目次
ワンルームマンションの供給エリアの変化について
一般的にマンション供給エリアは景気が拡大し地価が上昇すればするほど「遠隔地化」する傾向にあります。
例えば今から約20年前の2000年前半頃には東京都内のワンルームマンションの供給エリアは何と都心3区(千代田・中央・港区)が30%近くを占めていました。
ところが2024年の1~6月を見ると、都心3区物件は何と供給がゼロでした。
また2012年頃には駅から10分以上のマンションの供給割合は約10%前後でしたが、2023年の1~6月のデータを見ると約20%が駅から10分以上の立地となっています。
東京都のワンルームマンションの発売立地傾向の推移
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2000年前半頃 |
2024年1~6月 |
都心3区の割合 |
30%近く |
なし |
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2012年頃 |
2023年1~6月 |
駅徒歩10分以内の割合 |
10%前後 |
約20% |
<不動産経済研究所のデータよりオフィス野中作成>
駅からの距離と資産価値の関係も変化
駅から10分以上というと、読者の方のイメージからするとなんとなく「資産運用で購入するにはちょっと駅から遠い」という感覚を持つ方も多くいらっしゃるかと思いますが、実はそのマンションの担保評価を下す金融機関は単に最寄りの駅から何分という見方はしません。大まかにいうと「超一等地の駅」「比較的人気があり準メジャー的な駅」「乗降客数もさほど多くなく何となくマイナーな感じの駅」とそれぞれ仕分け作業をします。
例えば人気の東急東横線「中目黒」駅などは金融機関からの担保評価は極めて高く、その駅からであれば10分を少し超えた距離でも十分に投資系ローンの評価は出る訳です。
実は東京都内の駅から10分以上のマンションは「初台」とか「祐天寺」とかいわゆる億ションが販売されてもおかしくないエリアなどに建設される事もある訳です。
例えば読者のお友達が丸ノ内線「銀座」駅から徒歩15分のマンションに住んでいるとすると、多くの方が「すごい立地に便利な場所にお住まいですね」という返答が来るでしょう。
不動産投資は駅からの距離が大切とよく言われますが、一概にそうとも言い切れないという事が近年の供給マーケットから言えます。
ワンルームマンションの大型化が進む
また昔と比べて、近年では一棟当たりの戸数の「大型化現象」も見受けられます。
一般的なファミリーマンションと比べて投資用ワンルームマンションの場合、総戸数が50戸以上のマンションはそこそこ準大型マンションとして位置付けられます。
最近の傾向としては2023年1~6月のデータを見てもおおよそ4棟に1棟以上が総戸数50戸以上(※)となっており、この総戸数と近年の建築費の上昇は相関関係が潜んでいます。
どこのゼネコンも資材の値上がり、人件費の上昇、人手不足は共通の悩みとなっていますが、ゼネコンサイドとしてもあまりにも小規模な共同住宅は二の足を踏む傾向があります。これは採算性から見ても一つの現場に集中的に人材を投下した方が経営効率は上がるからです。
例えばA社は20戸のマンションを3棟分譲、B社は60戸のマンションを1棟分譲するとします。A社は3棟を分譲するので諸手続きからパンフレットの制作から全て3倍の時間とコストを要する訳ですが、B社は同じ戸数でも手間は1棟分のみとなります。という訳である程度の規模の物件の供給が増えている背景にはこうした理由もある訳です。
しかし実際問題としては、30戸から50戸程度のワンルームマンションが多いのも事実でこれは「売りやすい」「賃貸が付きやすい」などの理由もあると考えられます。
(※):不動産経済研究所のデータよりオフィス野中集計
高金利下でのワンルームマンション需要は
筆者が昔バブル前に大京で投資用のワンルームマンションの営業をしていた時代は、とにかく大変でした。何が大変かと言うと、まず当時は金利が高かった事が挙げられます(その当時はそうは感じなかったですが)
おおよそ投資系のローン金利は7%前後で、例えば2,000万円のワンルームマンションを金利7%で35年ローンを組むと、毎月返済は約12万7,700円となり、家賃収入との差は4万円以上にもなった訳です。(家賃収入:2,000万円×5%÷12=8万3,333円)
ではなぜそのような高い金利でも買ってくれる人がいたのかと言うと、購入者の目的はまず1番目には「節税対策」があった訳です。読者の皆様、ではここで問題です。「バブル時代の所得税と住民税の最高税率の合計」は何%だったでしょうか。正解は「所得税が最高75%、住民税が13%」で合計なんと88%が税金となってしまいました。
という訳で、会社の経営者、ドクター、高額所得者などは軒並み節税対策に奔走した訳です。
当時はキャピタルゲインも可能な時代
2番目の目的は「転売目的」です。バブル期前はワンルームマンション価格も大きく上昇していたので短期間に利益を乗せて転売し売却益(キャピタルゲイン)を得る事も可能でした。購入したワンルームマンションを賃貸にも出さないで転売をする、いわゆる「マンション転がし」という言葉もあった程です。こうした背景から当時は高金利でもワンルームマンションの需要があった訳です。
現在はワンルームマンションは賃貸に出して収益を得る「インカムゲイン」が購入目的の主流となってきています。
現在は金利が上昇傾向とはいえ、投資系のローン金利は低いもので1.5%を切るタイプもあり、また諸費用を除けば自己資金もほとんどかからないという形になります。
ただしマンション価格が上昇傾向にあり、相対的に利回りが低下している事から若干の持ち出し分がかかる場合もありますが、それは団体信用生命保険と思えば安いものです。
先ほど述べたように昔の持ち出し金額は4万円以上もあった訳ですから。
マンション価格の推移は
では次に昔と比べてマンション価格はどの位上がったのかを見てみましょう。
読者の方が不動産投資をする上で気がかりなのは、購入したマンションの資産価値の目減り・減額等が挙げられると思います。
もちろん不動産というのは
1-経済的要因
2-地域的要因
3-個別要因
などによってその値動きは差異が出ますが、ここでは平均的な感覚で述べてみたいと思います。
ここでまた問題です。筆者が所属していた大京が第一号物件として発売したマンションが昭和43年(1968年)に分譲された「ライオンズマンション赤坂」です。では当時の新築分譲価格はいくらだったでしょうか。
正解はおおよそ80㎡換算で約1000万円ちょっとです。当時の大卒の初任給は約3万でしたので、年収36万円とすると年収の約27.7倍となります。2022年の大卒初任給が平均約22万8,500円ですので、現在の価格にすると(年収274.2万円×27.7=7595.3万円)で約7,600万円という事になります。
ここで一つ不動産の法則を説明させて頂きます。
当時1000万円の不動産を購入したお客様は大半が富裕層で、富裕層と言えども購入時には「高いものを購入した」という共通認識を持たれたのではないでしょうか。
つまり不動産という物は、購入した時点が常に一番高く感じられ、その後インフレが加速し時間が過ぎれば過ぎる程、安く感じてくる訳です。
2013年に東急不動産がお茶の水にタワーマンションを分譲し、こういう仕事をしている筆者でさえ、当時はちょっと高いかなと感じましたが、あれから10年以上が経過し、そのマンションはなんと分譲時よりも2倍近くに上昇しています。
今現在この地球上には約1京円のお金が還流しており、米国・欧州を中心に金融緩和の動きも進んでいます。
つまり今後も世界中に潤沢なマネーが還流し、世界的に見ても割安感のある首都圏の不動産にはますますマネーが流入してきます。不動産はいつの時代でも今が買い時という事が言えます。
賃料水準の変化は
昔と比べて賃料水準はどう変わってきたのでしょうか。
不動産投資に対する期待利回り(キャップレート)は年々低下傾向となり、現在に至っています。昔は新築のワンルームマンションでも利回りが5~6%あった時代もありましたが、現在ではネット利回りで3.5%前後、名古屋大阪で3.7~3.8%位がスタンダードとなっています。
20年前に投資利回り3.5%というと、おそらく多くのお客様は投資に興味を持たれなかったかもしれません。しかし利回りが低下した一方、金融緩和により借入コストも下がった結果、一定の人気が今など維持されている訳です。
例えば定期預金の金利が上がったというニュースが最近よく流れますが、上がったとは言え、10年定期でわずか0.2%の利息、つまり1000万円でも利息はわずか2万です。これではよほどキャッシュがない限り老後の生活はカバーできません。この低金利時代だからこそ、3.4%でも魅力がある訳です。
ワンルームマンションのスペックの進化は
ワンルームマンションの構造・スペックは昔と比べて格段に進化したと言えます。主な進化した点として
1-耐震性
2-セキュリティ
3-情報通信機能
などや、さらに便利なスペックとして「ミストサウナ」等も挙げられます。
昔のワンルームマンションはトイレ・バスが一体となった3点ユニット、かまちドアなし、照明、クーラーなしなどが普通でした。現在のワンルームマンションはトイレ・バスが別なのは普通で専有面積も広くなり、まるでシティホテルのシングルタイプを購入するような「豪華さ・贅沢さ」を併せ持っています。
また耐震性能も耐震基準の厳格化や建築技術の向上で各段に上昇しています。最新のマンションは過去最高の耐震性能を持っていると言えます。
またオーナー様さらすると、昔と比べて家賃保証制度なども含めた賃貸管理サービスが非常に進化してきているので、よりマンション経営の安定度も高くなっていると言えます。
耐震基準の推移
年 |
耐震基準 |
1924年 |
1923年の関東大震災を受けて初めて耐震基準 |
1950年 |
建築基準法による耐震基準 |
1971年 |
RC構造計算規準が改定(←1968年の十勝沖地震) |
1981年 |
新耐震基準(←1978年の宮城県沖地震) |
2000年 |
新耐震+壁の固定や金物を使った接続部分の固定 |
2017年 |
耐震性を診断できる手法導入(←2016年の熊本地震) |
昔と比べて不動産投資がポピュラー化してきた。
昔の不動産投資は、特にバブル時代においては一部の富裕層が中心でしたが、現在はそういった富裕層プラス一般の公務員、サラリーマンの方、特に女性の投資家もとても増えています。
当時の不動産投資家は自分の資産状況や投資スタンスなどを第三者に公言する事は極めて少なく、会社員の方なども会社の同僚や仲間には一切オフレコというパターンが多かったですが、最近はSNSを通じて広く情報交換したりして、より不動産投資のバージョンアップを図る方々も増えています。
筆者のセミナーに参加されるお客様も最近は一人だけではなく、グループで参加されたり友達を誘って来られたりする方も数多くいらっしゃいます。
岸田総理の呼びかけによる「貯蓄から投資へ」の流れもあり、資産運用についての理解が深まりNISAなども含めて投資人口が増え不動産投資もより一般的になってきている傾向が感じられます。
今後のマンション投資の穴場は?
最後に今後のマンション投資の穴場について検証してみたいと思います。
過去の不動産投資の歴史をたどってみても、資産価値が上がっているエリアには3つの共通ワードがあります。それは「新線・新駅・再開発」です。
今後東京のみならず名古屋・大阪エリアなど大都市圏にも再開発が目白押しで、こういったエリアは特に将来性も高いと言えます。
さらに行政の動きによって価値が上がるエリアもあります。それはズバリ「神戸市」です。
神戸市は2000年より三宮、神戸駅、のエリアにおいては新築のタワーマンションの建築確認を受け付けないという条例を作りました。住友不動産が規制が入る間際に建築確認を申請した神戸のタワーマンションが近々に発売されますが、それ以降は新築のタワーマンションの供給がないという状況になります。こうした状況から既に分譲されているそのエリアのタワーマンションの中にある投資向けにも人気のあるコンパクトタイプの部屋はその希少性と資産性から人気がますます高まると考えられます。つまり狙い目は神戸市の「タワコン」という訳です。
しかしあくまでも投資・資産運用ですので、これらの情報は参考程度にとどめて頂き、投資はご自身の判断で行う事も大切です。
不動産市場は将来の経済・金融市場の変化や行政の規制などによっても大きく変わる事があります。
今回のコラムでは過去を振り返りながら現在までどのように推移してきたのかを概観してみました。
またこれからも多くの投資のチャンスがあり、その為には過去の情報も理解しておく事が今後の投資に役立つと考えます。