価値がある事、そして金の装飾品は持っていて豊かな気持ちになる事などのメリットもあります。
オルタナティブ投資
代表的な投資と言えば「株・債券」などがありますが、それ以外の投資は「オルタナティブ投資」とも言われます。
例えば私達の年金はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)によって運用されていますが、そのほとんどは国内・国外の株式及び債券に投資されています。これ以外にも「オルタナティブ投資」として「不動産」などにも投資しています。近年ではその割合も増加し1.38%となっています。
つまり私達の年金の原資は不動産でも運用されていますので、間接的には私達は不動産投資をしている事にもなります。
機関投資家による不動産投資の種類は
不動産投資は伝統のある投資であり、日本でも古くから行われています。東京など大都市などには日本のみならず世界からの投資資金が集まってきています。
さらに岸田総理は世界中から日本への投資を増やすように呼びかけています。
都心の商業地などを中心に地価・不動産価格が上昇していますが、こうしたエリアには金融機関や投資会社などのいわゆる「機関投資家」が多く資金を投資しています。
こうした機関投資家による不動産投資の種類については大きく分けて4種類あります。
(1)コア型投資
インカムゲインを主体に置いた投資
(2)コアプラス型
インカムゲインとキャピタルゲインの両方を目指すもの
(3)バリューアセット型
投資物件にリノベーションなどを施し付加価値を付けて運用する
(4)オポチュニスティック型
キャピタルゲインに主体を置いた投資
GPIFでは不動産投資は「(1)コア型投資」に主眼が置かれています。つまり私達の将来の年金の原資となる資金は、比較的安全な、一等地の不動産などに投資されている訳です。
個人で行うマンション投資は、地価が急上昇したバブル期には(4)オポチュニスティック型、つまりキャピタルゲイン=売却益を狙う投資が主流でしたが、現在は(1)コア型投資、つまりインカムゲイン=家賃収入に主眼を置いた安定した投資が主流となっています。もちろんエリアや時期などによってマンションの資産価値が上昇すればキャピタルゲインが狙える場合もあります。
REIT(不動産投資信託)とは
REITは投資家や金融機関などから資金を集めて、運用会社が不動産によって運用するものです。法人によって利回りは異なります。借入による投資はできませんので、少額の投資となります。ワンルームマンション投資のように現物資産を購入する訳ではありません。ワンルームマンション投資ではローンによる借入を利用するので、毎月の負担が少なくてもローン終了後にはマンションを1室手に入れる事ができますが、リートでは運用益のみが利益となります。また運用益が低い場合や元本割れする場合もあります。しかし少額から始められる事もメリットです。
ワンルームマンション投資とは
今注目を集めている不動産投資の仕組みを見てみましょう。
これはワンルームマンションなどの区分所有マンションをローンで購入し、ローン終了後は家賃収入を年金代わりとして受けとるものです。
今後日本では単身世帯が増加し、都市部では半数を超えています。単身者の若い層の多くは賃貸住宅に住みますので、好立地のワンルームマンションの需要は多く、賃料も安定していると言えます。
購入後は賃貸管理システムもあり、手間もかかりません。また不動産は現金に比べて相続税評価額が低いので相続対策にも有効です。将来のための資産運用法として注目を集めています。
まとめ
岸田総理からは「貯蓄から投資へ」というコメントを見る事も多くなりました。NISAやiDeCoなどの投資も始める方も増えてきているのではないでしょうか。
こうした投資人口が増加する中で「不動産投資」の人口もさらに増加する可能性もあります。株や投信信託などの投資と同時に、不動産投資を資産運用の中心として据えて、いわば「投資の4番バッター」とする事も一つの考え方です。
不動産を投資に組み込む事で、将来への資産運用もより確実なものになる可能性もあると言えるのではないでしょうか。