目次
不動産投資が相続税対策になる4つの理由
不動産投資をすることが相続税対策になる主な理由は、次の4つです。
・不動産購入により相続税評価額が下がる
・「小規模宅地等の特例」を受けられる
・賃貸事業により相続税評価額が下がる
・借入金により財産を圧縮できる
それぞれについて解説していきます。
不動産購入により相続税評価額が下がる
不動産を購入すると、現金と比べて相続税評価額を下げることが、税金対策になる大きな理由の一つです。
相続税は、相続税評価額に対して一定の税率をかけて課税されます。一般的に、不動産の相続税評価額を算出するために使用される路線価は、実勢価格の80%程度に設定されているので、相続税評価額が低くなるのです。
例えば、現金5,000万円の評価額はそのまま5,000万円ですが、5,000万円で購入した土地を相続すれば、評価額は4,000万円程度まで下がります。
このように、現金を不動産に換えれば相続税評価額を圧縮できるため、相続税対策が可能になります。
「小規模宅地等の特例」を受けられる
被相続人の所有していた土地が条件に当てはまれば、「小規模宅地等の特例」を受けられることから、相続税を減らすことができます。
「小規模宅地等の特例」とは、被相続人が住居にしていた土地や事業をしていた土地について、条件を満たせば相続税評価額を50~80%減額できる制度です。条件が複雑なので、活用を検討する際は国税庁のホームページなどをよく確認しておきましょう。
減額率は大きいですが、対象となるのは土地に限られるため、物件だけを購入しても相続税対策にならないことに注意が必要です。
賃貸事業により相続税評価額が下がる
所有している不動産で賃貸事業を行うことによって、相続税評価額を下げることができます。
不動産を人に賃貸すると、活用の選択肢が限られることにより資産価値が低くなるため、評価額が下がるのです。賃貸用の物件を建てた土地(貸家建付地)の相続税評価額の計算式は以下の通りです。
【貸家建付地相続税評価額計算式】
貸家建付地の相続税評価額=自用地の場合の土地の相続税評価額-(自用地の場合の土地の相続税評価額×借地権割合×借家権割合(30%)×賃貸割合)
借地権割合は、国税庁の路線価図で確認することができます。賃貸割合とは、専有部分の床面積のうちどのくらいが賃貸されているかを示す割合です。空室の場合は、賃貸割合に含まれません。
借入金により財産を圧縮できる
土地を購入・活用する際にローンを利用することでも、相続税額を減らせます。相続時に借入金の残額が残っていると、相続税評価額を算定する際にマイナス計上され、被相続人の財産全体の課税標準額を下げることができるためです。
不動産投資を行う際は、無理なく返済できる範囲でローンを利用して、相続時に借入金が残るようにしておくことで相続税対策に活用する方法があることを覚えておきましょう。
相続税対策で節税以外に不動産投資を行うメリット
相続税対策の不動産投資は節税以外にもさまざまなメリットがあります。
ここでは、節税以外で不動産投資を行うメリットを紹介します。
賃貸物件であれば家賃収入が得られる
不動産投資は相続税評価額を下げるだけでなく、賃貸物件であれば家賃収入を得られるメリットがあります。
預貯金の場合だと、相続したお金が自動的に増えることはありません。しかし、アパートやマンションであれば相続後も家賃収入が入り続けるため、長期的に安定した利益を得ることができます。
また、アパートやマンションの価値がゼロになることはなく、収益性が低下した物件は売却して利益を得られます。
ちなみに、家賃収入が発生している不動産を相続する場合、遺言書によってその不動産を相続する人が受けとるのが基本的です。遺言書がない場合だと、その不動産を誰が相続するか決まるまでは相続人全員の共有物となります。
生命保険の代わりになる
相続税対策として不動産投資を行うメリットとして、生命保険の代わりにできることが挙げられます。
その理由は、不動産投資は他人に不動産を貸して賃料を得る投資ですが、ローンの種類によっては投資者が亡くなった場合に家族に遺されるためです。投資目的であっても不動産を購入する際に金融機関から融資を受けた場合、団体信用生命保険に加入します。
この保険は物件購入者が亡くなったり、高度障害になったりした場合に、ローン残債を保険金で返済してもらえるというものです。ローンの返済途中で亡くなったとしても、残された家族にはローンがない不動産を資産として残せます。
そのため、残された家族は収益不動産が資産として残り、安定した家賃収入を得ることができるのです。管理が難しい場合も、物件を売却すればまとまったお金を残すこともできます。
インフレに強い
不動産投資は預貯金に比べると景気の変動に影響を受けにくく、インフレに強いという特徴があります。
インフレは景気の変動によって物の価格が上昇し、その結果としてお金の価値が下落する状態のことです。
不動産の場合だとインフレによって価値が上昇するため、投資家にとっては資産価値の増加が期待できます。しかし、預貯金の場合だと金額が変わることはなく、お金の価値が低下することで、資産価値が低下してしまいます。
また、住宅は人々の生活に必要不可欠なものであり、他の資産に比べると経済的に厳しい状況であっても手放すのは最後となるものです。このような不動産の特性もあって、不動産投資はインフレや不況に強い投資といわれています。
不動産投資とインフレの関係については、以下の記事でも詳しく解説しています。
⇒インフレ対策に不動産がおすすめ?リスクと物件購入時のポイント
不動産の評価額の計算方法を知ろう
不動産の相続税評価額を算定する際は、土地と建物(家屋)に分けてそれぞれ異なる計算方法で評価します。ここでは、各評価での計算方法を具体的に説明します。相続税評価額がどのように決まるのか把握しておきましょう。
土地
土地の相続税評価額の算定方法には、路線価方式と倍率方式の2種類があります。
路線価の設定がある地域では、路線価方式で相続税評価額を計算しましょう。路線価方式では、その土地に隣接する路線(道路)の路線価に土地面積をかけることで、相続税評価額を計算します。なお、路線価とは、国税庁が道路ごとに設定している価格のことで、国税庁の路線価図で確認が可能です。
路線価方式 |
土地の相続税評価額=路線価×面積 |
路線価の設定がない地域では、倍率方式で計算します。評価倍率表に定めのある倍率を、固定資産税にかけることで算出が可能です。
倍率方式 |
土地の相続税評価額=固定資産税額×評価倍率表の倍率 |
建物
建物の相続税評価額は、被相続人が利用していた場合は「固定資産税評価額×1.0」で計算します。つまり、この場合、建物の相続税評価額は固定資産税評価額と同額になるということです。
なお、第三者に建物を賃貸していた場合などは、以下の通り、固定資産税評価額にかける倍率が変わります。
第三者に家屋を賃貸 | 固定資産税評価額×(1−借家権割合(30%)) |
賃貸アパート | 固定資産税評価額×(1−借家権割合(30%)×賃貸割合) |
不動産を相続するなら!相続時精算課税制度の活用
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、20歳以上の子や孫へ生存贈与をする場合に2,500万円まで非課税にすることができる制度のことです。2,500万円を超えた部分の税率は20%になります。
この制度を利用した場合、相続の際に、贈与時の評価額を相続財産評価額に合算した金額に対して、相続税が発生します。
例えば、2,500万円の土地を親から生前贈与され相続時精算課税制度を活用した場合、以下の通りです。
・生前贈与時の贈与税は非課税
・親からの相続発生時、相続財産の評価額が3,000万円なら「3,000万円+2,500万円(生前贈与の評価額)=5,500万円」の相続税評価額に対して、相続税が発生する
相続税対策に向いている不動産の3つの特徴
相続税対策に向いている不動産の特徴は下記の3つです。
・市場価格と相続税評価額に乖離がある不動産
・流動性が高い不動産
・利回りが高い不動産
それぞれを下記で詳しく解説します。
市場価格と相続税評価額に乖離がある不動産
市場価格と相続税評価額の乖離が大きいほど相続税対策の効果が大きくなります。そのため、市場価格と相続税評価額の乖離が大きい都市部の物件の方が、相続税対策で有利です。
立地条件なども評価に影響するため、下記のような不動産を投資対象にすることをおすすめします。
・人口が多い都市部にある
・公共交通機関へのアクセスが良い
・整形地である
・接道条件が良い
立地条件が良い不動産は市場価格が高くなるため、相続税評価額の乖離が大きくなります。
流動性が高い不動産
流動性が高い不動産は、金融機関の融資を受けやすく、投資効果を得るタイミングも早くなります。その結果、購入希望者も見つかりやすくなり、売却処分にも時間がかかりにくい特徴があります。
流動性が高い不動産を選ぶ際には、将来的に相続人が売却することも考慮して、下記の3つの特徴がある不動産を選びましょう。
・都市部の中心地に近い
・公共交通機関へのアクセスが良い
・売買しやすい価格帯
流動性の高い不動産の特徴は市場価格の高い不動産の条件と同じと言って良いでしょう。地方では人口減が進んでいる現在、売りたい時に買い手がなかなか見つからない傾向にあります。
また、築年数が浅く専有面積が広いなどの高額な不動産の場合、現金に換金しようとした際に、好きなタイミングで売却することが困難になります。そのため、同じ費用をかけて複数の不動産を購入することも考える必要があります。
利回りが高い不動産
利回りは不動産投資の成否を左右する重要な要素です。不動産投資では、利益を下記の費用に充てる必要があります。
・ローンの返済
・物件の管理委託費
・固定資産税や都市計画税
・保険料(火災保険や施設賠償責任保険など)
・建物修繕費
・水道光熱費
・入居者募集の広告費
これらの費用を全て利益から支払う必要があるため、利益を得られる高利回りの物件を選ぶ必要があるのです。
相続税対策に向いている不動産投資の物件
どのような物件が相続税対策に向いているのでしょうか。ここでは、相続税対策に向いている不動産投資物件を紹介します。
アパートやマンションなどの一棟物件
アパートやマンションなどの一棟物件を購入または建築した場合、土地と建物のどちらも相続税評価額を引き下げられます。
また、土地の購入後にアパートを建設すると、貸家建付地として評価され、相続税評価額は大幅に引き下げられます。貸家建付地とは、所有する土地に建築した家屋を他に貸し付けている土地のことです。
ワンルームマンション
ワンルームマンションは、実際の売買価格と相続税評価額の差が大きいため、相続税対策に適しています。少ない初期費用で始められるため、不動産投資初心者の方でも始めやすいです。都心の新築か築浅の物件なら、流動性も高くおすすめです。
タワーマンション
タワーマンションは、実際の売買価格と相続税評価額の差が大きいため、相続税対策に向いています。購入したマンションが高層階にあるほど、実勢価格と相続税評価額の差は大きくなり、相続税の節税に大きな効果があります。
相続税対策で不動産投資をする際の注意点
相続税対策で不動産投資をする際は、次の2点に注意しましょう。
・相続までの期間と利回りを考慮する
・築年数が古いとリスクが大きい
詳しくは以下で解説します。
相続までの期間と利回りを考慮する
相続税対策で不動産投資を行う際は、保有する期間や利回りも考慮し、収益性のある不動産を選ぶように注意しましょう。
せっかく現金を不動産に置き換えて相続税を減らしても、不動産を所有した後に修繕や改装などが必要になって赤字が発生すれば、対策した意味が薄れてしまうからです。
相続発生まではもちろんのこと、相続後も保有するのが負担にならないよう、表面利回りではなく維持・管理コストを含めた実質利回りに着目して、不動産を選ぶようにしましょう。
築年数が古いとリスクが大きい
購入価格がリーズナブルだからといって、安易に築年数の経過した物件を投資対象に選ばないように注意してください。
築年数の古い建物は耐震・防火性能が低い場合があるため、リフォームに余分な費用が発生したり、賃貸事業を行う場合は入居者の確保が難しかったりと、維持管理の難易度が上がります。
相続人の負担にならないように、管理が難しすぎる不動産を遺さないよう配慮することも、相続対策をするうえで大切です。
不動産投資にはコストがかかる
不動産投資を始めるにあたって、不動産会社への仲介手数料や不動産取得税、登録免許税などさまざまなコストがかかる点に注意しましょう。
また、不動産を保有している期間中は固定資産税や清掃料、火災保険料、修繕費など維持管理にかかるコストも発生します。相続税対策として不動産を現金で購入した場合、そのあとに発生する費用を支払えない可能性もあるため注意が必要です。
節税対策のために不動産投資を行う場合は、初期コストやランニングコストがどれくらい発生するかを把握しておきましょう。そのうえで、突発的な費用が発生した際にはカバーできるだけの資金を手元に用意しておくことも大切です。
不動産投資にかかるランニングコストについて、以下の記事でも詳しく解説しています。
⇒不動産投資のランニングコスト一覧!コストを抑える5つの方法とは
自分の意思で購入しなければ無効になる
相続税対策で不動産投資を行う場合に、被相続人となる人が自分の意思で物件を購入しなければ、税務署から指摘を受けて無効になる可能性があります。
例えば、被相続人の体調や精神面から自身で意思決定ができる状態でなかった場合、物件購入後に税務署に否認される可能性があるため注意しましょう。代筆や代理で契約を行った場合も、無効になる場合があります。
明らかな相続税対策とみなされると無効となる
不動産投資を行う場合に、明らかな相続税対策とみなされると税務署から指摘されて無効となる場合があります。
無効となる明確な基準はありませんが、時価と相続税評価額の乖離が大きい場合や、融資審査の際に購入目的を相続税と記載するようなケースです。
高齢者が急に不動産を購入するような場合も、相続税対策が疑われて税務署からチェックが入ることもあります。
最初から相続税対策として不動産投資をすると、税務署から疑われて無効になるケースがあるため注意しましょう。相続税対策を行うなら、不動産投資自体が目的であるという形である必要があり、それを継承させる体制作りが理想といえます。
相続税の申告後すぐに売却すると無効となる可能性がある
相続税対策で不動産投資を行った場合、相続税の申告直後に売却を行うと、税務署から指摘されて無効になる可能性があります。
税務署が行う税務調査は過去3年にさかのぼって行われます。
税務調査の時点で不動産を売却し、その3年以内に相続税の申告が行われている場合は、相続税対策とみなされる可能性が高く注意が必要です。
また、被相続人が亡くなってから3年ではなく、相続税の申告から3年となる点にも気をつけましょう。相続税対策を行うなら一定期間は不動産を保有し続ける必要があるため、この期間中にかかるコストも勘案しなければなりません。
相続人同士がもめる原因になる可能性がある
相続が現金ではなく不動産の場合、複数の相続人で公平に遺産を分配することが難しく、もめる原因になる可能性があります。
例えば、相続人が兄弟3人で、遺産が不動産5,000万円・現金1,000万円の6,000万円だった場合に、これを3等分するのは困難です。誰か一人が不動産をすべて相続してしまうと、残された兄弟は不公平に感じるでしょう。
相続人同士で争いにならないように、資金全体のバランスを考えながら投資を行う必要があります。また、遺言書を作成しておいたり、分配しやすいように複数の不動産を購入しておいたりなどの対策も効果的です。
納税資産不足になるリスクがある
相続税の納税は金銭による一括納付が基本となっているため、不動産の場合だと納税資産不足になるリスクがあります。
不動産のほかに現金化できる資産が相続できないと、不動産を相続した人が相続税を現金で納めなければなりません。現金で相続している場合だと、相続した資産から納税できますが、不動産で相続しているとお金を工面する必要が出てきます。
また、相続した不動産を売却することで納税資金を確保する方法もありますが、相続税の納付期限は相続開始から10か月です。この期間中に不動産売却を行うことは難しく、売却できたとしても手続きに時間がかかり、現金が入ってくるのが遅れてしまう可能性があります。
不動産を担保に金融機関からお金の借り入れを行うという方法もありますが、この場合だと返済リスクや金利の負担が発生します。
納税資金不足の問題は、相続が発生してしまった後だと有効な対策がしにくいため、納税資金まで見通したうえでバランスよく資産を保有することが大切です。
相続税対策の不動産投資は認知症に注意!事前にしておきたい対策とは
不動産投資で相続税対策を行う場合、注意しなければならないのは認知症です。
認知症になって判断能力がなくなると、投資用不動産の管理や運用、処分を行うことができません。
相続税対策として不動産投資を行う場合に、自分が亡くなるまで不動産を売却せず保有しておく場合は認知症対策をしておきましょう。
ここでは、具体的な対策方法を3つ紹介します。
家族信託
家族信託は、信頼できる家族に事前に決めておいた契約内容の範囲内で不動産の管理や運用、処分を行ってもらう制度です。
財産管理に特化している制度であるため、投資用不動産の管理や運用、処分などにも適しています。
例えば、自分が認知症になったあとに、子どもに投資用不動産のリフォームや処分を一任することも可能です。比較的新しい制度であるため、利用する際には相続や法律に関する知識や専門家への依頼が必要となります。
生前贈与
生前贈与とは存命中に財産を他者に贈与することで、不動産の生前贈与を行うことによって認知症対策になります。
認知症になると相続トラブルを防止するための遺言書の作成もできなくなるため、このような状況を避けるために生前贈与しておくのも方法の一つといえるでしょう。
ただし、年間で110万円を超える贈与は贈与税がかかり、相続税よりも税率が高く設定されているため注意が必要です。
任意後見制度
任意後見制度とは、判断能力が不十分になったときに、財産の管理や生活支援をしてくれる人を事前に選んでおく制度です。
財産管理を行う任意後見人を選定しておくと、認知症で判断能力が低下しても、契約の範囲内で財産管理を行います。
ただし、この制度は裁判所が選んだ任意後見監督人が任意後見人の財産管理を行うため、投資用の不動産運用は認められない可能性がある点に注意が必要です。任意後見制度は家族信託と比較した場合に、柔軟に財産管理ができないデメリットもあります。
7 まとめ
不動産投資をして現金を不動産に換えておくことで、相続税評価額を抑えることができます。しかし、2024年1月1日からマンションの相続税評価額が戸建てと同じ6割程度まで引き上げる動きがあります。これによって、駆け込み贈与の需要増加が考えられますが、税務署に否認される可能性もあるため慎重さが求められます。
相続税対策にばかりとらわれず、不動産の収益性や維持管理のしやすさにも考慮して、相続人の負担にならない物件を選ぶことが大切です。
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