目次
①現在実施されている「金融緩和政策」とは
現在、日本では「金融緩和政策」が継続していますが、これは低金利政策の持続や資金の供給により景気の本格的な回復を支援する政策です。企業などは資金を調達しやすくなり、設備投資や雇用の拡大など業績の向上にも寄与します。またこうした資金が不動産に流入し、都心部だけでなく広域エリアにおいて地価・不動産価格の上昇の要因ともなっています。また個人においても低金利でマンション購入のローンが組みやすくなっており、マンションの需要も増加しマンション価格の上昇につながっています。
「金融緩和政策」はアベノミクスの経済政策である「3本の矢」の一つでもあり、その後の菅、岸田内閣でも継続されてきています。
②日本では「デフレ」から「インフレ」へ大きく転換
日本経済は長らくデフレの時代が続いていました。バブル経済が崩壊した1990年以降は「失われた10年」または「失われた20年」などと言われる程経済の停滞が続いていました。途中何度か景気の復興もありましたが、リーマンショックなどもあり、全体としてはデフレ期が続いていたと言えます。
その後2022年後半より物価が大きく上昇しインフレの傾向が強まってきています。2022を100とする消費者物価指数を見てみると、2021年には99.8とマイナスとなりましたが、2022年には平均で102.3となりました。
特に2022年後半は8月から連続で前年比3%を超える高い上昇率となりました。
さらに電気、ガスなどのエネルギー価格が大きく上昇し家計にも大きな影響を与えています。
消費者物価指数(総合)前年同月比の推移
| 2022年 | 2023年 | |||||||||||
| 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 |
前年同月比(%) | 0.9 | 1.2 | 2.5 | 2.5 | 2.4 | 2.6 | 3.0 | 3.0 | 3.7 | 3.8 | 4.0 | 4.3 | 3.3 |
(2020年=100)
<総務省「2020年基準消費者物価指数」全国2023年(令和5年)2月分より作成>
消費者物価の推移
| 2020年 | 2021年 | 2022年 |
消費者物価指数(総合) | 100 | 99.8 | 102.3 |
(2020年=100)
<総務省「2020年基準消費者物価指数」全国2023年(令和5年)2月分より作成>
③2022年の年末には急激な円安が進み輸入物価の上昇に
物価の変動は為替動向も大きな要因となります。円安になると輸入する物資の金額が上昇するため、エネルギー価格を始め多くの輸入品の価格が上昇しました。
日銀の発表した輸入物価指数(2022年=100)を見て見ると、2021年平均では121.6から2022年には169.0に上昇しています。とくに円安の進んだ2022年9月、10月には188を超える高い指数となりました。
日銀の発表した国内企業物価は2023年2月には前年比8.2%の上昇となりました。但し政府による電気・ガス代の負担軽減策により上昇率が抑制されていますが、「電気・都市ガス・水道」は前年比33.9%、鉄鋼は同18.5%も上昇しています。
輸入物価の上昇は、国内物価の上昇の要因になると共に、マンションなどの建築の上昇の要因にもなります。米国における利上げスピードの減速予想から3月後半には1ドル=129円と円高に振れており、今後の動向にも注目が集まっています。
輸入物価指数の推移(円ベース)
| 2022年 | 2023年 | |||||||||||
| 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 |
指数 | 142.6 | 147.6 | 162.8 | 169.2 | 178.1 | 183.1 | 179.1 | 188.8 | 188.6 | 178.5 | 170.1 | 162.6 | 163.4 |
(指数は2020年平均=100%)
<日本銀行「企業物価指数(2023年2月速報)」より作成>
輸入物価指数の推移(円ベース)年平均
| 2020年 | 2021年 | 2022年 |
指数 | 100 | 121.6 | 169.0 |
前年比 | - | 21.6% | 39.0% |
(2020年平均=100)
<日本銀行「企業物価指数(2023年2月速報)」より作成>
④ウクライナ問題と新型コロナの影響は
インフレは日本だけではなく世界的にも進行しています。その要因として新型コロナの発生及び2022年2月のウクライナ侵攻なども挙げられます。新型コロナの発生による人手不足やサプライチェーンの停滞、さらにウクライナ情勢によるエネルギー価格の上昇など、国際的にインフレが進んでいます。特にエネルギー価格は新型コロナに加えてウクライナ情勢が加わり世界的に大きく上昇し、現在に至っています。
⑤欧米でもインフレが進行中
こうした世界的なインフレを受けて、欧米各国では金利の引き上げの動きが強くなっています。米国ではインフレ率も高く2022年3月にはゼロ金利を終了し金利の引き上げを実施しています。2023年6月には総合インフレ率が9.1%まで上昇しました。
欧州中央銀行(ECB)では2022年6月にインフレ率が8.1%と高い水準となり量的緩和の終了を発表していますが、ユーロ圏のインフレ率は10月には10.7%にまで上昇し、さらに英国では11.1%にまで上昇しました。
直近の2023年2月でもユーロ圏で引き続き高いインフレ率が続いています。欧州中央銀行(ECB)は3月の理事会で主要政策金利は現在3%から3.5%に引き上げる事を決定しました。
経済協力開発機構(OECD)は2023年インフレ率にいて米国で3.5%、ユーロ圏では6.0%、日本は2.0%と予想されています。
このように欧米先進国などではインフレ抑制のための利上げを実施する傾向が広がっています。
これに対して日本では金融緩和政策が継続されており、今後の動向にも注目が集まっています。
⑥インフレと不動産投資の関係は
インフレ時には物の価格が上昇しますので、同じ現金の実質的な価値が減少していると言えます。逆にローンなど借入れをしている場合には、実質的な借入金が減少すると言えます。
また不動産などの現物資産の資産価値も上昇して行きますので、インフレ時にはローンを組んで不動産投資をするには有利な状況と言えます。
また低金利が続いている事で有利な条件で投資ローンを組む事ができるので、毎月の負担も少なくなります。
かつて金利が高かった時代には不動産投資のローン金利が7~8%かそれ以上の時もありました。現在は金利の面からみても不動産投資に有利であると言えます。
⑦日銀では今後も「金融緩和の継続」を決定
日本では「金融緩和政策」が続けられていますが、低金利政策はいつまで続くのでしょうか。日銀は「物価安定の目標」として「安定的な消費者物価の前年比上昇率2%」と定めています。物価上昇率を見ると2022年後半から3%を超える高い上昇率が続いていますが、これは輸入物価の上昇などの外的要因も多く安定的な経済成長や賃金の上昇などの本格的な経済成長にはまだ至っていないと考えられています。このため日銀では2023年3月の金融政策決定会議でも金融緩和政策の継続を決定しています。
⑧日銀総裁の交代とリフレ派とは
日銀の黒田総裁は10年に渡り「金融緩和政策」を実施してきましたが、任期は2023年4月8日までとなり、後任には植田和男氏となる事が3月10日の参議院で決定しました。
黒田総裁は金融緩和により2%のインフレを達成して賃上げや景気の回復を目指していましたが、こうした積極的な金融緩和などで緩やかな物価上昇を目指す指針を「リフレ派」とも言います。
⑨今後の金利動向と不動産投資との関係は
日本でもインフレも続き穏やかな金利上昇の傾向が見られており、日銀は長期金利の許容変動幅を0.25%から0.5%に引き上げています。
不動産投資などで利用するローンの多くは変動金利となっています。長期金利の上昇による影響を受けるのは固定金利です。変動金利は短期金利に連動しますので、現在の所金利上昇の影響はほとんどないと言えます。
<特別コラム> 米金融不安と金融市場への影響 2023年3月10日世界の金融市場に衝撃が走りました。アメリカのシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻しました。2008年のリーマンショックを連想させるニュースでした。 事の経緯としてはこのシリコンバレー銀行というのは米国におけるハイテク企業などのスタートアップの際の借入の金融機関として人気がありました。会社をスタートする際に金融機関との繋がりを持つ事はとても大切ですが、SVBの迅速な対応がとても支持されました。 スタートアップ企業は経営が順調に推移して上場すれば莫大な資金が入る訳ですが、その莫大な預貯金をシリコンバレー銀行は債券を中心に運用してきました。 アフターコロナの中で米国はいち早く経済が回復し、その過程の中で物流・サービス業界などにおいて人で不足が加速し、賃金なども大幅に上昇しインフレの大きな要因となりました。また2022年2月のウクライナ侵攻もインフレの要因ともなりました。 その様な背景の元、米国の中央銀行は2022年3月より金融引き締めに入り、その間シリコンバレー銀行が所有している有価証券は含み損が発生しました。つまり所有する自己資本よりも債券の評価損の方が大きくなった訳です。そこでシリコンバレー銀行に対する経営不安が台頭し一機に多くの預金が引き出され経営破綻につながりました。しかし米主要11銀行が救済措置を発表しています。 今後の金融不安においては日米欧の中央銀行が協調介入し金融不安に対する対応を強化しています。 通常、金利の上昇は金融機関から見れば経営上プラス要因となりますが、シリコンバレー銀行の場合には特殊な事情があった訳です。それはハイテク企業などから集めた莫大な資金の融資先がそれ程増えず、余剰資金の多くを債券で運用したという事も影響しました。 では日本においては今回の件が影響があるかと言うと、むしろ米国における急激な金利上昇が大きな要因と考えると、金融引き締めに対してはその「反動」も大きく日本でも金融緩和の出口戦略は慎重に進められると予想されます。 |
⑩金利上昇のシナリオと不動産投資
厚生労働省の発表した2022年の平均給与は前年比1.4%上昇するなど日本でも賃上げの動きは出ていますが、インフレ率が高く実質的な賃金はマイナスとなっています。岸田総理は年頭にも経済界に「インフレ率を超える賃上げ」を要請しています。
日本経済の回復が本格化して広い範囲で給与水準の向上が進み、インフレ率を上回る賃上げが安定的に進めば金融緩和解除となる可能性もあります。
こうした場合には、経済の回復により都心部などの地価上昇、就業人口の増加などから不動産需要の増加、そして不動産価格の上昇などにつながるケースも考えらます。
つまり今後金利が上昇する事はマンション投資にとってマイナス要因ですが、景気の回復や不動産価格の上昇により賃料のアップや所有しているマンション資産価値の上昇、賃貸需要の増加などのプラス要因も多い状況となります。
マンション投資を始めて投資不動産を所有する事は、こうした景気回復の波に乗れる事を意味します。
またこうした景気回復の恩恵はすべてのマンションが受けられる訳ではありません。立地、交通、建物の質や安全性・セキュリティなど総合的な面から物件を選択する眼も必要となってくるのではないでしょうか。