最新!日米金融政策の動向と不動産投資ローン金利の行方

日本は長らくデフレ経済に置かれてきました。今年の3月には日銀によりマイナス金利政策が解除され、その後は短期金利はゼロ~0.1%という歴史的に見ても極めて低い水準で推移してきました。さらに2024年7月31日に日銀は金融政策決定会合を開き、政策金利を0.25%に引き上げる決定をしました。 これからの日本の金融市場においてはいわゆる「金利のある世界」に戻る事になります。現在不動産投資をしている方、これから不動産投資をする方にとって、金利の動きはとても気になるのではないでしょうか。 不動産の所有のあるなしに関わらず多くの国民に直結するテーマでもあるからです。 今回のコラムでは最新の金融動向が日本経済・不動産市況に与える影響と今後の推移、そして金利上昇対処方法など幅広い視点から述べてみたいと思います。

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米国経済、物価は日本の3倍?⇒直近の動向に変化の兆しも

日本の政策金利の引き上げは米国経済の影響も強く受ける傾向となっています。まずは近年の米国の経済情勢について見てみましょう。

読者の皆様は近年の米国の経済動向についてどのように感じているでしょうか。

筆者の感覚ですと、米国の経済はまさに巨大なタンカーが力強く前進するような、とてつもない大きなエネルギーを感じてきました。近年の米国の長期金利は3~4%台で、物価(米国消費者物価指数・CPI)も一時は9%も上昇し現在は3%台の上昇となっていますが、消費動向を見てもとても力強さが見受けられます。

簡単に言うと米国の経済力は日本の概ね3倍という感覚があります。例えば大谷選手が活躍しているドジャーススタジアムでは生ビールが1杯3000円近く、ハンバーガーも約1500円以上もするそうです。また入場料も多くの席が1万円を超え、まさに東京ドームの3倍という感覚ではないでしょうか。

また米国のサラリーマンの平均年収は約6万5,000ドル(約900万円)、NYの平均住宅価格は約1億6,000万円、また平均賃料も約33万円と、とても高い水準にも関わらず、経済が活性化しきました。一番大きい原因としては今までの高水準の給与所得とその伸び率にあったではないでしょうか。

ところが直近では状況が変わりつつあります。8月1日に米国のFOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利の据え置きが発表されましたが、パウエル議長は記者会見で9月の利下げ開始もありうると明言しました。

直近の米国雇用統計で失業率が想定以上に増え、雇用情勢に陰りが見えてきているようです。雇用情勢の悪化は景気後退のシグナルとも言われており、8月に入り米国の株価下落に引っ張られるように日経平均株価は8月5日において1987年のブラックマンデー以降最大の下げ幅、なんと4,451円も下落しました。しかし翌6日には過去最高の上げ幅となるなど乱高下となりました。経済はまさに生き物ですので足元の状況に一喜一憂せず冷静に市場を見る事が大切です。

大統領選挙の行方は

現在米国の大統領選挙が大変注目を集めていますが、民主党のバイデン氏が退陣表明し、共和党のトランプ氏と民主党のハリス氏との選挙戦が繰り広げられる事になりました。もしトランプ大統領が誕生すると、二つの大きな変化が予想されます。まず一つは大幅な減税対策です。

企業における法人税の減税、個人においては所得税の減税が見込まれ、減税により個人においても消費が活性化し、法人においても新たな研究開発・設備投資などにより、より経済が活性化しインフレの要因になると考えられます。

またトランプ氏は移民政策については元々消極的な姿勢があるように、当選後は移民の制限により労働市場においては人手不足が加速し人件費が高騰、それが各店舗・企業における最終価格の値上がりにつながる可能性があります。ただし直近では失業率が上昇していますので、移民政策の労働市場に与える影響は低く推移するのではないかと考えます。

「もしトラ」「確トラ」などと言われてきましたが、ここに来てハリスさんの立候補により今後状況が大きく変わる可能性があります。ハリス氏は経済的には基本的にバイデン路線を踏襲しており「中間層の再生」を引き継いでいます。どちらが大統領となっても中・長期的には米国経済は適正な巡行速度で成長していくと考えます。

米国経済が日本の金融市場に与える影響とは

米国経済が軌道修正して巡行速度で成長した場合、年内のFRBによる9月の利下げが話題・注目される事になります。経済の状況がそこに強さが発揮されたとしても、米国における金利調整の局面というのはそんなに長く続かないのではないでしょうか。

日本においては日銀による7月下旬の金融政策会合において金利引き上げの意思が表明されましたが、急速に金利上昇が進むとは考えづらいと思います。

その理由としては日本国内の企業動向を見てみると、多くは中小企業で、その中小企業が資材や原材料の高騰を価格転嫁できておらず、結果業績拡大に結び付かないで、賃金の上昇率も危ぶまれる可能性も秘めています。早急は利上げは賃金の上昇という確実な景気回復の腰折れにつながる可能性もあります。

どちらにしても米国においては何としてでもリセッションを避け、ソフトランディングを目指すと考えられます。また日本においても金利の引き上げについては「時間をかけてゆっくりと」「なだらか」に推移すると考えられます。

金利上昇が為替に与える影響は

日米の為替レートは少し前までは円安が続いており2024年7月には一時1ドル=160円台となりました。こうした円安は輸入物価の上昇となり国内のインフレの要因となります。特にエネルギー価格などの大きな上昇につながっています。こうした円安は日米の金利差も要因の一つであると考えられます。

今回の日銀の金利引き上げの発表により、日米の金利差は急速に縮小しました。また米国では金利の据え置きなどが発表され、日本では今後緩やかな金利の上昇が考えられますので将来的にも金利差がさらに縮小する可能性もあります。

こうした状況を受けて、米国の経済の影響ももちろんありますが、8月5日には一時1ドル=141円台となるなど円高が進みました。

但し為替は様々な要因で大きく変わる事がありますので、今後の事は予測できませんが、円安が解消されれば日本国内で進む物価上昇も和らぐ可能性もあります。

不動産投資ローン金利決定のプロセスは

自己居住用のファミリーマンションを購入する際には、多くの方が変動金利を選択する一方、中には固定金利を選択する方もいらっしゃいます。また不動産投資の場合は、ほとんどの方が変動金利型のローンを選択しています。

この不動産投資ローンの金利が決まるまでのプロセスについて述べてみたいと思います。

(1)不動産投資ローンなどの変動型のローンは銀行が優良企業に1年以内の短期で貸し出す最優遇金利(短期プライムレート)に連動して動きます。

(2)短期プライムレートは今回発表された日銀の政策金利を参考に各金融機関が決めます。

(3)但し金融機関によっては、顧客の属性(年齢・年収・勤務先・金融資産)などによってその優遇幅は変わります。

読者の皆さんは金利が上がる事について警戒心を抱く方も多いと思われますが、歴史を振り返って見ると、過去には投資系ローンの金利(筆者が1980年代に所属していた大京時代には投資系ローン金利はなんと7%を超えていました)現在の水準はまさに近年における「超低金利時代」からようやく「低金利時代」に戻っただけという感覚です。過去を振り返って見れば依然として低金利の状況は続いている状況です。

最新のローン金利動向は

日銀の政策金利引き上げに伴い、例えばある都市銀行は「短期プライムレート」を1.475%から1.625%に0.15ポイント引き上げると発表しました。では実際に金利が上がると毎月返済にどの程度影響が出るのでしょうか。

不動産投資ローンの金利が上昇した場合は、2500万円を35年返済、金利2%でローンを組んだ場合の毎月返済額は8万2,815円となりますが、もし0.2%上昇して2.2%となった場合は8万5,404円となり、上昇分は約2,589円となります。

このように金利上昇は返済額にも影響を与えますが、ここで大切な事は既にローンを利用している方にとっては変動金利が上がっても即返済額が上がる訳ではありません。変動金利を利用する方にとって安心な「5年ルール」があります。

金利の違いによる毎月返済額の違いの目安

<元利均等、2500万円借入 35年返済>

 

毎月返済額

増加分

2%

82,815円

2.2%

85,404円

2,589円

※シミュレーションのため実際とは異なる場合があります。

変動金利の5年ルールとは

住宅ローンの「5年ルール」というのは、返済期間中に変動金利が上昇したとしても、5年間は毎月の返済金額が変わらないというルールです。

変わるのは毎月の返済金額における「利息と元金との割合」です。金利が上昇すると毎月返済額に占める利息の部分が増える訳です。

5年経過した時に毎月のローン返済金額は見直される事になりますが、毎月返済額の上昇幅はそれまでの<1.25倍>が上限となっています。

金利が上昇した負担分をカバーするものとして、居住用の住宅ローンにおいては「住宅ローン控除」制度がありますので、金利上昇分をある程度カバーしてくれます。

また投資用のローンにおける金利上昇分については、不動産の確定申告において、損益通算制度を利用すれば、利息上昇分は節税効果の上昇である程度カバーする事ができます。

金利上昇が不動産市場に与える影響は

実際に今後もし金利が上昇した場合に、不動産市場に与える影響について述べてみたいと思います。

実際金利上昇は不動産業界にどのような影響を与えるのでしょうか。

金利が上がるという事はその大前提として、<企業の売上が上がる⇒従業員の賃金が上がる⇒コストが上がった分、設備投資など生産性の向上を図るより付加価値の高い製品・商品を世の中に送り出す⇒さらに消費が活性化し、企業の売上が上がる>というような循環パターンが形成されます。

このように物価が上昇しても賃金上昇が伴えば、金利が多少上昇しても充分に吸収できる訳です。さらに金利が上昇するという事は基本的にはインフレの持続が前提となり、資産価値も上昇し先々より今買う事の重要性がより認識される訳です。

但しここで大切な事は長期に渡るなだらかな、穏やかな金利の上昇、もしくは一定の金利水準での横ばいが前提となります。

今回日銀は短プラを0.25%に上げましたが、来年以降、それが0.5%に引き上げられる可能性もあります。但しその段階では景気のさらなる上昇が大前提となります。

金上昇時の3つの対処法とは

実際に金利が上がった時の対処方法としては3つ考えられます。

一つ目は金利上昇に備えて一定の繰り「繰り上げ返済用の手元資金」を用意する事です。

先に述べたように金利が上がっても5年間は返済額は変わりませんので。その間にベースアップ・昇進昇格等で給与所得が上がる事も十分に予想されます。繰り上げ返済用の手元資金を作る、むしろチャンスの期間と言えるのではないでしょうか。

実際にできた手元資金を繰り上げ返済に充当するかどうかは別として、手物に一定の資金を置いておけば、「心のゆとり・余裕・安心感」が醸成されるのではないかと考えます。

次に二つ目としては、金利上昇期においてはローン会社の変更も一つの手段となります。昔と違って現在は多くの投資系ローン会社が存在し、顧客獲得の競争も激しくなってきていますので、一つのチャンスになる可能性も秘めています。

三つ目は投資系ローンにおける条件変更で対処する方法です。

これは金融機関に相談する事が必要ですが、返済期間の調整など返済に困らないように金融機関も相談に乗ってくれます。もしも将来、返済額が上昇した場合には早めに相談する事によりマンション経営も安定して行う事ができます。

難局を救ってくれる切り札とは?

投資・資産運用をする方の中には全ての現金・財産を投資に向ける方も散見されます。筆者はこの考え方には賛同しません。状況が大きく変わった時に対応が難しくなるからです。しかし例えばプロ野球の世界でも9回裏2アウト満塁という局面において「代打の切り札」がいれば監督の采配も非常に期待が持てる訳です。投資・資産運用についても二つの代打の切り札が求められます。

一つはいきなりは難しいかもしれませんが、⑨で述べたようにコツコツと手元資金、キャッシュを貯めて欲しいと考えます。

筆者のお客様で面白い通帳を作っている方がいました。通帳のタイトルは「株・不動産暴落時用貯金」です。例えば今回のような日経平均株価が大暴落した時はまさに千載一遇の投資のチャンスで、利息のつかない現金でも暴落時に優良な株が購入できれば、そのキャピタルゲインが利息と考えれば中長期的にはとてつもない「利息」を生む可能性がある訳です。

また不動産においても金利上昇局面においては5年ルールを利用してその間にコツコツお金を貯めて100万とか200万とか300万とか繰り上げ返済する事により、金利はかなり圧縮できます。

金利上昇と私達の将来の生活は?

メガバンク3行は日銀の金利引き上げを受けて普通預金金利を0.02%から0.1%に、定期預金金利を0.125%などに引き上げる事を発表しました。金利が上昇すると喜ぶ人は誰でしょうか。まずはたくさんの貯金を持っていう方です。日本の家計の金融資産のうち預貯金(現金含む)は1100兆円となっており、特に貯金の多いシニア層には朗報となります。とは言ってもバブル期の郵便貯金の金利5%の時代(1000万円の預金に対して50万円の利息)と比べると天と地の差がある訳です。

ちなみに老後資金として必要とされている2000万円を普通預金金利0.1%で預けると1年後にもらえる利息はいくらでしょうか。A:20万円、B:2万円 ⇒ 正解はBです。

以前より多くなりましたが、将来の生活に対してはいかに少ないかが分かります。

銀行なども貸出の際の金利が上昇すればそれだけ利益が大きくなる事になります。

借入がある方はその利息が増えれば不利になります。しかし同じ借入でもカードローンなど担保のない借入と不動産のような担保・資産性がある物の借入金とではかなり意味合いが変わってきます。

不動産を通じての借入の場合は金利上昇と共に

①もちろん立地によりますが不動産そのものの資産価値が上がる⇒有利な条件で売却も可能

②好立地の物件であれば賃料も上がる

③またこれからある程度給与が上昇していく方は、給与に占めるローンの負担率は減少する可能性も帯びている

などです

今後はゆるやかな金利上昇が続く可能性もありますので、今までのデフレ経済から潮目が変わり、「インフレに強い資産」がますます注目されるのではないでしょうか。

今回のコラムでは今後の経済動向、金融動向、さらに不動産投資ローンにおける今後の動向・金利上昇局面での対処方法など多角的な視点から述べさせて頂きました。

皆様の参考にして頂ければ幸いです。