目次
インフレには大きく分けてふたつの種類がある
インフレと一口にいっても、大きく分けてふたつの種類が存在します。
・コストプッシュインフレ
・デマンドプルインフレ
不動産投資とインフレの関係性を知る前に、まずはふたつのインフレの違いを知っておきましょう。
コストプッシュインフレ
コストプッシュインフレとは、原材料費などコストの高騰が原因で発生するインフレのことを指します。わかりやすい事例として、食材費高騰によるレストランの価格上昇が挙げられます。
ほかにも、ガソリン代の高騰が原因で運送費用が上がったことによる価格上昇や、人件費増大による価格上昇もコストプッシュインフレのひとつです。
2020年にアメリカで起こった住宅需要上昇による世界的な木材価格の高騰「ウッドショック」も、コストプッシュインフレといえます。ウッドショックは輸入木材を多く利用する日本企業に大きなダメージを与えました。
デマンドプルインフレ
デマンドプルインフレ(別名・ディマンドプルインフレ)とは、景気や需要が上向いたことで起きるインフレのことを指します。爆発的に需要が増えているのに供給が追いついていない場合、当然ながら価格が上昇します。
「需要インフレ」「需要超過インフレ」と呼ばれることもあり、国民経済の総需要の伸び率に生産体制が遅れを取っていることが原因とされています。インフレの一種ではあるものの、需要が活発なのは望ましい状態であり、「良いインフレ」と考えられることも多いです。
インフレ時に不動産投資が向いている理由
不動産投資は、インフレ時に向いている投資手法として知られています。
インフレ時には物価が高くなるので、相対的にお金の価値が下がってしまいます。現金で十分な預金をしていたつもりでも、預金時よりお金の価値が下がることで、備えとして不十分な状態になる場合もあります。
一方、実物資産である不動産はインフレヘッジ効果が期待でき、インフレ時にも投資先として有効です。インフレヘッジ効果とは、インフレによってお金の価値が相対的に下がってしまうことに対するリスク回避効果を表す言葉です。
不動産や貴金属など目に見える実物資産は、インフレで価値が上昇し続ける傾向があります。新築に限らず、中古住宅の価値が上がることも想定されており、現金だけを保有するよりも不動産などの資産を持っていたほうがインフレ対策に有効だといえます。
とはいえ、すべてのインフレが不動産投資に向いているとは限りません。コストプッシュインフレのような、需要が伸びない状態で起きているインフレの場合、国民の所得が増加していないことも影響して不動産の価値が伸び悩むことがあります。
起きているインフレの種類を見極め、投資可否を判断することがポイントです。
インフレ時の不動産投資で得られるメリット
ここからは、インフレ時の不動産投資で得られるメリットを解説します。前述したようなインフレヘッジ効果のほかに、どのようなメリットがあるか探っていきましょう。
資産価値が下がりにくい
不動産や貴金属のような実物資産は、インフレ時には特に資産価値が下がりにくくなります。むしろ物価が上がるので、利益を出しやすくなるのです。
また、建物自体の法定耐用年数は下記のとおり長いので、長期的な投資をしたいときにも向いています。
・木造モルタル造20年
・木造22年
・軽量鉄骨造27年
・重量鉄骨造34年
・鉄筋コンクリート(RC造)・鉄骨鉄筋コンクリート(SRC造)47年
耐用年数に応じて資産価値の下落分は減価償却費として計上できることや、土地そのものは耐用年数がないので経年で資産価値が下落しづらいこともメリットです。急激に資産価値が落ちないよう法律で守られているとも判断でき、インフレ時の投資向きであるとわかります。
賃料の値上げができる
インフレ時は家賃を値上げしやすいため、同じ物件であっても収益率を大幅に改善しやすくなります。家賃だけでなく、ありとあらゆるものが値上げされることが多いので、家賃相場も上昇することが想定できます。
競合と足並みを揃えて値上げできるので入居者を取られる不安もなく、不動産投資する人にとっては非常にメリットのある時期といえます。
また、中古物件を購入した場合のリフォーム費用が高くなってしまうことが想定されますが、賃料が上げやすい分カバーできる可能性が高まります。
ローンの返済負担額を軽減できる
インフレ時に物件の価値が上がっても、当初ローンを組んだときから借入金の額面が変動することはありません。
たとえば、3,000万円の不動産を購入する際に2,000万円を借り入れたとします。インフレにより不動産の価値が3,200万円まで上昇しても、ローンは2,000万円のままです。
固定金利を利用していればインフレ時に金利が上がることもなく、「お得」に不動産投資することができます。
インフレに強い不動産投資にもリスクがある
インフレ時にメリットの多い不動産投資ですが、注意すべきリスクもあります。代表的なリスクは、次の5つです。
◆不動産投資の注意すべき5つのリスク
リスク①家賃滞納 リスク②空室リスク リスク③自然災害 リスク④流動性の低さ リスク⑤建物の老朽化 |
それぞれ、どのようなリスクなのか、順番に説明していきます。
リスク①家賃滞納
不動産投資をする際に注意すべき厄介なリスクが家賃滞納です。
家賃を滞納されてしまうと、賃料収入が発生しなくなります。次の入居者を探すこともできないので、ローンの返済計画にも影響を及ぼします。
長期滞納者を強制退去させることは可能ですが、以下のような負担が大きくなります。
・訴訟費用が発生する
・煩雑な手続きが必要
そのため、家賃滞納に陥らないよう予防措置をしておくことが重要です。具体的には、入居審査基準を厳しくする、保証会社加入を入居の必須条件にするなどの対策が有効といえます。
家賃滞納の対処法については、以下の記事で詳しく説明しています。あわせてご覧ください。
リスク②空室リスク
空室リスクも不動産投資をするときに考えておくべき代表的なリスクです。投資用の賃貸物件に空室があると、賃料収入を得られないものの、経費のみが発生することになります。空室が続くと家賃を下げざるを得なくなり、利回りの低下を招きかねません。
このような事態を避けるためには、借り手の付きやすい物件を厳選することが大切です。以下のような条件を参考に、空室リスクの低い物件を選びましょう。
・人気エリアや駅から近いなど、賃貸経営向きの立地で探す
・ファミリータイプなど、エリアニーズに沿った物件に絞る
空室リスクを回避する方法は、以下の記事で詳しく説明していますので、参考にしてみてください。
リスク③自然災害
不動産投資には、台風・洪水・地震などの自然災害や、火災のリスクがあります。
地震や台風が多い日本では、どの地域であっても災害リスクは生じます。損害の状況によっては修繕やリフォームが必要になり、コストがかかる場合も考えられるでしょう。想定外の被害を避けるためには、対策が欠かせません。
自治体の作成しているハザードマップや地盤の情報などをもとに、少しでも安全性の高い立地の物件を選ぶとともに、火災保険や地震保険に加入しておくことが大切です。
リスク④流動性の低さ
流動性とは、資産を現金化しやすいかどうか、つまりは売りたいときにすぐ買い手が見つかるかどうかということです。
物件は高額なうえに、頻繁に買い替えするものではありません。そのため、物件が売れるまでには長い時間がかかるケースが多いのです。不動産は、流動性が非常に低い資産といえます。
特に、地方や人気のないエリアの物件は売却に時間がかかります。リスクに対応するためには、売却スケジュールを立て、購入希望者の多い都心などの物件を選ぶことが重要です。
リスク⑤建物の老朽化
不動産投資の対象である建物は、築年数の経過とともに老朽化します。
建物が老朽化すれば、屋上防水の劣化・配管の腐食や詰まり・コンクリートの劣化など、さまざまな不具合やそれに伴う事故、修繕が発生する危険性があります。また、資産価値の目減りも老朽化するリスクのひとつです。
修繕にかかるコストは、不動産の規模が大きいほど高くなるため注意が必要です。基本的に経年劣化は避けられないため、老朽化を見込んだ収支シミュレーションを立て、定期メンテナンスや老朽化対策を行いましょう。購入前であれば、一級建築士などの専門家に建物の老朽化リスクを判定してもらうのも有効です。
不動産投資は長期的な計画性が重要
不動産投資は、インフレ対策としてメリットがあるというだけで始めるには、リスクが大きく危険です。
確実に収益化させるには、長期的な視点で計画を立てて取り組むことが大切です。自然災害のリスクや建物の老朽化による修繕費用の発生に備え、具体的で余裕のある資金計画を立てましょう。物件購入の際には、エリアや物件の将来性まで念頭に置いて、不動産の選択や管理を行う必要があります。
インフレ対策だけでなく、不動産投資を行う目的を前もって明確にし、目的に沿った資金計画や物件の運用計画を整理してから、投資を始めるか決めることをおすすめします。
インフレ時の不動産投資は慎重な状況判断が重要
インフレ時に不動産投資をするのは非常にメリットが多い一方で、注意点も存在します。
たとえば、変動金利型でローン契約を締結していた場合、インフレに合わせて金利が高くなるリスクがあります。せっかく家賃を上げて高い収入を確保しても、高くなった金利の分だけ支出が増えて、想定していたメリットが得られないかもしれません。
一方で固定金利型の場合、インフレが起きても金利が変わらないので、家賃が上がった分は収益を増加させることができます。
また、減価償却できる期間が短い物件を購入すると、「デッドクロス」が起こりやすくなります。デッドクロスとは、帳簿上は黒字なのにキャッシュフローが赤字になっており、最悪の場合黒字倒産につながる危険な状態です。
自分がどのような契約内容、金利の種類などで不動産を購入するか検討し、空室率や家賃滞納のリスクも考慮していくことが重要です。
まとめ
不動産投資は、インフレ時にも強い投資手法として注目を集めています。インフレにはコストプッシュインフレとデマンドプルインフレがあり、必ずしもすべてのケースが不動産投資に向いているとは限りません。
さらに、不動産投資は、家賃滞納・空室リスクや自然災害・建物の老朽化など、多くのリスクを伴います。まとまった資金が必要で流動性が低い不動産投資は、インフレ対策のみを目的として始めるには高リスクです。
実際に不動産投資を始めるときは、どちらのインフレが生じているか見極め、インフレ対策以外の投資目的と長期的な計画を立てたうえで決断するのが理想です。
変動金利・固定金利どちらでローン契約するかも含め、慎重に判断していきましょう。