投資マンション売却で消費税が課税される?仕組みや計算方法を解説

「投資マンションを売却するとき、“消費税”ってどうなるの?」 このような疑問を抱えているところかもしれません。 答えからお伝えすると、投資マンションの売却では、消費税の納税義務が生じるケースと、生じないケースがあり、個々に判断が必要です。 一概に「消費税がかかる/かからない」と断定できないため、注意しなければなりません。誤った認識で手続きを進めると、資金繰りの悪化など、損失を招くリスクがあります。 本記事では、投資マンション売却における消費税の仕組みから解説し、それぞれのケースごとに、消費税の必要性を判断できるように構成しました。 さらには、計算方法、納税の流れ、節税ポイントまで詳しく解説します。知識を武器に、投資マンション売却をより効率的に、かつ確実に進めていただければと思います。

この記事は約13分で読み終わります。

1. 投資マンション売却の消費税の課税・非課税フローチャート

最初にフローチャートで、概要をつかんでおきましょう。以下のとおりとなります。

【消費税が課税される場合】

居住用(マイホーム)ではない投資マンションを売却し、売主が課税事業者の場合

※上記の場合「建物部分」に消費税が課税される(土地部分には課税されない)

【消費税が課税されない場合】

・居住用(マイホーム)のマンションを売却した場合

・売主が課税事業者ではなく免税事業者の場合

続いて以下では、用語を詳しく補足しながら、仕組みを解説します。

2. 投資マンション売却時の消費税の仕組み

ここからは、より詳しく、投資マンション売却時の消費税の仕組みについて掘り下げていきましょう。

以下を解説します。

  1. 消費税の担税者と納税者
  2. 消費税の納税義務のある課税事業者とは?
  3. 消費税の課税対象となる譲渡価額とは?
  4. 土地の売却には消費税がかからない(建物部分のみ)
  5. 消費税額の計算シミュレーション

2-1. 消費税の担税者と納税者

そもそも、

「マンションを売却したら、なぜ売主が消費税を払う必要があるのか?消費税を払うのは、買主ではないのか?」

という疑問をお持ちの方も、いるかもしれません。

この疑問をクリアにするには、消費税の仕組みを知っておく必要があります。

消費税は、担税者(税金を負担する人)と、納税者(税金を納税する人)が分かれています(間接税といいます)。

消費税の納税義務のある売主は、消費税額分を売却価格に上乗せして買主から受け取り、消費税の確定申告を行って、消費税を納税する仕組みです。

参考:国税庁「消費税のしくみ」

2-2. 消費税の納税義務のある課税事業者とは?

ただし、消費税の納税義務は、すべての売主にあるわけではありません。

消費税法で定められている消費税の納税義務者は、「消費税の課税事業者」です。課税事業者でなければ、消費税分を上乗せした代金を受け取っても納税義務はありません。

2-2-1. 課税事業者の該当条件

課税事業者に該当するのは、大まかにいえば、「2年前の売上が1,000万円を超えている事業者(法人または個人事業主)」です。

より正確には、基準期間*1 の課税売上高*2 が1,000万円を超える場合に、課税事業者となります。

【参考:課税事業者】

出典:国税庁「令和4年分 消費税及び地方消費税の確定申告の手引き 個人事業者用」

【用語解説】

*1 基準期間:課税事業者となるか免税事業者となるか、また、簡易課税制度を適用できるかどうかの判断をする、基準となる期間です。個人事業者の方の基準期間は、課税期間の前々年をいいます。

*2 課税売上高:消費税が課税される取引の売上金額(消費税及び地方消費税を除いた税抜金額)と、輸出取引などの免税売上金額の合計額です。

出典:国税庁「令和4年分 消費税及び地方消費税の確定申告の手引き 個人事業者用」

なお、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合には、その課税期間においては課税事業者となります。

2-2-2. 「住宅用の家賃収入」は消費税が課税されない取引

投資マンションで収入を得ている方が留意したいのは、上記の「課税売上高」の対象が、“消費税が課税される取引の売上金額”となっている点です。

以下の取引は消費税が非課税で、その中に「住宅の貸付け(一時的なものを除く。)」が含まれています。

【参考:消費税が非課税になる取引】

次のような取引は、消費税の性格や社会政策的な配慮などから非課税となっています。

1 土地の譲渡、貸付け(一時的なものを除く。)など

2 有価証券、支払手段の譲渡など

3 利子、保証料、保険料など

4 特定の場所で行う郵便切手、印紙などの譲渡

5 商品券、プリペイドカードなどの譲渡

6 住民票、戸籍抄本等の行政手数料など

7 外国為替など

8 社会保険医療など

9 介護保険サービス・社会福祉事業など

10 お産費用など

11 埋葬料・火葬料

12 一定の身体障害者用物品の譲渡・貸付けなど

13 一定の学校の授業料、入学金、入学検定料、施設設備費など

14 教科用図書の譲渡

15 住宅の貸付け(一時的なものを除く。)

出典:国税庁「消費税のしくみ」

同じマンション物件であっても、事務所や店舗など事業用として貸し付けた場合、その家賃収入は課税売上高となります。

あるいは、住宅用であっても一時的(1ヶ月未満)の場合は、非課税取引の対象から除かれます。

参考:国税庁「No.6226 住宅の貸付け」


ご自身の課税売上高が不明な場合は、税理士や税務署などの専門家にご相談ください。最寄りの相談窓口は、税についての相談窓口(国税庁)にて確認できます。

2-2-3. インボイス制度の登録者は課税事業者に該当

上記以外に、自分で課税事業者になることを選択して届け出た人も、課税事業者となります。

2023年10月スタートの「インボイス制度」の登録事業者となった場合は、自動的に上記の課税事業者になります。

インボイス制度の詳細はインボイス制度が不動産賃貸業に与える影響とリスクとはをご覧ください。

2-3. 消費税の課税対象となる譲渡価額とは?

次に、何に対して消費税が課税されるのか、課税対象を見ていきましょう。

消費税は、「譲渡価額」の金額に対して課税されます。

譲渡価額とは、売買契約書に記載された売買代金(取引価格)のことです。

課税事業者が事業用の資産を譲渡した場合には、譲渡価額に消費税額が含まれることになります。

参考:国税庁「No.6931 消費税等と譲渡所得」

2-4. 土地の売却には消費税がかからない(建物部分のみ)

重要なポイントとして、土地の譲渡は、消費税が非課税です。

先ほど記載した【消費税が非課税になる取引】のリストの一部を再掲します。

【参考:消費税が非課税になる取引】

次のような取引は、消費税の性格や社会政策的な配慮などから非課税となっています。

1 土地の譲渡、貸付け(一時的なものを除く。)など

2 有価証券、支払手段の譲渡など

3 利子、保証料、保険料など

(後略)

出典:国税庁「消費税のしくみ」

マンションを売却した場合、譲渡価額の総額には「土地」の部分と「建物」の部分が含まれます。

このうち土地の部分は消費税が非課税となるため、「建物部分の譲渡価額に対して、消費税が課税される」ことになります。

参考:国税庁「No.6931 消費税等と譲渡所得」

2-5. 消費税額の計算シミュレーション

ここまでの話を踏まえて、消費税額の計算をしてみましょう。

【投資マンションを売却したケース】

・譲渡価額(売却代金):2,000万円

・土地割合:建物割合=60%:40%

⇒ 課税対象の譲渡価額:2,000万円 × 40% = 800万円

・消費税率:10%

⇒ 納税する消費税額:800万円 × 10% = 80万円

《80万円》の消費税を納税する必要があると算出されました。

売主が課税事業者に該当する場合には、80万円を消費税として納税する必要があります。

ただし、前述のとおり消費税は“担税者と納税者が分かれている税金”ですので、消費税を負担するのは買主です。

売主は、買主から消費税分の金額を売買代金に含めて預かり、それを納税する義務を負っています。

3. マンションを売却しても消費税の納税義務がない2つのケース

続いて、マンションを売却しても消費税の納税義務がない場合を、あらためて整理しておきましょう。2つのケースがあります。

  1. 売主が免税事業者
  2. マンションが居住用財産(マイホーム)

3-1. 売主が免税事業者

1つめのケースは「売主が免税事業者」です。

先ほど「消費税の課税事業者」について詳しく解説しましたが、売主が課税事業者に該当しなければ、消費税を納税する必要はありません。

基本的には、これまでに年間の課税売上高が1,000万円を超えたことがなく、インボイス制度の登録などで自ら課税事業者申込みもしていない場合、課税事業者ではなく免税事業者です。

参考:国税庁「No.6931 消費税等と譲渡所得」

3-2. マンションが居住用財産(マイホーム)

2つめのケースは「マンションが居住用財産(マイホーム)」です。

課税事業者であっても、自分の居住用財産(マイホーム)を売却したときには、消費税は課税されません。

居住用財産の判断基準としては、国税庁の以下の通達が広く用いられています。

(居住用 家屋の範囲)

31の3-2 その者が生活の拠点として利用している家屋(一時的な利用を目的とする家屋を除く。)をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等(社会通念に照らしその者と同居することが通常であると認められる配偶者その他の者をいう。以下この項において同じ。)の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定する。

(後略)

出典:国税庁「措置法第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》関係」

総合的な観点で見て、“そのマンションに生活の本拠を置き、寝起きをして日常生活を送っていること”が認定されれば、居住用財産として売却できます。

マンションを賃貸で貸していた場合や、趣味・娯楽・保養(別荘など)に使用していた場合は、居住用とは認められません。

客観的に居住用財産に該当することを証明するためには、「電気・水道・ガス」の使用量が有力です。以下は、全日本不動産協会サイトからの引用です。

そこで、家屋に実際に居住し、寝起きをしていた事実を主張するために最も説得力のある事実は何かということが重要になりますが、これは一般的に電気、水道、ガスの使用量の状況です。

電気、水道、ガスは、その家屋で寝起きしているという事実と連動してその使用が発生するものですから、これらの使用量等が通常の平均的な数値となっているかどうかが、その家屋における居住の事実と程度を測る有力なバロメーターとなります。

出典:公益社団法人 全日本不動産協会「居住用不動産の譲渡に係る特例の適用要件である「居住の用」の判定について」

居住用財産の判定を裁判で争った事例については、居住用財産の判定(国税不服審判所)が参考になります。

4. 投資マンション売却で消費税を納税する流れ

投資マンション売却で、消費税の納税が必要となった場合の手順をご紹介します。

  1. 消費税の確定申告をする
  2. 申告内容に従って消費税を納税する

4-1. 消費税の確定申告をする

消費税は、確定申告を行って納税します。

【確定申告の期限】

・個人事業主:翌年の3月末日まで

・法人:課税期間の末日の翌日から2ヶ月以内

個人事業主の場合、“所得税”の確定申告の期限が3月15日です。その15日後までに、“消費税”の確定申告も行う必要があります。

法人の場合の“課税期間”は、事業年度です。法人税の確定申告書(事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内)と同じタイミングで、消費税の確定申告も行います。

たとえば、4月1日〜3月31日が事業年度の法人であれば、5月31日までです。

参考:国税庁「消費税のしくみ」

以下は、申告書様式(個人事業者用・法人用共通様式)の一部です。

出典:国税庁「消費税及び地方消費税確定申告書(第一表)(一般用)」

申告書や添付書類の作成方法は、消費税及び地方消費税の確定申告の手引き・様式等(国税庁)にて、ご確認ください。

4-2. 申告内容に従って消費税を納税する

確定申告をしたら、その内容に従って、消費税を納税します。

納税の期限は、確定申告書の提出期限と同じ日となります。

【消費税の納付期限】

・個人事業主:翌年の3月末日まで

・法人:課税期間の末日の翌日から2ヶ月以内

自分で申告した消費税の金額を、振替納税・クレジットカード・現金・e-Taxによる電子納税などの方法で自主的に納付します。

税務署から、納付書の送付や納税通知書などのお知らせはありません。これは所得税の納付と同様です。

詳細は、税金の納付(国税庁)にてご確認ください。

5. 投資マンション売却で消費税を節税するポイント

最後に、投資マンション売却で「消費税を節税したい」という方向けのアドバイスを、お伝えします。

先に注意点として、正確には売主にとっての消費税節税ではなく、買主(担税者)にとっての節税となります。

売主としては、売却代金に消費税額を上乗せする必要がないので売却しやすくなったり、確保できる利益が増えたりするメリットがあります。

以下のポイントを見ていきましょう。

  1. 免税事業者のうちに売却を済ませる
  2. 建物割合を不適切に高くしないように注意する
  3. 増税の可能性があればその前に売却する

5-1. 免税事業者のうちに売却を済ませる

1つめは「免税事業者のうちに売却を済ませる」です。

現在、免税事業者であり、将来的に課税事業者になる見込みがわかっている場合は、課税事業者になる前に投資マンションを売却することで、消費税を節税できます。

個人事業主のケースで例を挙げると、2023年の課税売上高が1,000万円を超えた場合、課税事業者となるのは2025年です。

よって、2024年12月31日までに売却すれば、免税事業者の期間中に売却したことになるため、消費税が課税されません。2025年1月1日以降に売却すると、消費税が生じます。

同様に、インボイス制度の登録事業者(課税事業者)になる予定がある方も、タイミングを見計らうことで節税につながるケースもあるでしょう。

5-2. 建物割合を不適切に高くしないように注意する

2つめは「建物割合を不適切に高くしないように注意する」です。

マンション売却では、土地の譲渡分には消費税が課税されず、建物の譲渡分には消費税が課税されます。

譲渡価額の土地と建物の比率を、どう配分するかによって、消費税額が変動することに注意しましょう。

土地・建物の按分は、客観的に見て合理的な区分がされている必要があるものの、明確な決まりがあるわけではありません。

合理的と判断される範囲内で、できる限り建物割合を減らすことが、消費税の節税につながります。

土地・建物の適切な区分の判断基準としては、国税庁の以下の通達が広く用いられています。

【建物、土地等を同時に譲渡した場合における土地等の対価の計算】

63(2)-3 法人が建物及び土地等を同時に譲渡した場合において、当該土地等の譲渡対価の額が、次による等合理的に算定されており、かつ、当該譲渡に係る契約書において明らかにされているとき(建物の譲渡対価の額から明らかにすることができるときを含む。)は、これを認める。(昭51年直法2-6、平6年課法2-5「三十四」により改正)

(1) 建物の譲渡対価の額として相当と認められる価額を建物及び土地等の譲渡対価の額の合計額から控除した金額を土地等の譲渡対価の額としていること。

(注) 例えば、建物の建築費の額又は購入価額(当該建物の建築又は購入後に要した施設費その他の附随費用の額を含む。)に通常の利益の額を加算した金額を建物の譲渡対価の額としているときは、相当と認められる価額とする。

(2) 土地等の譲渡対価の額として相当と認められる価額を土地等の譲渡対価の額としていること。ただし、建物及び土地等の譲渡対価の額の合計額から当該土地等の譲渡対価の額を控除した金額が建物の譲渡対価の額として相当と認められる場合に限る。

出典:国税庁「第2款 収益の額」

実務上は、「固定資産税評価額の割合による区分」または「鑑定価額の割合による区分」が用いられることが一般的です。

根拠なく自由に按分することはできませんが、合理的な解釈が複数あり、割合の数字に違いがある場合は、建物割合が低い解釈を選択しましょう。

参考:公益社団法人 全日本不動産協会「法人が土地と建物を一括取得した場合の取得価額の区分」

5-3. 増税の可能性があればその前に売却する

3つめは「増税の可能性があればその前に売却する」です。

2019年10月に、消費税率は10%に引き上げられました。本記事執筆時点では、さらなる増税の情報はありませんが、将来的には、その可能性を視野に入れる必要があります。

たとえば、日本の消費税、2030年までに15%に IMFが報告書(日本経済新聞)といった報道もあり、国の財源確保は深刻な課題となっているためです。

また、マンション売却では、売主自身が消費税の担税者(税金を負担する人)となる出費もあります。

【担税者となる出費の例】

・マンション売買の媒介を依頼した不動産会社に支払う「仲介手数料」

・登記手続きの委任に伴う「司法書士への報酬」

消費税が増税されるタイミングが近いときには、その前に売却することで、消費税の節税につながります。

6. まとめ

本記事では「投資マンションの売却にかかる消費税」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。

投資マンション売却で、売主が消費税の納税義務を負うのは、以下のケースです。

・売主が課税事業者である

・売却するマンションが居住用ではなく事業用

とくに留意したい点として、以下が挙げられます。

・土地には消費税は課税されない(売却代金のうち建物の区分に対して課税される)

投資マンション売却で消費税を節税するポイントは、以下のとおりです。

・免税事業者のうちに売却を済ませる

・建物割合を不適切に高くしないように注意する

・増税の可能性があればその前に売却する

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