個人事業主でも不動産投資できる?融資を通過するコツと法人化についても解説

個人事業主で不動産投資を検討されている方に向けて、個人事業主が不動産投資で融資を受けるコツを解説します。 また、個人事業主ではなく、法人化した方が良いタイミングや設立手続きについてもご紹介します。

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目次

個人事業主は不動産投資を始められる?

個人事業主は、会社員や公務員と比べて収入が不安定といえます。クレジットカードの審査なども厳しくなりがちなことから、「不動産投資なんて無理なのでは」と諦め ている方もいるでしょう。しかし、本当に個人事業主は不動産投資ができないのでしょうか。

個人事業主でも不動産投資は可能

個人事業主でも不動産投資は可能です。自己資金やローンを利用して不動産を取得できるのであれば、事業の形態は問われません。

サラリーマンが副業として個人事業主を開業した場合でも、不動産投資は始められます。

ただし、個人事業主として不動産投資を始める際は、事業開始から原則1ヶ月以内に管轄税務署へ開業届の提出が必要です。

個人事業主が不動産投資するメリット

個人事業主が不動産投資を行うことには、様々なメリットがあります。主な3つのメリットを紹介します。

青色申告で最大65万円の青色申告特別控除を利用できる

個人事業主が不動産投資を行うメリットのひとつが、青色申告によって受けられる最大65万円の青色申告特別控除です。

課税対象となる所得額から最大65万円の特別控除を差し引けるため、住民税や所得税の節税につながります。

ただし、青色申告特別控除には以下3つの枠が設けられており、要件を満たさなければ最大65万円の控除を受けられません。

 

65万円

55万円

10万円

所得の種類

事業所得もしくは事業的規模の不動産所得がある

事業所得もしくは事業的規模ではない不動産所得がある

記帳方法

複式簿記

簡易(単式)簿記でも可

提出書類

●      確定申告書

●      青色申告決算書

●      貸借対照表

●      損益計算書

●      確定申告書

●      青色申告決算書

●      損益計算書

申告方法

e-Tax(優良な電子帳簿保存でも可)

●      税務署へ持参

●      郵送

●      税務署へ持参

●      郵送

●      e-Tax

不動産投資で青色申告特別控除を受ける際に注意してほしいのが事業規模です。

5件以上の独立家屋を所有、あるいは10室以上のアパート・マンションの部屋を所有している場合、事業的規模の不動産投資とみなされて65万円もしくは55万円の青色申告特別控除を受けられます。

事業的規模が満たない場合は、青色申告であっても10万円の控除しか受けられません。

また、青色申告特別控除を受ける際は、原則申告する年の3月15日までに青色申告承認申請書の提出の提出が必要です。

経費計上で節税できる

個人事業主は、不動産投資の運用中にかかったさまざまな経費を計上可能です。

不動産会社への仲介手数料、管理会社への委託料、修繕費などを経費計上すると、所得額が下がり節税効果を得られます。

個人事業主が不動産投資を行う際に計上できる主な経費は以下の通りです。

・ローンの金利
・不動産管理会社への委託料
・保険料
・仲介手数料
・税金(固定資産税、都市計画税、不動産所得税、印紙税など)
・修繕費
・保険料
・減価償却費

ただし、不動産投資の事業に必要とされる経費のみが計上可能なため、プライベートの出費は対象外となります。

手間がかからないため本業と両立しやすい

不動産投資は、物件管理や入居者募集といった作業を不動産会社や管理会社に任せられるため、他の投資手法に比べて手間がかからず、本業と両立しやすいというメリットもあります。

また、株式投資のように常にレートをチェックしたり取引を繰り返したりする必要もないため、余裕をもって本業と並行できるでしょう。

個人事業主が不動産投資するデメリット

メリットがある反面、個人事業主が不動産投資を行うデメリットもあります。

金融機関の融資が受けにくい

個人事業主が不動産投資を行うデメリットの一つが、金融機関の融資を受けにくいことです。個人事業主は会社員や公務員に比べて収入が不安定な傾向にあるため、融資の審査が厳しくなります。

不動産を取得するには高額な費用が必要です。自己資金だけでは賄えないケースも多く、融資が受けられないと不動産投資が始められません。審査に通過しにくい個人事業主は、その分不動産投資を始めるハードルが高いといえます。

急な出費が発生するケースがある

不動産投資は、急な出費が発生することがあるのもデメリットです。不動産投資を始める際には、ついつい初期費用に目がいってしまいます。

しかし、実際には固定資産税、保険料、修繕費など、不動産取得後も何かと費用がかかります。個人事業主は収支計画を立てにくいため、このような急な出費に備えてしっかり資金を用意しておくことが重要です。

個人事業主が不動産投資で融資してもらうコツ

前述のように、個人事業主は金融機関の融資が受けにくい傾向にあります。ここでは、どのような準備をしておけば、よりスムーズに融資を受けやすくなるのか?そのコツを紹介します。

所得や資産が分かる資料を用意しておく

個人事業主が融資を受ける際、もっとも重要視されるのが所得や資産の状況です。所得や資産が分かる資料から返済能力の有無を審査し、融資がおりるかどうかが決まります。

個人事業主が所得を証明する主な書類は以下の通りです。

・確定申告書の写し
・納税証明書
・課税証明書

個人事業主として継続的に事業を営んでいる方であれば、確定申告書の写しを用意しておくとよいでしょう。

また、融資を受ける際は自己資金の用意も必要です。

フルローンの利用を考えず、購入を希望している物件価格の2~3割相当の資金を準備しておけば、その後のキャッシュフローもスムーズになるでしょう。

必要以上の節税をしない

個人事業主として不動産投資の融資を受ける際は、必要以上の節税をしないことも大切です。

個人事業主は、事業にかかったさまざまな経費を計上でき、住民税や所得税を節税できますが、過度な経費計上は収入額を下げてしまい、返済能力の証明が難しくなってしまいます。

経費の計上は重要ですが、あくまでも事業に必要なものにとどめ、過度な節税対策は控えておきましょう。

ローンやクレジットカードなどで滞納や延滞をしない

金融機関の融資の審査では、信用情報がチェックされます。ローンやクレジットカードの延滞・滞納などがあると信用情報に履歴が残り、返済能力がないと判断されて審査に通りにくくなるため、支払いが遅れないようにすることが大切です。

また、過度な借り入れがあると追加融資が受けにくくなるため、不動産投資を始める前にできる限り返済しておいたほうが良いでしょう。

個人事業主でも融資を受けやすい金融機関を選ぶ

個人事業主が不動産投資で融資を受ける場合、審査基準のゆるい金融機関を選ぶのがおすすめです。

個人事業主が融資を受けられる主な金融機関は以下の通りです。

・都市銀行(メガバンク)
・地方銀行
・信用金庫
・日本政策金融公庫

都市銀行(メガバンク)の場合、自己資金がなければ融資の承認が難しいため、地方銀行や信用金庫のほうが融資のハードルが下がります。

また、日本政策金融公庫では、不動産投資目的の融資は行われていません。あくまでも不動産賃貸業として融資に申し込む必要があります。

融資の条件などを比較しながら、申し込みやすい金融機関を慎重に選びましょう。

不動産投資をしていて、法人化を検討した方が良い場合とは?

不動産投資である程度の収入を得ている場合、法人化したほうが有利になるケースがあります。

ここでは、法人化するメリット、デメリットとタイミングについて解説します。

法人化するメリット

法人化した場合のメリットについてご紹介します。

所得に対する最大税率が低く節税効果が高い 

不動産投資の法人化のメリットには、所得に対する最大税率が低い点が挙げられます。

個人事業主に課せられる税率は、所得金額が4,000万円超えの場合は所得税が45%、住民税10%の合計55%です。

一方、法人税の税率は最大23.2%となるため、場合によっては納税額に31.8%もの差が生じます。同じ不動産所得額でも納税額が大きく異なるため、高い節税効果が期待できます。

経費にできる幅が広い

法人化すると、経費計上できる費用の幅が広がります。例えば、個人事業主では事業主本人が加入している生命保険は個人の出費とみなされるため、経費計上はできません。

一方、法人の場合は生命保険の契約者を法人に、保険金の受取人を役員にすれば生命保険料を経費計上できます。経費にできる項目が増える分、節税しやすくなるでしょう。

相続税や贈与税がかからない

法人の場合であれば資産は法人のものであり、個人の資産とはみなされません。そのため、相続税や贈与税がかからなくなります。個人事業主の資産は個人のものとして扱われるため、金額に応じて相続税や贈与税がかかります。

しかし、法人の場合でも株式を持っている方が亡くなった際、その株の評価がなされ、評価額が相続財産になるので注意が必要です。

損失の繰り越し期間が長い

青色申告を行う個人事業主の場合、赤字繰り越しが可能な期間は3年間です。

しかし、法人の場合は2017年4月1日以降に開始する事業年度に生じたものであれば、10年間にわたって繰り越しが可能です。

法人として不動産投資で赤字が発生した場合、翌年以降に繰り越しができるため、黒字が発生しても所得額を抑えられます。

例えば、不動産投資を始めた1年目が300万円の赤字、2年目が100万円の黒字、3年目が200万円の黒字だった場合は、初年度に発生した赤字を繰り越して3年目の収入までを相殺可能です。

資金調達のハードルが下がる

不動産投資の法人化には、資金調達のハードルが下がるメリットがあります。法人化によって企業の情報が登記されているため、社会的信用度は高くなります。

また、決算資料から資産状況や経営状況を把握しやすいこともあり、金融機関のローン審査が個人事業主よりも有利です。

例えば、投資対象の物件を増やすために融資を受けたい場合でも、法人の方がスムーズに審査が通る可能性が高いでしょう。

法人化のデメリット

法人化した際のデメリットについてご紹介します。

設立や会社の維持に費用がかかる

法人化するには登録免許税や印鑑の作成、行政書士への支払いなど、個人事業主ではかからなかったさまざまな費用が発生します。

また、設立後の会計業務が個人事業主よりも煩雑になるケースが多いため、税理士へ委託するのが一般的です。

不動産投資の規模によっては異なるものの、年間数十万円の費用が必要になるケースも少なくありません。

社会保険料などの支払いが必要になる

法人化すると、社会保険に加入する義務が発生します。社会保険に加入すると、家族を扶養に入れられるなどのメリットがある一方で、保険料の支払いが負担になることがあります。

法人住民税の支払いが必要になる

法人化すると、法人住民税の支払いが必要になります。

個人事業主の場合は赤字の年の住民税は発生しませんが、法人は赤字経営であっても最低7万円の法人住民税が発生してしまいます。

赤字の状態での法人住民税の支払いは大きな負担となってしまうでしょう。

5年以上保有する物件は売却時の税率が高い

法人化した場合、5年以上保有する物件は売却時の税率が高くなってしまいます。

個人が5年以上保有した物件を売却する場合、長期譲渡所得に該当し所得税率15%、住民税率5%の合計20%が課税されます。

しかし、法人が物件を売却する場合、保有期間は考慮されません。実効税率で計算され、売却益の約30%が課税されます。

つまり、5年以上の物件を売却する場合、個人と法人では約10%もの差が生まれ、法人のほうが不利になってしまいます。

法人化するならこのタイミングがおすすめ!

不動産投資で法人化するなら、次の2つのタイミングがおすすめです。

タイミング1「課税所得が900万円を超える場合」

個人の所得にかかる所得税と、法人の利益にかかる法人税は税率が異なります。課税所得が低い場合には、個人の所得税の方が有利ですが、高くなればなるほど法人税の方が有利です。そのため、法人税の方が安くなるタイミングで、法人化するのが良いでしょう。

具体的には課税所得が900万円を超えるタイミングです。法人税は課税所得が800万円以上で最大税率の23.2%になります。これに対して、所得税は課税所得が900万円を超えると税率が23%から33%に上がります。

タイミング2「不動産投資を始めるとき」

不動産を取得する際には、購入代金だけでなく不動産取得税や登記費用なども発生します。

一方で、不動産投資を行っている個人事業主が途中から法人化した場合には、不動産の名義を個人から法人に移す際に、不動産取得税と登記費用が再び発生するため、二重に負担することになります。

それらを考慮すると、将来的に900万円以上の課税所得を見込めるなら、最初から法人化して始めるのが望ましいです。

不動産投資法人化の手順と手続き

不動産投資で法人化する際の手順と手続きについてご紹介します。

会社の設立準備をする

法人にも株式会社・合同会社・合名会社・合資会社など様々な形態があります。最初に、どの形態の会社を設立するかを決める必要があります。

それぞれの会社の形態の違いは、出資者が負う責任の範囲や、所有と経営の分離がなされているかどうかなどです。例えば、株式会社なら出資の範囲内でのみ責任を負い、所有と経営が分離されています。

会社の形態が決まったら、社名も考えましょう。それから、代表者印・社員・銀行印などの印鑑を作成し、本店所在地を設置したり事業目的を設定したりします。

定款の作成と認証

定款とは、会社のルールや規則などを定めたものです。従業員を雇わずに自分ひとりだけで仕事をする際にも、定款を作成しなければなりません。

定款には絶対的記載事項・相対的記載事項・任意的記載事項があります。このうち、絶対的記載事項は、必ず規定をした上で定款の中に盛り込まなければなりません。

相対的記載事項を定めるかどうかは自由です。しかし、規定をする場合には、定款にも記載しなければならない事項です。

任意的記載事項は、規定をするかしないかも定款に記載するかしないかも自由に決められる事項です。

また、株式会社の定款は作成後に公証役場において認証を受ける必要があります。

資本金の払込

定款の認証を受けたら、資本金の払込を行いますが、この時点ではまだ法人名義の銀行口座はありません。そのため、発起人名義の銀行口座に資本金を払い込みます。

法人設立後に法人名義の銀行口座を開設したら、資本金を発起人名義の口座から移します。

また、現行の会社法では、まとまった金額の資本金を用意しなくても、株式会社や合同会社の設立が可能です。資本金1円でも問題ありません。ただし、資本金の金額が少なすぎると、信用度も低く扱われる場合があります。

法務局に登記書類の作成と申請

法人の設立には登記が必要です。登記書類を作成し、会社所在地を管轄している法務局に提出して申請手続きを行いましょう。書類に不備がなければ申請後1〜2週間程度で登記手続きが完了します。登記の申請を行った日が会社の設立日になります。

各種書類の提出

登記の手続きを行ってから、2ヶ月以内に納税地を管轄する税務署に「法人設立届出書」を提出しましょう。青色申告での確定申告をしたい場合には、青色申告承諾申請書も併せて提出する必要があります。

また、「法人設立届出書」は都道府県税事務所と市町村役場にも提出しなければなりません。

まとめ

個人事業主でも不動産投資は可能です。最大65万円の青色申告特別控除を受けられたり、さまざまな経費を計上可能になるため、節税効果を得ながら不動産投資を行えます。

ただし、個人事業主は社会的信用度が低く、融資を受けにくいメリットがあるのも事実です。

小さな規模で不動産投資を行うのであれば個人事業主でも問題ありませんが、規模拡大を目指すのであれば法人化を視野に入れることがおすすめです。

不動産投資を法人化すれば、個人事業主よりも高い節税効果を見込めるだけでなく、資金調達も有利になるため、規模拡大をスムーズに行えるでしょう。

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個人事業主として不動産投資を始めたいとお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。