今後の金融情勢とは。金利と不動産投資の関係性とは

今回は不動産投資とも関連深い金融情勢について、その影響も含めて解説いたします。

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景気と金利の関係は

不動産投資をする上で大切なチェックポイントとしては立地、建物のクオリティ、賃貸市場はもとより、資産性、再開発などの将来性などがありますが、投資系のローン金利の状況及び先々の動向も極めて重要な指標となります。

過去の金融市場を振り返って見ると、1980年代においては住宅ローン金利は居住用において5.5%~6%、投資用のマンションのローンなどは7%~8%の高水準で推移していました。一般的に金利は景気拡大期においては上昇局面にあり、逆にバブル崩壊など下降局面においては金利も下降局面を迎える傾向があります。

2000年前半からは不動産業界における不良債券処理も一巡し、またマンションなど住宅の販売が好調な時期を迎え、徐々に金利も上昇局面となってきました。しかし、2012年のアベノミクス発足以来、異次元の金融緩和が続き2023年の現在においても日銀による金融緩和が継続されている状態となっています。

日銀は2016年から「マイナス金利」が導入されました。これは金融機関が日銀にお金を預けると逆に金利の支払いが発生しますので、金融機関が日銀に預けずに企業や個人への貸し出しする事を促すものです。

しかし、現在はインフレが続き、2023年7月末に行われた日銀の「金融政策決定会合」では、日銀の金利操作であるYCC(イールドカーブコントロール)の許容幅について上限の引き上げを決定しています。

固定金利と変動金利

一口に金利と言っても、住宅ローンや投資ローンなどは「固定金利」と「変動金利」に分かれており、「固定金利」は10年ものの国債の動きに影響を受けます。日銀の植田新総裁による長期金利の変動許容幅が上限0.5%から1%に変わった事により、さっそく市場が反応し、2023年8月22時点で0.665%に上昇しています。今後はさらに上限の撤廃という可能性も秘めています。

もう一つは「変動金利」です。「変動金利」は政策金利とも言われ、近年非常に低い水準で推移しています。例えばネット系の住宅ローンなどではなんと0.3%を下回る住宅ローン商品も出現しています。また投資系のローンにおいても1%台から2%前半と過去を振り返れば信じられない程の金利で推移しています。

インフレには二つの種類、一つは「コストプッシュ型」

次にインフレと金利との関係について考察してみたいと思います。昨今の日本経済においては、食料品、電気ガスなどのエネルギーを中心に幅広い分野で物価が上昇しています。

常識的に考えれば、これだけ物価が上がっているので、金利も全般的に上がっても不思議ではないというのが自然な考え方ではないでしょうか。但しここで大切なのは一口にインフレと言っても二つの種類に分ける事ができます。

1つ目は「コストプッシュ型」のインフレです。これは世界的な需要の高まりから来る資源高などに起因します。原油を始めとすする様々な資源価格の上昇により、輸入物価が上昇し、国内の物価が上昇しこれがインフレにつながるというパターンです。

消費者物価指数(全国・総合) 前年同月比の推移

 

2022年

2023年

 

7月

8月

9月

10月

11月

12月

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

前年同月比(%)

2.6

3.0

3.0

3.7

3.8

4.0

4.3

3.3

3.2

3.5

3.2

3.3

3.3

<総務省「2020年基準 消費者物価指数」より作成>

二番目は「好循環」のインフレ

二番目は旺盛な需要による「好循環」のインフレです。例えば大企業を中心とした多くの企業が賃金を上昇させ、賃金が上がるという事は小売りからサービス業から不動産など高額商品も需要が拡大し、需要が拡大するという事は供給サイドとしては価格設定も強気になり、これがインフレに結びつく訳です。

そしてまたインフレにより企業の売上が増大すれば、さらに賃金も上昇するという循環型のインフレパターンです。

では現在の日本はどうかと言うと、まだまだコストプッシュ型のインフレの影響が大きいと感じます。これが岸田政権の賃金上昇政策が功を奏し、数年間にわたり需要がけん引するインフレパターンが定着した時に初めて政策金利が解除され、その先に変動金利が上昇する可能性を秘めています。

金利上昇の恩恵を受けやすいのは

それでは金利が上がって一番喜ぶ方はどなたでしょうか。まず一番目に考えられるのは「銀行」ではないでしょうか。

銀行は本来、企業や個人にお金を貸し出してその利息が収益構造の柱となる訳ですが、この低金利下では銀行も様々な収益の柱を構築しないと厳しかった訳です。今後は金利が上昇すれば銀行の収益構造も改善されますが、2023年に入ってからはそれを見越して金融関連株も上昇傾向となっています。

預金にも金利上昇の恩恵がある

次に喜ぶのが日本の個人金融資産約2000兆円の多くを保有するシニア層ではないでしょうか。バブルの頃は郵便局に預金しておけば年間になんと5%の利息を得られた時期もありましたが、現在では利息は非常にわずかで、さらにインフレを考えると実質的にはマイナスとなる訳です。

金利が上昇すれば多くの預金を保有する層には恩恵となります。しかしバブル時のような高金利にはまだまだ程遠く、どちらにしてもシニア層が銀行の利息で生活の潤いを感じるためには個人の金融資産が何十億もないと難しい状況と言えるかもしれません。

インフレでは現金の価値が下がる可能性も

インフレにより最も価値が落ちやすい物の代表として「現金」が挙げられます。例えば2,000万円の現金をそのまま保有していた場合、単純計算では毎年2%のインフレが続くと10年後には実質的には約1667万円にまで目減りする事になります。

つまり現金・預金はインフレの場合には不利な資産となる場合があるのです。

インフレにより現金の実質的価値が下落?

毎年2%ずつ減少した場合の実質価値の変化

1年目

2年目

3年目

4年目

5年目

6年目

7年目

8年目

9年目

10年目

2000万円

1960万円

1920万円

1882万円

1844万円

1807万円

1771万円

1736万円

1701万円

1667万円

ローンと金利上昇

それでは住宅ローンや不動産投資ローンなどを組んでいる方はどうでしょうか。金利が上がるという事は単純に、変動金利の場合、毎月の返済金額が上昇します。但し大前提として、変動金利が上がるという事は、それだけ景気・賃金も上昇する局面となりますので、

①投資マンションの購入者の方の賃金、年収が上がっている

②入居者の方も賃金アップにより多少の家賃の上昇にはついていける

となります。

もし金利が急上昇しても返済額の上昇は1.25倍までに抑えられている事もあり、金利上昇の影響は少ないと考えられます。

さらに金利が上がるという事はインフレ状態であるので、購入したマンションなどの「資産価値の増加」にもつながります。しかし、ここで注意すべき点は、すべてのマンションがインフレの恩恵を受けるという訳ではないという事です。これはやはり立地・クオリティ・管理などベースとなる所の見極めが大切であるという事です。

ジャクソンホール会議の開催

2023年8月24日から26日まで米国でジャクソンホール経済会議がありました。世界の財務大臣が集まり金融政策などを協議するものです。

この会議において米国の好調な景気動向の推移のもと、今しばらく金融の引き締めがFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長より表明された事により為替動向においてはドル高円安の状況が予想されます。

円安という事は先に述べたようにコストプッシュ型のインフレにつながりやすい事を示しており、そうなると国内の変動金利の上昇には少し時間がかかるかと考えます。

日本ではインフレが続いていますが、物価上昇率よりも賃金の上昇率が高い状態が安定的に続くまでは金融緩和が継続されるとの政府の見方を示しており、岸田総理は構造的な賃上げが重点課題との考えを示しています。