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不動産投資の家賃収入は非課税?
不動産投資では賃貸物件を住宅用として運用する場合、消費税は非課税となります。
本来であれば基準期間における課税売上高が1,000万円を超えている事業者は課税事業者となり、消費税を納めなければなりません。
しかし、不動産投資においては、居住用の家を他人に貸して得る家賃収入に消費税はかからないルールとなっています。
例えば、不動産投資で毎月100万円の家賃収入があると年間に1,200万円の収入となりますが、1,000万円を超えていても消費税はかかりません。ただし、不動産投資の家賃収入が非課税になるためにはいくつか条件があり、目的によっては消費税が発生する場合もあります。
なお、もともと消費税が導入された1989年時点では家賃も課税対象となっていましたが、1991年10月から住宅用のみ非課税になった経緯もあります。
家賃収入の消費税が非課税となる条件
家賃収入の消費税は、以下3つの条件を満たせば非課税となります。
・契約書に居住用に供するものであることを明記している
・賃貸期間が1か月以上ある
・賃貸の用途が明らかでなくても居住の実態がある
主に居住用として物件を貸し出す場合は納税義務がありません。賃貸契約書に住宅用や居住用と明記された物件が該当します。
ただし、賃貸借契約書がなく用途が明文化されていなくても、郵便物の配送や住民票への登録など明らかな居住の実態があれば、居住用として提供していると判断されるケースもあります。
また、賃貸期間が1ヶ月であることが非課税の条件となるため、ウィークリーマンションなどは課税対象となってしまいます。
集合住宅の管理費や公益費の消費税も非課税となる
集合住宅で入居者から家賃とは別に管理費や公益費を請求している場合、家賃同様に非課税となります。
管理費や公益費は、住宅に住むうえで必要な費用としてみなされるため、家賃収入と同様の扱いです。
例えば、家賃や公益費に水道光熱費を含めている場合も消費税は課税されません。ただし、請求の方法によっては消費税が課税されるケースもあるため注意してください。
敷金・礼金・更新料が非課税となる理由
家賃収入以外にも、受け取った敷金・礼金・更新料に対して課税されることはありません。特に敷金については、退去時に負担すべき修繕費を事前に預かっておく意味合いが強く、預り金となるのでそもそも非課税です。
礼金・更新料は敷金のように返還する性質を持たないものの、家賃収入と同じく居住用物件の礼金であれば非課税です。事業用物件の場合は法人・個人問わず課税対象となるので、本当に居住目的であるかは事前に確認しておくことをおすすめします。
家賃収入の消費税が課税対象となる条件
前述した非課税となる例とは反対に、家賃収入が課税対象となるケースもあるので注意しましょう。
下記に該当する場合は、原則として消費税が課税されます。
・事業用として貸し出している
・貸店舗、貸事務所、貸倉庫、駐車場、まかない付き下宿、貸別荘等の収入、貸看板等の広告収入など
・課税売上高(事務所の家賃収入など)の合計が1,000万円を超える
居住用マンションであっても、オフィス・事務所として使う場合は、消費税を支払う義務が生じます。課税売上高の合計が年間で1,000万円を超える場合も、貸主が「課税業者」に認定されるので支払う必要があります。
なお、課税売上高が年間1,000万円を下回る場合は、免税事業者とみなされるので覚えておきましょう。
ただし、2020年の税制改正により、賃貸借契約書に「居住用」と明記されていなくても、居住の実態が伴っていれば非課税にしてもらえるようになりました。そのため今すぐに「居住用」と記載されている賃貸借契約書を作成する必要はありません。しかし、契約更新や新しい契約の際には、「住居用」と記載された契約書を用意しましょう。
不動産投資で家賃収入を得ている場合のインボイス制度の影響
2023年10月から始まったインボイス制度の影響により、売上高が1,000万円以下であっても適格請求書発行事業者になり、課税対象にならなければ運用に影響がでてしまうケースがあります。
不動産の種類によって異なりますが、運用に支障がでないようにインボイス制度への登録を検討しなくてはいけません。
ここでは、不動産投資で家賃収入を得ている場合のインボイス制度の影響について解説します。
居住用の不動産のみを運用している場合
居住用の不動産のみを運用している場合、インボイス制度による影響はありません。
インボイス制度は消費税に関する制度となるため、非課税となる住居用の家賃の収入だけの方は登録する必要もないでしょう。
とくに売上高が1,000万円以下の場合、インボイス制度の登録によって課税対象となると消費税の負担が増え、利回りへの影響も懸念されます。
そのため、小さな規模で不動産投資を運用している方はインボイス制度に関して大きく意識する必要もないでしょう。
事業用の不動産を運用している場合
事業用の不動産を運用している場合は、インボイス制度による影響が顕著に現れます。
インボイス制度の登録によって適格請求書を発行できない場合、借り手側の事業者は仕入税額控除の適用ができなくなり、コスト面の負担が大きくなってしまいます。そのため、事業者は消費税分の負担を考慮し、インボイス制度に登録して適格請求書を発行できる貸し主から物件を探すケースも少なくありません。
つまり、売上高が1,000万円以下だからといってインボイス制度に登録しない場合、ターゲット数が減少して収益性の低下が懸念されます。
なお、売上1,000万円以下の方がインボイス制度に登録する際は、税務署へ適格請求書発行事業者の申請書提出が必要です。
不動産投資の家賃収入に課せられる消費税の計算方法
家賃収入が消費税の課税対象となった場合、売上高から税額を計算しなければいけません。
消費税の計算方法は、原則以下のいずれかの課税方式を用いて納税額を計算します。
課税方式 |
内容 |
原則課税方式 |
受け取った消費税から支払った消費税額を差し引いて納税額を計算する |
簡易課税方式 |
みなし仕入れ率を用いて納税額を計算する |
ここでは、2つの課税方式による計算方法や実際の計算例を解説します。
原則課税方式による計算方法
原則課税方式では、受け取った消費税から支払った消費税額を差し引いて納税額を計算します。課税売上高が年間5,000万円を超える場合は原則課税方式での計算が必要です。
原則課税方式による計算式は以下の通りです。
受け取った消費税額 - 支払った消費税額 = 納税する消費税額
例えば、受け取った消費税額が50万円、支払った消費税額が20万円だった場合は、
50万円 - 20万円 = 30万円
となり、消費税の納税額は30万円です。
簡易課税方式による計算方法
簡易課税は、業種ごとに定められたみなし仕入れ率を用いて納税額を計算します。みなし仕入れ率は業種ごとに異なり40%~90%の幅がありますが、家賃収入は第6種事業の不動産業に該当するため、みなし税率は40%です。
簡易課税方式では、以下の計算式を用いて計算します。
(年間の家賃収入 ✕ 消費税率10%) - (年間の家賃収入 ✕ みなし仕入れ率40% ✕ 消費税率10%)
例えば、年間の家賃収入が300万円だった場合は、
(300万円 ✕ 10%) - (300万円 ✕ 40% ✕ 10%) = 18万円
となり、消費税の納税額は18万円です。
【ケース別】家賃収入の一部が課税となる条件
課税対象になるかは「居住用として貸しているか」と考えるのが原則かつシンプルです。ただし、同一の建物・借主であっても条件次第では家賃収入の一部が課税対象になるケースがあるので、運営方法には注意しましょう。
競合よりも集客率を高めるためには、不動産に付加価値が求められます。しかし運営方法を間違うと、課税される対象を増やしかねません。
下記では、家賃収入の一部が課税対象となる条件・事例を紹介します。
食事つき下宿の場合
食事(まかない)つきの下宿の場合、居住者が住む「部屋」と、食事を提供する「レストラン」の性質を同時に持ち合わせます。収益のうち住宅の居住部分と食事部分とを分割し、食事部分にのみ課税されるので、非課税と勘違いしないよう注意が必要です。
食事つき下宿で特に多いのが、学生向けの寮や企業向けの借り上げ社宅です。食事スペースの規模が大きくなればなるほど課税の範囲も拡大します。
入居者用の駐車場がある場合
入居者用の駐車場がある場合、駐車場の契約形態により課税・非課税の区分が異なります。
例えば、駐車場を付帯設備と捉えて家賃込みで契約・清算している場合、駐車場部分も居住エリアの一部とみなされ非課税扱いとなります。
一方、居住スペースの賃貸借契約とは別に駐車場の使用契約が締結されている場合、駐車場分の収入は「家賃収入」に該当しません。これは入居者全員に供される付帯設備と判断されないためです。全収益のうち賃貸借契約の分は非課税に、駐車場使用契約の分は課税の対象となります。
店舗併用住宅の場合
「1階が店舗・2階が居住用」「1部屋だけ店舗用に使っている」という場合、店舗部分のみが課税対象となります。そのため、自宅でピアノレッスン教室を開講している、1階でカフェをオープンしている場合などは課税される範囲に注意しましょう。
マンションの1階がテナント、2階以上が賃貸物件、という場合も同様です。
家具付き物件の場合
家具付きの物件を貸し出しており、家具の使用料を徴収している場合は課税対象となります。ただし、課税対象となるのは家具の使用料(もしくはレンタル料)のみです。通常通り、居住に必要な家賃は課税されません。
あらかじめ家具・家電・倉庫・付帯設備を無条件で備えつけている場合、それらを含めて家賃とみなされるので非課税となります。あくまで家具や家電の使用に際して「別料金が発生しているか」が重要な指標となるのです。
建物内に有料施設がある場合
マンションなどの建物内に有料施設がある場合、基本的な考え方は「家具付き物件の場合」と同様です。有料施設としては、プール・トレーニングジム・トランクルーム・大浴場・コンシェルジュサービスなどが挙げられます。
家賃とは別に使用料を徴収している場合は課税対象に、使用料が家賃に含まれていて利用状況を問わず付帯する場合は非課税となります。
ただし、マンションの住民しか使えないことが非課税の条件です。マンションの住民以外も使える場合、通常の有料施設と同様の扱いになるので、料金徴収の有無を問わず課税対象に切り替わります。
水道光熱費を定額で徴収している場合
水道光熱費を家賃・共益費に含めて徴収している場合は非課税にできます。反対に、家賃とは別に一定の水道光熱費を徴収している場合や、使用実態に応じて毎月金額を変動させて徴収している場合は課税対象となるので注意しましょう。
課税対象となった場合の申告と納税の流れ
年間の売上高の合計が1,000万円を超え、物件を事業用として貸し出している場合は消費税の納税義務が生じます。
ただし、課税対象になるタイミングは売上高が1,000万円を超えた年ではありません。
基準期間と特定期間、課税期間に分けられており、実際に課税対象となるのは売上高が1,000万円を超えた翌々年です。
例えば、令和7年に納税が必要となる場合は、基準期間(令和5年1月1日~12月31日)もしくは特定期間(令和6年1月1日~6月30日)の間に売上高が1,000万円を超えた場合に限ります。
ここでは、課税対象となった場合の申告と納税の流れについて解説します。
消費税申告書の作成および添付書類の用意
まずは、国税庁のサイトや確定申告書等作成コーナー、税務署などで消費税申告書を入手してください。消費税申告書には、課税標準額や消費税額、控除対象仕入税額などの必要項目を記入します。
消費税申告書の詳しい書き方については国税庁の『申告書(第一表及び第二表)の記入』をご覧ください。
なお、原則課税方式と簡易課税方式では使用する用紙が異なるため、課税方式にあった用紙の用意が必要です。
また、課税方式によって必要な添付書類が異なります。以下の書類を課税方式に合わせて用意しましょう。
課税方式 |
添付書類 |
原則課税方式 |
● 付表1-3税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表 ● 付表2-3課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表 |
簡易課税方式 |
● 付表4-3税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表 ● 付表5-3控除対象仕入税額等の計算表 |
2割特例 |
● 付表6税率別消費税額計算表 |
出典:国税庁(令和4年3月31日までに終了する課税期間分の消費税及び地方消費税の申告書・添付書類等)
翌年3月末までに申告と納税を行う
消費税申告書の作成および添付書類の用意ができたら、課税対象の翌年3月末までに申告してください。
例えば、令和6年が課税対象となる場合は令和7年3月末が提出と納税の期限となります。
なお、提出方法はe-Taxもしくは税務署で直接提出、郵送のいずれかの方法が利用可能です。
また、消費税の納税期限は申告と同様に翌年3月末までとなっているため、以下のいずれかの方法で納付してください。
納付方法 |
内容 |
振替納税 |
国税庁が定める振替日に預貯金口座から引き落としを行い納付する方法 |
ダイレクト納付 |
e-Taxで納付手続きを行うと登録した預貯金口座から引き落としが行われる |
インターネットバンキング等 |
インターネットバンキングやATMから納付する方法 |
クレジットカード納付 |
国税クレジットカードお支払いサイトから納付する方法 |
スマホアプリ納付 |
国税庁スマートフォン決済専用サイトから納付する方法 |
コンビニ納付 |
国税庁のホームページでQRコードを発行してコンビニで納付する方法 |
現金納付 |
金融機関や所轄税務署で現金に納付書を添えて納付する方法 |
出典:国税庁(税金の納付)
申告期限や納税期限を過ぎてしまった場合、延滞税や無申告加算税などのペナルティが課せられるケースがあるため注意してください。
課税される部分は簡易課税制度の活用がおすすめ
課税額が増えるからといって、不動産の付加価値を諦める必要はありません。課税対象となる部分がある場合、簡易課税制度を活用して節税対策とするのがおすすめです。
簡易課税制度とは、売上にかかる消費税と仕入れにかかる消費税の差額を納税する仕組みのことです。納税手続きや計算を簡略化できるメリットもあります。
なお、簡易課税制度の適用を受けるには、下記の条件を満たすことが必要です。
・基準期間の課税売上高が5,000万以下である
・「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出している
納付すべき消費税額は、「課税売上げに係る消費税額-(課税売上げに係る消費税額×みなし仕入率)」で計算可能です。
みなし仕入率は業種種別により異なるので事前の確認が必要です。原則として不動産業は第6種事業に分類されていますが、契約内容によっては第1種などに分類されるケースもあります。
まとめ
不動産投資で発生する家賃収入に係る消費税が非課税または課税対象となる条件は、契約内容によって異なります。
原則、住居用として運用し賃貸期間が1ヶ月以上の物件であれば非課税です。敷金や礼金、更新料、集合住宅の場合に請求する管理費や公益費も家賃と同様に課税対象とはなりません。
ただし、居住用であっても食事つきの下宿・入居者用の駐車場・店舗併用住宅・家具付き物件などがある場合は、一部が課税対象となります。
一方、オフィスやテナントなどの事業用として貸し出す場合は課税対象です。年間の売上高が1,000万円を超えた場合は、翌々年から消費税の納税義務が生じるため、消費税申告書の作成や納税を忘れずに行いましょう。
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