不動産投資の損益分岐点とは?計算方法や活用方法を解説

「不動産投資では損益分岐点が重要だと聞いたけどよく分からない」「計算方法や活用方法が知りたい」と悩みを抱えていませんか。 損益分岐点は黒字と赤字の境目を表す指標で、利益を出すための収入額を知りたいときに役立ちます。ローンの残債を全額返済できる売却価格が分かるのは出口戦略を考える際に有益です。 この記事では損益分岐点の仕組みや使い方、計算方法を紹介します。賃貸経営で利益を出す方法が分からない不動産投資の初心者はぜひご覧ください。

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損益分岐点は売上と支出が均衡するボーダーライン

損益分岐点は売上と支出が均衡した、黒字でも赤字でもない境目を表したものです。

企業の財務状態を示す指標に広く使われていますが、不動産投資の収益性を算出する際にも使えます。

損益分岐点の計算は不確定要素が多分に含まれるため、簡単に正確な数値を出すのは難しいといわれています。

突発的な修繕の頻度や金額は誰にも予想できない上、査定した額どおりに物件を売却できるとは限らないためです。

建物の老朽化や周辺エリアのニーズの変化など、資産価値の正確な把握も必要だと考えると難しさが理解できます。

しかし数値による客観的な分析は賃貸経営の失敗を防ぐリスクヘッジの基本です。まずは損益分岐点の活用方法をチェックしましょう。

損益分岐点の活用方法

損益分岐点は、購入価格やローンの返済費用を考慮した適切な賃料の設定に役立ちます。

空室の発生を前提にして、目標となる入居率を割り出すと、実態と乖離しない有益な分析が可能です。

損益分岐点は不動産投資の出口戦略を考える際にも役立ちます。賃貸物件が老朽化して収益性が低下している局面では、通常、不動産を売却して大きな一時金を得ようとします。

ローンの返済で現状の収支がマイナスでも、売却益が入れば黒字になる場合もあります。反対に購入価格より売却価格が著しく低下したため、最終的に赤字で落ち着いてしまうときも少なくありません。

損益分岐点を算出して、利益を出すにはどれだけの収入が必要か把握していれば、不動産投資が失敗するリスクを軽減できます。

損益分岐点は運用時と売却時の把握が必要

不動産投資の損益分岐点を考える際には運用時と売却時、2つの異なるタイミングでの把握が必要です。出口戦略を考える上では、売りに出したときの収支の均衡点が分からなければ、いくらで取引すべきか不明になるからです。

運用時と売却時のそれぞれで損益分岐点の計算方法を紹介します。

運用時の損益分岐点

運用時の損益分岐点では家賃やその他の収入を売上高に、ローンの返済や修繕費などを支出にします。

計算方法

運用中の損益分岐点の計算式は「年間の売上高-(年間のランニングコスト+ローンの返済)=0」です。

不動産投資の売上の大半は家賃収入によりますが、共益費や駐車場料金、礼金や更新料も含めましょう。太陽光パネルの売電や自販機による収入があれば漏れなく計上してください。

不動産投資の運用中に生じるランニングコストは、次のとおりさまざまです。

  • 広告宣伝費
  • 仲介手数料
  • 大規模修繕の積立金
  • 設備の設置に要した費用
  • 不動産会社に対する管理委託料

ローンの返済では損益分岐点の算出に用いる金額と、帳簿に記す会計上の金額が異なることに注意が必要です。前者は元本の返済費用を含みますが、後者は除外しなくてはいけません。

収入と支出を漏れなく計上すれば、正確な損益分岐点を算出できます。しかし経営に役立てたい、収支の改善に活かしたいと考えるならば上記の分析では不十分です。損益分岐点に加えて、売上と支出が均衡する入居率を計算する必要があります。

  • (年間のランニングコストとローンの返済額の合計)÷年間の家賃収入=損益分岐点となる入居率

上記の計算式では入居率がどの程度あれば収支が均衡するか、ボーダーラインを明らかにします。例えば費用の合計が150万円、家賃収入が200万円と仮定したとき、入居率は75%です。

管理するマンションの4分の3が埋まる状態が続けば、損失は発生しないと示しています。

空室の発生をどの程度まで許容できるか、現実的な判断を下す際に重要な分析方法です。

売却時の損益分岐点

売却時の損益分岐点では売却まで生じたトータルの売上と費用を考慮します。

計算方法

売却時の損益分岐点の計算方法は次のとおりです。

  • (売却時までのトータルの家賃収入+売却益)÷(売却時までに生じたトータルの支出)=0

売却時までの総費用は運用中の修繕費や設備費、管理委託料のほか、購入時に拠出した自己資金や売却時のローンの残債まで含めた総額です。

不動産投資は初年度に拠出した費用を家賃収入で徐々に補填して、最終的に黒字へと転換するビジネスモデルです。年数が経過する程、分母の金額が大きくなるため損益分岐点は低下します。つまり売却益が少なくなっても利益を確保できるのです。

損益分岐点のシミュレーション

以下の条件で1棟の賃貸マンションを経営したときの、運用時と売却時の損益分岐点を算定します。

・購入価格:3,000万円

・自己資金:500万円

・ローンの借り入れ:2,500万円

 年利:2%(元利均等返済)

 返済期間:25年

〈収入〉

・年間の家賃収入:300万円

〈支出〉

・購入時の諸費用:150万円

・年間のランニングコスト:300万円

・売却時の諸費用:150万円

簡略化のため金利は考慮せず、年間のローンの返済額を100万円(2,500万円÷25=100)と算出します。年間のランニングコストは300万円のため、損益分岐点には400万円の家賃収入が必要だと分かります。

モデルケースの年収では不足が生じており、一刻も早く黒字化を目指すには収支を改善する対策が必要です。

次に同じ事例で売却時の損益分岐点を算出してみましょう。購入後10年で売却したと仮定して、経年劣化の影響を考慮した現在価値を割り出す必要があります。

10年で物件価値が50%下落したとみなすと「3,000万円×(1₋0.5)=1,500万円」です。収入は10年間の賃料の総額となるため、300万円×10=3,000万円です。他に収益源はなく、常に満室の状態が続いたという仮定に立っています。

支出額に関しては以下のとおりです。

  • (10年間のローンの返済:1,000万円)+(10年間のランニングコスト:3,000万円)+(購入時の諸費用:150万円)+(売却時の諸費用:150万円)=4,300万円

トータルの売上と支出の金額が把握できました。

  • 10年間の家賃収入:3,000万円+売却価格:1,500万円₋4,300万円=200万円

モデルケースでは売却時の損益分岐点は4,300万円、今売却に出すと200万円の黒字になると分かります。

運用時の損益分岐点は赤字なのに売却時の損益分岐点が黒字に転換している事実に着目しましょう。運用が上手くいかなくても売却収入で補填すれば、最終的には利益が出て終わることができると分かります。

効果的な出口戦略の検討における損益分岐点の重要性が理解できたでしょうか。

損益分岐点を下げるためにすべきこと

不動産投資における高額な初期費用を念頭におくと、損益分岐点はできる限り下げるに越したことはありません。早めに黒字に転換すれば、後々経営が楽になり、不測の事態にも備えやすくなるのです。

損益分岐点を下げるための効果的な対策を紹介します。

入居率を上げる対策を施す

運用中のコストを上回る程に収入を伸ばせれば、損益分岐点を達成する期間は短くなります。不動産投資の要となる家賃収入を増やす戦略が基本です。

賃料の増額は入居者から猛反発に遭う可能性が高く、現実的な方法とはいえません。空室を減らす、つまり入居率を上げることで収入の増加を狙います。

損益分岐点のボーダーラインの入居率を把握して、現状との乖離がどの程度あるかを探ります。次になぜ目標の数値を達成できないのか、思うように人が集まらない理由を調査しましょう。

空室が多いときの主な原因は次のとおりです。

  • 入居条件が厳し過ぎる
  • 設備が足りず、住むには不便だと感じている
  • 外観や内装のセンスが悪く、住みたいと思わない
  • 地域のニーズからかけ離れている
  • 賃料が高すぎる

交通の便や立地など簡単には変更できない事情を除けば、上記のいずれかに当てはまる可能性が高いです。方向性を誤ると費用をかけて空室の解消に尽力しても改善しなくなります。

原因の把握を心がけ、的を得た対策となるよう重視しましょう。

ローンの返済比率を下げる

ローンの返済比率が高いと収支が逼迫し、損益分岐点の上昇を招きます。返済期間を長めに設定して、月々の負担を緩和できないか試してみましょう。総コストに対するローンの返済比率が低い、つまり月々の返済額が小さくなれば低い家賃収入でも収支が均衡します。

購入時にできる限り自己資金を投下して、借り入れに頼る割合を減らすことも大切です。ローンの返済で資金繰りが悪化し、手元にキャッシュが不足する状況は避けなくてはいけません。

不動産投資は災害リスクや経年劣化、第三者の損害など不測の事態が起こりやすく、修繕や損害賠償に備える資金が必要です。

返済期間が長期化して金利の負担が上昇しても、それ以上の家賃収入が見込めれば何の問題もありません。損益分岐点の改善を重視して、ローンの返済比率を下げる戦略は有意義です。

流動性が高い物件を選ぶ

売りに出したときに即買い手が見つかる流動性の高い物件の選定が重要です。

とくにローンの返済や大規模修繕で収支の悪化が続くと見込まれるとき、いち早くまとまった売却金を得ることが大切になるためです。

金額が大きい不動産は一般的に流動性が低く、買い手を募ってもすぐには見つからないといわれる資産です。

後々売却できないと気付くと出口戦略が破綻するため、購入前の段階で物件を選別する必要があります。不動産投資の流動性を大きく左右するのは立地と建物の状態です。

アクセスが良く利便性が高い地域なら自然と需要が上がり、設備が新しく管理が行き届いた物件は人気があります。

収益性が高い物件を選ぶ

投資用物件を購入する際は利回りに優れ、低コストで効率的に収益が出る物件を選びましょう。言いかえれば、空室リスクが低くランニングコストが安価であることです。

収益性の高さは損益分岐点の短期化に直結し、不動産投資の成功確率を高めます。利回りの数値である程度当たりか外れか判断できるため、参考にすると良いでしょう。

損益分岐点の算出と同様、運用中のランニングコストや諸経費を含めた実質的な利回りを確認することが大切です。空室が発生しづらく需要が底堅い物件の特徴は次のとおりです。

  • 災害の発生リスクが低いエリア
  • 利便性に優れ、人が多いエリア
  • 再開発が行われるエリア

災害のリスクが低い安全な地域に構える物件なら、想定外の修繕コストに悩まされる可能性が減ります。

人口が減少する局面を迎えた我が国において、人が集まる賑やかなエリアは好立地と同義です。

再開発が予定されるエリアは企業誘致が活発で将来的に栄える可能性が高く、おすすめです。

まとめ

不動産投資における損益分岐点は入居率や利回りと同様、必ず把握すべき重要な指標です。

運用時と売却時の両方を計算できる状態になって、後悔のない経営判断に役立ててください。

損益分岐点の計算は不確定要素が多く、経験の少ない人は誤った数値を算出する可能性があります。投資のプロに依頼し、正確で漏れがない信頼できる値を知ることが重要です。

アセットテクノロジーでは幅広い事業で培った不動産の豊富な知見を活用して、お客様に総合的なソリューションを提供しています。

損益分岐点の使い方や計算方法で実務に役立つアドバイスが欲しい人は、ぜひお気軽にご相談ください。