目次
投資用マンションを売却したら黒字・赤字でも確定申告は必須 な理由
投資マンションを売却した場合、プラスの利益が生じた場合だけでなく、損をした場合でも確定申告はすべきです。
- 黒字の場合、20万円以上の利益があればそもそも義務
- 赤字の場合は課税額が軽減される可能性あり
- 損益通算ができる
それぞれの理由について、以下で詳しく解説します。
黒字の場合、20万円以上の利益があればそもそも義務
投資マンションを売却して、20万円以上プラスの利益(譲渡所得)があった場合、確定申告書は義務になります。確定申告によって正確な所得を申告し、所得税や住民税などの税金を算出して支払う必要があるからです。
例えば、投資マンションを購入した金額から取得費用や売却時の諸経費を差し引いたときに、20万円以上の利益があれば確定申告をしなければなりません。
もし20万円以上の所得があったにもかかわらず、確定申告を行わなければ、次のようなペナルティを課せられます。
名称 | 課税要件 | 課税割合 |
無申告加算税 | 決められた期間内に申告をしなかった場合に発生 | ・50万円までは15% ・50万円を超える部分は20% ・300万円を超える部分は30%
|
過少申告加算税 | 期間内に申告をしても、本来納めるべき金額よりも少なかった場合に発生 | ・増差額(足りなかった分の税金)× 10% ※増差税額が、当初に申告した税金または50万円のうち大きい方の金額を超過するときは税率が15%
|
重加算税 | 過少申告、無申告、不納などが故意と判断された場合に発生(領収書の捏造や架空の経費など、申告の偽りや所得を隠して、意図的に脱税しようとしたとき) | ・35%(過少申告加算税/不納付加算税に加えて) ・40%(無申告加算税に加えて) |
不納付加算税
| 法定期限内に納付しなかった場合に発生 | ・10% ※期限後でも、告知(催促)
|
参考:国税庁「延滞税の計算」
例えば、所有年数5年超えの投資マンションを売却し、諸費用を差し引いた利益が4300万円だった場合、通常の税率で納付すれば譲渡税は約873.5万円です。
しかし、もし573.5万円分しか納付せず、300万円の未納が発覚した場合、未納分の税金300万円に加え、過少申告加算税の約57.5万円、延滞税の約30万円、重加算税の約105万円を支払うことになります。
約190万円も追加で支払うことになり、結果的に大きく損をするかもしれません。
投資マンションの売却で利益を得た場合は、正しく確定申告を行って納税しましょう。
確定申告していない場合のペナルティについては、以下の記事をご覧ください。
赤字の場合は課税額が軽減される可能性あり!
投資マンション売却後に赤字だった場合は、所得がゼロとなるため本来確定申告の必要はありません。しかし、赤字で確定申告を行うことで将来の所得税や住民税を軽減できる可能性があります。
青色申告で確定申告を行う場合は、3年間は赤字繰越が可能となるため、翌年度以降の黒字から相殺して将来の所得税や住民税を軽減できる可能性があるからです。
そのため、投資マンション売却後に赤字なってしまった場合でも、節税対策の一環として確定申告をするようにしましょう。
ただし、赤字の繰り越しができるのは青色申告の場合のみです。白色申告では、翌年黒字になっても、赤字繰越ができず相殺できないため注意しましょう。
青色申告によって節税効果がアップする理由については、以下の記事をご覧ください。
→不動産投資は青色申告で節税効果アップ?メリットと注意点を解説!
投資マンションの売却にかかる税金の内訳
投資用マンションの売却時には、大きく分けて次の税金がかかります。
・印紙税
・登録免許税
・譲渡所得税
・消費税
まずは、税金の仕組みを確認しておきましょう。
印紙税
印紙税は印紙税法に基づき、売買契約書や領収書などの文書を取り交わす際に課税される税金です。売買契約書に収入印紙を貼付して納めます。
税額は不動産の売買価格で決まり、次の軽減税率が適用されます。
不動産の売却金額 | 本則税率 | 軽減後の税率 |
10万円以下 | 200円 | - |
10万円を超え50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円を超え100万円以下 | 1千円 | 500円 |
100万円を超え500万円以下 | 2千円 | 1千円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 1万円 | 5千円 |
1,000万円を超え5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え5億円以下 |
10万円 | 6万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
登録免許税
登録免許税は、マンションの抵当権の抹消登記をする際にかかる税金です。不動産1件につき1,000円かかります。売買する物件が土地と建物の登記に分かれているなら個別に課税されます。
マンションを売却するにはローンを完済して抵当権を抹消する必要があり、手続きは司法書士に依頼するのが一般的です。登録免許税を含めた依頼料として、10,000~40,000円の費用がかかります。
譲渡所得税
譲渡所得税は、資産を売却した利益に対して課税される税金の総称で、次の三つからなります。
・所得税
・住民税
・復興特別所得税
土地や建物などの不動産は売却価格が大きく、高額化しやすい税金です。ただし、売却損が出た場合は課税されません。
所得税
所得税は売却益に対して課税され、マンションの所有年数によって税率が分かれます。
・長期(所有期間5年超):15%
・短期(所有期間5年以下):30%
住民税
マンションを売却して所得が変わると、住民税が課税されます。マンションの所有年数により、次の二つの税率に分かれています。
・長期(所有期間5年超):5%
・短期(所有期間5年以下):9%
復興特別所得税
復興特別所得税とは、2011年に発生した東日本大震災の復興に充てられる税金で、2037年12月31日まで課税されます。税率は個人の所得税額に対して一律2.1%です。
消費税
投資用マンションを売却する場合、不動産会社に支払う仲介手数料に消費税が課税されます。ただし、事業目的の建物の売却が課税対象です。
土地のみやマイホーム用のマンションの売却、免税事業者の場合は、消費税の支払い義務がありません。
なお、投資用マンションの売却にかかる消費税については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせて参考にしてみてください。
→投資マンション売却で消費税が課税される?仕組みや計算方法を解説
投資用マンションを売却した場合の確定申告の流れ
投資マンションを売却した場合の確定申告は、以下の流れで行います。
STEP1 必要書類を集める
STEP2 投資用マンション売却の税額を計算する
STEP3 確定申告書を作成する
STEP4 確定申告書を提出して税務署へ納付する
確定申告をスムーズかつ正しく行うためには、さまざまな書類を用意しなければならないため、早めに準備に取り掛かる必要があります。投資用マンションを売却したら、すぐに確定申告のための書類を集めておきましょう。
STEP1.必要書類を集める
投資マンションの売却による確定申告を進める上で、まずやるべきことが必要書類を集めることです。確定申告に必要な書類が揃っていなければ正しく所得を申告できません。
主な必要書類は以下の通りです。
書類の種類 | 取得先 |
確定申告書(決算書等含む) | 国税庁HP(税務署) |
売買契約のコピー | 本人保有 |
賃貸借契約書 | 本人保有 |
建物・土地の登記事項証明書 | |
借入返済表(ローン契約の人) | 借入先(金融機関) |
源泉徴収票(給与所得があるひと) | 勤務先 |
固定資産税通知書 | 自治体等の行政(郵送) |
損害保険の保険証券 | 保険会社 |
管理費・修繕積立金の領収書(工事請負業者が発行) | 管理会社もしくは本人保有 |
上記は、正しい税額の計算や確定申告書類の記入に必要な書類です。取り寄せる必要がある書類は、確定申告が近づいて各所の窓口が混雑する前に準備しましょう。
STEP2.【計算例つき】投資用マンション売却の税額を計算する
必要書類が揃ったら、具体的な税金を計算していきます。
譲渡所得は、次の計算式に当てはめることで算出可能です。自分のケースに当てはめて譲渡所得(投資マンションの売却によって得た金額の総額)の税額を計算できるよう、各種費用と税率の順に詳しく解説します。
譲渡価額|投資マンションの売却価格
譲渡価額は、投資マンションを売却したときに得た売却金額の総額です。
売主が支払った固定資産税・都市計画税については、売却の際に精算されるため、その精算金も加えた価格が売却価格(譲渡価額)となります。
なお、タイミングによっては固定資産税が買主負担になるため、売却金額のほかに固定資産税清算金も譲渡価額に含まれます。精算が必要でも管理費、修繕積立金などは含まれません。
取得費|投資マンションの取得時にかかった費用
取得費は、投資マンションを購入したときにかかった費用です。
▼投資マンションを購入したときにかかった費用に該当するもの
・投資マンションの購入費用
・購入手数料
・測量費用
・設備費用
・不動産取得税
・登録免許税
・印紙税
・(建築した場合)建築費用
・(購入後解体した場合)建築の解体費用
・減価償却費(建物のような価値が下がる資産に対して購入費用を段階的に経費にするもの)
購入費用について、具体的な金額が確認できる書類が残っていない場合、「売却価格×5%」で換算した金額で計上することになります。
後ほど紹介しますが、取得費は、売却後にできる節税対策のひとつです。金額がわかる書類がないと正確な金額で申告できず、損をする可能性があります。手元にない場合は、1つでも多くの書類を探しましょう。
また、マンションのような価値が下がる資産については、減価償却費を差し引かなければなりません。
減価償却費の計算式は、「購入価格×0.9×償却率×経過年数」です。
▼償却率の参考値
建物の構造 | 耐用年数 | 償却率 |
鉄筋コンクリート造
鉄骨鉄筋コンクリート造 | 70年 | 0.015 |
レンガ/石造/ブロック造 | 57年 | 0.018 |
金属造(骨格材4mm超) | 51年 | 0.020 |
金属造(骨格材3mm超4mm以下) | 40年 | 0.025 |
金属造(骨格材3mm以下) | 28年 | 0.036 |
木造/合成樹脂造 | 33年 | 0.031 |
木骨モルタル造 | 30年 | 0.034 |
償却率は、建物の構造で変わってきます。正しい償却率については、投資マンションの建物の構造を確認した上で、税務署へ確認するようにしましょう。
譲渡費用|今回の売却にかかった費用
譲渡費用は、投資マンションを売却するにあたって発生した手数料などの費用です。
例えば、以下のような費用が譲渡費用に含まれます。
▼売却にかかった費用に該当するもの
・投資マンション売却時の仲介手数料
・印紙税
・違約金
・名義書換料
・広告費
・(入居者がいた場合)立ち退き料
・(売却前に解体した場合)建物の取り壊し費用などの損失額
残しておいた納付書や領収書を確認して、譲渡費用を求めましょう。一方で、抵当権抹消費用、司法書士手数料、家財処分費用、引越費用は含まれ
税率|所得税額を求めるための税率
税率は、譲渡所得を求めるためのものです。「①譲渡価額」から「②取得費」「③譲渡費用」の合計を引いた金額に決められた税率を乗じることで算出できます。
また、税率は投資マンションの所有年数で異なり、購入から売却までの期間が5年を超えると所得税と住民税も下がります。
所有年数 | 所得税+住民税 |
長期譲渡所得(5年超) | 20.315% |
短期譲渡所得(5年以下) | 39.63% |
購入から5年以下の場合は39.63%の所得税と住民税がかかりますが、5年超の長期譲渡所得となった場合は20.315%の税率で済みます。
例えば、譲渡所得が5,000万円だったケースでかかる税金は以下の通りです。
ご覧の通り5年以内か5年超かで、税率が大きく異なるため、最終的に支払う税金額が大きく変わってきます。所有期間を確認し、税率を間違えないようにしましょう。
STEP3.【書き方サンプルつき】確定申告書を作成する
実際に税金額を計算したら、確定申告書を作成していきましょう。
不動産を売却した場合は、第一表・第二表・第三表(分離課税用)の用紙を使います。以前は確定申告書Aと確定申告書Bに分かれていましたが、2023年からは確定申告書Aが廃止されて一本化されています。
なお、具体的な譲渡所得の金額は、「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)」を用いて作成することになります。
実際の記入例を以下で解説します。
譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)の書き方
▼書き方のモデルケース
・父と共有で不動産を所有(5年超)
・総額1億円で売却
・売却の際に、「仲介手数料336.6万円」「測量費20.9万円」「収入印紙税3万円」がかかった
・売却価格と各種費用はすべて折半(2分の1ずつ支払い)をした
▼必要書類
・売買契約のコピー
・借入返済表
・決算書
・領収書など
譲渡所得の内訳書の2面では、不動産の所在地や実測値、売却の日付や金額などを埋めていきます。
購入時に実測を行っている場合、売却の際に改めて実測を行う必要はありません。以前の情報をもとに記入しましょう。
3面は、購入時にかかった取得費用と、売却を進めるにあたって必要になった譲渡費用について書き込み、最後に2面の①、3面の②と③の合計金額を記入して譲渡所得金額を計算しましょう。
5-2.確定申告書の書き方
▼必要書類
・確定申告書
・決算書
・源泉徴収票
・固定資産税通知書
・損害保険の保険証券
・領収書など
左側の第一表は、投資マンション以外の給与や年金などの収入も含めた、収入金額と所得金額を書きます。給与所得がある場合、会社から受け取った源泉徴収票を見ながら、必要項目を埋めていきましょう。
右側の第二表は、社会保険料等の控除額を記入するパートです。配偶者や扶養親族がいる場合、氏名やマイナンバーなども書くことになります。
控除等の情報を記入したら、第一表の左下部にある「所得から差し引かれる金額」を埋めていきましょう。
最後の第三表は、内訳書の内容を見ながら転記していくだけです。具体的には、売却した投資マンションの収入や所得金額、控除がある場合はその特別控除額などを記入します。
ここでは、投資マンションの売却によってプラス収益を得た場合の書き方を紹介しました。しかし、譲渡によって損失が出てしまったという人もいますよね。
国税庁「令和4年分譲渡所得の申告のしかた」では、譲渡益が出たケース、譲渡損失が出たケースに分け、具体的なモデルケースをもとに詳しい書き方を紹介しています。もう少し詳しく書き方を知りたいという人は、確定申告書を記入する前に、ご一読ください。
STEP4.確定申告書を提出して税務署へ納付する
作成した確定申告書は、原則翌年2月16日から3月15日までに添付書類とあわせて提出します。
主な提出方法は以下の通りです。
提出方法 | 提出期限 |
開所時間内 (時間外の場合でも時間外収集箱があれば深夜の投函でもOKの場合あり) ※税務署に要確認 | |
3月15日の深夜23時59分まで | |
郵送 | 3月15日の消印まで |
このなかでもおすすめなのがe-Taxです。作成から提出までがスムーズにできるだけでなく、青色申告特別控除の65万円控除を受けるための条件にもなります。もし、e-Taxを利用せずに65万円の青色申告特別控除を受けるためには、優良な電子帳簿の要件を満たした仕訳帳および総勘定元帳のデータ保存が必要です。
また、スマホからの確定申告にも対応しているため、パソコンがなくてもインターネットで提出可能です。確定申告期間中、確定申告会場で操作を教えてもらいながら、インターネットによる提出ができるケースもあるため、うまく活用しましょう。
投資マンション売却後、確定申告することでできる節税対策5つ
確定申告の際に納める税金額を確認し、「高いな」と感じた人も多いのではないでしょうか。せっかく高く売れても、その分の税金が高くなると素直に喜べないかもしれません。
しかし、まだ諦めるのは早いです。投資マンションは、売却したあとでも、節税できる可能性が残っています。具体的な方法は、以下の5つです。
・取得費を正しく把握して計算する
・「事業用の資産を買い換えたときの特例」を利用する
・長期譲渡所得税の税率適用を活用する
・相続税の取得費を加算する
・青色申告承認申請書を提出する
・損益通算を行う
もし少しでも税金を抑えたいと思ったら、上記の対策ができないか検討しましょう。
取得費を正しく把握して計算する
取得費がわかる書類を集め、実際にかかった金額を正しく申告することで、節税できる可能性があります。
例えば、2,000万円で売却できた投資マンションを購入する際に、150万円もの費用がかかっていたとします。書類が揃っていれば、取得費として150万円の満額を計上できますが、書類が揃わなければ「売却価格2,000万円×5%=100万円」のみなし金額しか計上できません。
本来、発生していた50万円分の取得費を申請できないため、損をしてしまいます。
投資マンションの取得が高額だったという場合は、見つかる限りの書類を計上し、みなし金額での計算にならないようにしましょう。
事業用資産を買い換えたときの特例を利用する
投資マンションを売却したあと、新たに投資マンションを取得した場合、「事業用の資産を買い換えたときの特例」を利用することで、節税できる可能性があります。
投資マンションを売却後、一定期間内に次の不動産を取得した場合、売却(譲渡所得)にかかる税金が軽減される特例です。
参考:国税庁「No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例」
買い替える不動産がある地域によって、課税の割合が変わってきますが、新しく購入した不動産が、売却価格よりも高い場合、高い節税効果が期待できます。
買い替えを検討している人は、特例を受けられないか、確認するようにしましょう。
長期譲渡所得税の税率適用を活用する
マンション売却のタイミングは、5年超えを目安にするのが節税のポイントです。マンション売却にかかる所得税+住民税の税率は、所有から5年以下で39.63%、5年超えで20.315%かかります。
所有期間が5年を超えた長期譲渡所得となれば、約20%近い節税が可能です。無理がなければマンションの売却は所有から5年以上経過したタイミングでの実行がおすすめです。
相続税の取得費を加算する
相続したマンションであれば、譲渡所得の計算で相続税分を取得費に加算して節税できます。ただし、マンションを相続した日から3年以内の売却が加算の適用条件です。
出典:「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」(国税庁)
損益通算を行う
もし売却損が出た場合は、投資マンション売却時に損益通算が可能になります。損益通算とは年間で発生した事業や不動産投資における利益と損失を合算して全体の所得を減らせる仕組みです。
投資マンションによる売却損は、以下の所得間で損益通算をして、節税効果を高められます。
・不動産所得
・事業所得
・山林所得
・譲渡所得
例えば、マンション投資以外に飲食店などを経営して事業所得を得ているとします。同じ年に不動産所得と事業所得の両方で利益が出た場合、左のグラフのように、所得全額が課税対象となります。不動産所得が100万円で事業所得が300万円ならば、併せて400万円の所得が課税対象です。
しかし、不動産投資で100万円の赤字を出してしまったとして、同年の事業所得が300万円の黒字だとしましょう。その場合には、右のグラフのように、両者を差し引きし、200万円だけが課税対象となります。
本来であれば事業所得分の300万円全てに税金がかかるところ、損益通算によって200万円分しか課税対象となりません。
さらに、一度出した損失は、最長3年間まで繰り越しできます。例えば、不動産で売却損を600万円出してしまった場合、その後3年間は、上限600万円までの所得が非課税となります。
損益通算の繰り越しにも、確定申告の手続きがマストです。賢く節税をするために、確定申告には毎年きちんと取り組みましょう。
今後投資用マンションを買い替えたときに確定申告を楽にする方法4つ
投資マンション売却後の確定申告で、正しくかつ少しでも税負担を軽減するためには、投資マンション購入後から売却まで、さまざまな書類を管理・保存しなければなりません。
しかし、購入するタイミングで書類の管理や保存まで意識していない人がほとんどです。そのため、売却タイミングで慌てて書類を集めだす方も少なくありません。
適切な管理が行き届かず、万が一紛失してしまうと正確な取得費を計算できなくなり、節税どころか余計に納税しなければいけない可能性もでてきてしまいます。
そのため、投資マンションを買い替えるタイミングで、確定申告に必要な書類などの管理方法を考えておくのがよいでしょう。
具体的な方法としては、次の4つが挙げられます。
・アプリやソフトウェアを採用する
・e-Taxを利用する
・税理士へ委託する
・確定申告サポートがある管理会社に依頼する
ここでは、それぞれの方法について詳しく解説します。
アプリやソフトウェアを採用する
確定申告をサポートするアプリやソフトウェアの採用によって、確定申告の手間を削減できます。
確定申告の手間のひとつといえるのが、収支管理や領収書などの記録です。とくに複数の投資マンションを所有している場合、毎月の家賃や修繕費、管理費用などさまざまな記録を残していかなければいけません。
しかし、収支管理できるアプリやソフトウェアの中には、スマートフォンで領収書を撮影するだけで保存できるものもあるため、採用すれば煩雑な手間を減らせるでしょう。
また、契約書を電子契約にすることで、データをUSBメモリやパソコンのフォルダ、クラウド上で保存が可能です。紙で保管するよりも紛失のリスクを軽減できます。
他にも、確定申告を行う際は会計ソフトの導入がおすすめです。会計ソフトは経理の知識がなくても簡単な入力だけで確定申告書が完成するため、時間と手間の削減になるでしょう。
また、会計ソフトによってはインターネットバンキングなどとの連携が可能です。不動産投資専用の銀行口座を用意しておけば自動で入力・仕分けしてくれるため、データ入力の手間がなくなるのもメリットです。
e-Taxを利用する
確定申告する際は、e-Taxの利用がおすすめです。
e-Taxであれば、画面上の指示に従いながら項目を埋めていくだけで自動で確定申告書ができあがり、税金額も計算してくれます。無料で利用できるため、会計ソフトの費用を気にするのであれば、活用するとよいでしょう。
また、自宅での作成が不安な場合でも確定申告期間中に税務署へ行くと、作成コーナーが設けられており、操作方法などをサポートしてもらえます。
さらに、e-Taxを利用する大きなメリットは65万円の青色申告特別控除の適用要件を満たせることです。確定申告書を作成する手間を削減するとともに、より高い節税効果を得たい方はe-Taxを利用しましょう。
また、確定申告後に還付金がある場合でも書面で提出するよりも早く還付されるメリットがあります。
税理士へ依頼する
確定申告の手間を最大限に削減したいのであれば、税理士への依頼もひとつの手段です。
税理士に依頼すれば、正確な内容で申告してくれるとともに、もっとも節税の高い節税対策を提案してくれるでしょう。
税理士への依頼は報酬が発生してしまうものの、時間の節約とともに節税効果を最大限高めたい方にはおすすめの方法です。
確定申告サポートがある管理会社に依頼する
確定申告のサポートを行う管理会社を選ぶことでも、確定申告書作成の手間を省けます。
管理会社の管理業務範囲は多岐に渡り、なかには確定申告を含む管理業務全般をサポートしてくれるケースがあります。
委託する分コストはかかりますが、確定申告に必要な経費などをしっかりと管理してもらえ、必要な書類を受け取るだけで、準備の工数がかからないのは大きなメリットです。
管理会社に委託できる主な業務については、以下の記事をご覧ください。
→【全解説】管理会社に委託できる業務やメリット・管理会社の選び方
\確定申告での書類管理が楽になる!アセットテクノロジーの「不動産管理アプリ」!/
確定申告の書類を準備するのは大変ですよね。
重要書類も紙での管理が基本なので、いつの間にか紛失し、確定申告をするタイミングになって探すのに苦労したという人も多いのではないでしょうか。
もし、確定申告の際の書類管理に不満があるのであれば、ぜひアセットテクノロジーの「不動産管理アプリ」をご活用ください。
アセットテクノロジーは、不動産管理から仲介、コンサルティングまで、幅広い不動産サービスで大家さんや投資家さんの収益化をサポートする会社です。
弊社が提供する「不動産管理アプリ」は、電子契約や文書保管機能を搭載しており、各種書類をアプリ上で管理することができます。
月次の収支報告や担当者とのやり取りをアプリを通じて行えるため、管理業務の全てをアプリ上で一元管理が可能です。
弊社のアプリをうまく活用して、わずらわしい確定申告書類の管理から解放されましょう!
投資マンションの売却損は深刻に考えなくて大丈夫!2つの理由
投資マンションの売却時に損失が発生してしまうケースがあります。なかには、確定申告時の収支管理で売却が発生していることに気がつく方もいるでしょう。
しかし、売却損が発生するのはごく普通のことで、深刻に考える必要はありません。
その理由は以下の3つです。
・家賃収入を加味すると、損が出ていない可能性が十分ある
・納税が不要となる
特に「家賃収入を加味すると、損が出ていない場合もある」点は大きな理由です。不動産投資では、物件の売却額だけでなく、売却に至るまでの収入もトータルで捉えることが重要だからです。
ここでは、投資マンションの売却損を深刻に考えなくてもよい3つの理由を解説します。
家賃収入を加味すると、損が出ていない可能性が十分ある
売却損が発生しても、家賃収入を加味した収支はプラスマイナスゼロ、もしくは黒字となり、損が出ていない可能性が十分にあります。
例えば、1,500万円で購入したマンションを、10年間賃貸として所有した後、手放すときの売却価格が1,000万円だったとしましょう。
・マンションの購入価格:1,500万円
・マンションの売却価格:1,000万円
・所有期間:新築から10年
この場合、単純計算でも500万円の損失が出ていると分かります。しかし、投資マンションを賃貸として運用していたのであれば、その収益を計算に反映させる必要があります。
売却損だけでなく、トータルの収支で、今回の投資を評価すべきだからです。
また、マンションの価値は経年によって減っていくため、1,500万円で購入したマンションの10年分の減価償却も、計算に含めます。
▼減価償却とは
経年によって下がっていく、マンションの建物や設備の価値を、算出する方法。
マンションの購入価格から、家賃収入と減価償却費を差し引くと、マンションをいくらで売却すれば、利益が出るのかが分かります。
【マンションの購入価格】-(【10年間の家賃収入】+【減価償却費】)=【利益の出る売却価格】
そこで、以下の条件に基づいて、計算をしてみましょう。
・マンションの購入価格:1,500万円
・マンションの売却価格:1,000万円
・所有期間:新築から10年
・家賃収入:年間50万円(10年間で500万円)
まずは減価償却費を算出します。
鉄筋コンクリート造の投資マンションの場合、償却率は0.022なので、以下の計算式が成り立ちます。
▼減価償却費の計算
【マンションの購入価格】1,500万円×0.9×【償却率】0.022×【経過年数】10年=297万円
次に、マンションの購入価格から、家賃収入と減価償却費を差し引くと、いくらで売却すれば利益が出るかが分かります。
【マンションの購入価格】1,500万円-(【家賃収入】500万円+【減価償却費】297万円)=703万円
この場合、703万円以上でマンションが売れれば、利益が出る計算となります。
このケースのようにマンションを1,000万円で売却できたとすると、売却損が出ていながらも、不動産の運用による収支全体は、約300万円の黒字だと分かります。
マンションを賃貸物件として、一定の家賃収入を得ていた場合、「売却損が出ても、実質の収支は黒字」というのは、よくあるパターンです。
特に、好条件の投資マンションを、10年など長いスパンで所有して、運用がうまくいっていた場合、多くのケースで収支がプラスになるでしょう。
目先の売却損だけで、「この投資は失敗だった」と、結論付けるのは間違っています。
納税が不要となる
大きな売却損が出た場合、売却時の納税が不要になるケースがあります。通常、不動産を売却すると様々な費用が発生します。
例えば、以下のような条件を持つマンションを売却するとします。
- マンションの購入価格:2,000万円
- 購入にかかった費用:200万円
- マンションの売却価格:3,000万円
- 売却にかかった費用:110万円
- 所有期間:8年 ※購入時は新築
- 構造:鉄筋コンクリート造(RC造)
このケースではかかる費用の内訳は以下の通りです。
- 仲介手数料:106万6000円
- 印紙税:1万円
- 譲渡所得税:204万5,000円
- 登録免許税:2,000円
- 登録免許税の手続き代行料:1万円
- ローン返済手数料:1万円
- 賃貸管理解約違約金:10万円
- 合計:約324万3000円
この中で、最も大きな割合を占める費用が譲渡所得税です。上記の例の場合には、全費用の約324万円中、譲渡所得税が約205万円と、60%以上を占めています。
売却損が出た場合、譲渡所得税の支払いが不要となるため、売却時の費用負担が、かなり軽くなります。
売却損が出ると、マンション売却後の確定申告も基本的には不要です。費用を支払うタイミングも、売買契約と引き渡し時のみとなり、非常にシンプルです。税金の未納も発生しにくくなるでしょう。
ただし、以下の場合には、売却の利益がなくても、確定申告をするメリットがあります。
- マンションを売却した年に、賃料収入を得ている場合
- 該当のマンションを売却したのと同じ年に、ほかの不動産を売却して、利益が出た場合
特に、後者に当てはまるケースでは、確定申告をすることで、利益の出たほかの不動産の譲渡所得から、該当のマンションの損失を控除できます。税金対策になるので、確定申告を忘れないようにしましょう。
売却損の出そうな投資マンションの損失を抑える方法
売却損が出そうだとわかった場合に、損失を抑える方法があります。
主な方法は以下の2つです。
- 売却のタイミングを見極める
- 高額な売却が望める動産会社を探す
前述の通り、投資マンション売却時の売却損はそこまで心配する必要はありません。
家賃収入を加味するとトータルの収支がプラスになっていたり、万が一赤字でも税金対策になるからです。
しかし、売却時にはできるだけ売却損を出したくないというのが一般的な考え方です。
ここでは、売却損の出そうな投資マンションの損失を抑える方法について詳しく解説します。
売却のタイミングを見極める
売却損が出そうだと分かった場合は、売却のタイミングを見極めることが重要です。投資マンションは売却のタイミング次第で価格が大きく異なるため、適切な時期に売却を実行できれば損失を最小限に抑えられます。
売却損を最小限に抑えたいのであれば、以下2つのタイミングでの売却が最適です。
マンションの価格が上昇し、利回りが低下しているとき
売却の適切なタイミングは、マンションの価格が上昇して利回りが低下しているときです。
マンションの価格が上がっているときが、売り時だということは、いうまでもありません。ご自身が所有するマンションも、相場と比例して、高い価格で売れる可能性が高くなるでしょう。
一方で、利回りが低下しているときに売るべきなのはなぜでしょうか。
▼利回りとは
マンションに投資した金額に対する、収益の割合。
マンションを購入する際には、利回りの高い物件の方が、所有後の収益を見込めます。しかし所有しているうちに利回りが低くなれば、得られる収益は低くなります。
よって、利回りが低下傾向にあるタイミングで売却すると、損失を出しにくくなります。
以下のグラフは、2014年から2023年6月までの、全国の区分マンションの利回りと価格の推移を示したものです。
出典:「収益物件 市場動向 四半期レポート 2023年4月~6月期」(不動産投資と収益物件の情報サイト 健美家 ( けんびや ))
マンションの価格を表す赤い線グラフをみると、価格は上昇傾向だと分かります。一方で、青い線グラフの利回りは、下降傾向にあります。
2022年春ごろから、この傾向が続いており、現状はまさに「売り時」だといえます。
ただし、マンションの価格と利回りのどちらも、いつ状況が変わるか分かりません。日々、最新の状況を確認して、売却のタイミングを見定めることが大切です。
金利が安いとき
金利が安いときも投資マンションの売却を検討すべき最適なタイミングです。
日本ではマンション購入する多くの人がローンを組むため、金利が安いとマンション購入のハードルが低くなります。金利が安いと、購入者層の購買意欲が増すため、売却に出したマンションが売れやすい状況といえます。
2013年度から「異次元金融緩和」と称した超低金利政策が行われており、10年以上たった今も続けられています。
出典:フラット35「民間金融機関の住宅ローン金利推移(変動金利等)」
この政策により、金利が安く済み、マンション購入のハードルが低く抑えられています。しかし、日銀の総裁は、2023年7月の記者会見で、金融政策の修正方針を公表しました。
参考:東京新聞 TOKYO Web「あなたは理解できる? 複雑怪奇な「日銀文学」 「金利は0%、めど0.5%、上限は1%」結局なんなの」
これにより、今後、住宅ローンの金利が上昇する可能性があります。こちらも、マンションの売却価格や利回りの相場同様、動向を注視する必要があるでしょう。
不動産投資で売却益を得る最適なタイミングについては以下の記事をご覧ください
→不動産投資で売却益を得る最適なタイミングは?高く売却するポイントも解説!
高額な売却を望める不動産会社を探す
売却損が出そうな場合は、高額な売却が望める不動産会社を探しましょう。
投資マンションの売却価格は、おおよその相場があっても不動産会社によって買取価格が異なります。そのため、売却損を減らすためには、1円でも高い売却を望める不動産会社を探すことが何よりも近道です。
しかし、売却額の高い不動産を探すことは簡単ではありません。不動産会社で1件1件売却の査定をした場合、かなりの時間と労力がかかります。
そこでおすすめなのが、一括査定サイトの利用です。
一括査定サイトを利用すれば、一つのサイトから申し込むだけで複数の不動産会社に査定を依頼できるため、高額で売却できる不動産会社探しを効率的に行えます。
例えば、投資マンションのような収益物件に特化した一括査定サイトに、「楽待」があります。
ほかにも、いろいろな一括査定サイトがあるため、投資マンションの売却時は利用を検討してみましょう。
まとめ
投資マンションを売却する際は、原則確定申告が必要です。黒字の場合は正確な収入を申告のうえの納税が必要なのはもちろんですが、赤字だった場合でも節税対策となるため行うべきです。
売却結果 | 確定申告の有無 | ポイント |
黒字 | 給与以外に20万円以上の所得があれば、確定申告は必須 | 黒字で条件を満たしている場合、確定申告を行わなければ、未納で故意に脱税したと判断され、通常より多くのペナルティ(追徴課税)を受けます。 |
赤字 | 原則不要 | 確定申告をしないという選択もできますが、赤字の場合、翌年以降の黒字から相殺できるため、確定申告をしておくことで、翌年以降の税金が節税になる可能性があります。 |
確定申告の期間は、原則、投資マンションを売却した翌年の2月16日から3月15日までです。さまざまな必要書類の取り寄せや確定申告書の作成が必要になるため、日ごろから準備を進めておきましょう。
また、投資マンション売却後の確定申告によって収支が赤字に気がつくケースも少なくありません。しかし、赤字だからと慌てる必要はなく、しっかりと確定申告を行えば節税効果も期待できます。
正しく収支を付けて納税額を抑える取り組みも、不動産投資においては重要です。