【文例付き】家賃滞納時の督促の流れと注意事項を解説

不動産オーナーにとって頭の痛い問題は、借主による家賃の滞納です。家賃はオーナーの重要な収益源であり、滞納されてしまっては当然収入が不安定になってしまいます。場合によってはローンの返済に影響が出て生活が立ち行かなくなるケースもあるので、注意しておきましょう。今回は、家賃を滞納された時の督促方法や効果的な対策を紹介します。

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データから分かる!家賃滞納の実態

2021年度の滞納率推移(%)

 

月末での1ヶ月滞納率

月末での2ヶ月以上滞納率

首都圏

0.5

0.3

関西圏

1.7

0.8

その他

2.3

0.8

全国

0.9

0.4

出典:

公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会日管協総合研究所「第26回 賃貸住宅市場景況感調査『日管協短観』2021年4月~2022年3月」

公共財団法人 日本賃貸住宅管理協会によるアンケート調査によると、2021年度の月末での1ヶ月おける家賃の滞納率は首都圏で0.5%、関西圏で1.7%であるとわかります。滞納率は入居戸数を全体とした時に滞納戸数が占める割合で、家賃債務保証会社が代位弁済したものも含まれます。

近年のコロナ禍や企業の業績悪化による収入減の影響で、滞納率は実質増加傾向にあると考えられています。滞納率の全国平均は月末の1ヶ月滞納で0.9%、正常化が難しいとされている2ヶ月以上で0.4%であり、首都圏を離れるほど数値が高いのが実情です。

2020年の民法改正により賃貸保証会社の利用が進み、代位弁済が増えていることも滞納率の推移に影響を与えています。とはいえ、法的手段に進んでも家賃回収までに約10ヶ月の時間がかかり、長期間家賃収入がない状態が続くため、入居者の家賃滞納を防ぐ事前対策が求められます。

家賃の滞納が起こる原因

まずは、家賃滞納が起こる原因をみていきましょう。

手続きのうっかりミス

家賃の滞納で多いのは、期日忘れや振込手続漏れです。うっかりミスなら滞納の連絡をすればすぐに支払ってくれる可能性がありますので、それほど心配はいりません。

うっかりミスによる滞納は、家賃を給料口座からの口座振替にしてもらうと防げます。回収できるとはいえ手間がかかるため、連絡時に期日に支払うよう念押しして、繰り返すのを防ぎましょう。

お金がなくて困窮している

入居後の状況の変化で収入が大きく減ったために、家賃を払えない人もいます。経済状態が回復しないと家賃の支払いが難しく、裁判をしても回収が難しい滞納です。

オーナーとしては入居者に保証人へ相談するよう促すか、家賃の低い物件への転居、生活保護などの公的支援を受けるようアドバイスするしかありません。

モラルの低下

家賃の滞納を軽く考えている入居者もいます。具体的な滞納理由は、次の通りです。

・お金はあるけど払いたくない

・車を買ってお金がない

・簡単には追い出されないから

・少しくらい滞納しても良いと思っている

モラルがない入居者による家賃滞納には、法的な措置を取るのが有効です。賃貸保証会社の審査が通らないような人に部屋を貸すのであれば、契約時の説明で「家賃滞納時には連帯保証人へ即連絡する」などしっかり伝えておきましょう。

家賃滞納者に対する督促の流れ

家賃滞納には、早急な対処が必要です。放置していると滞納額が増えて返済してもらえなくなる可能性があるだけでなく、オーナー自身の損失も膨らんでローン返済に多大な影響を及ぼします。

また、滞納分の請求には「本来の支払い時期から5年以内」と時効も定められているので、速やかに催促しておきましょう。

ここでは、家賃滞納者に対する督促の流れを紹介します。

口頭や文書での確認と督促

単なる支払い忘れであれば、通知するだけで速やかに支払ってくれるケースが多いです。

まずは、滞納から1週間を目安に電話で滞納の連絡をすると良いでしょう。入居者が電話に出ない場合は、留守電に入れてから直接訪問します。面接できないまま滞納が1週間以上続く場合は、督促状を郵送して家賃の支払いを促します。

弁護士への相談

口頭や文書での督促に反応がない場合、弁護士への相談に進みます。この後の書類や行動が法的に活用できる資料となるので、事前に弁護士へ相談しておくと以降の対処がスムーズです。

また、次項で解説する内容証明郵便も、弁護士へ相談した後に発送することをおすすめします。

内容証明郵便の送付

状況が改善されない場合、弁護士に相談のうえで内容証明郵便を送付します。「契約解除の予告通知書(催告書)」として発送し、明確な期限を設けて賃貸借契約の解除について触れましょう。

内容証明郵便を送ることで「届いてない」「知らない」と言い逃れされるリスクが減りやすく、法的措置を取る第一歩が踏み出せます。

保証人への連絡

内容証明郵便を送っても支払われなかったり、本人に支払い能力がなかったりする場合、保証人に連絡します。手順は本人への督促と同じく、口頭または文書での通達を経てから内容証明郵便を発送します。滞納者と連帯保証人の双方に督促状を郵送するのがポイントです。

それでも解決しない場合、次項の法的措置を検討します。

法的措置の執行

法的措置の執行には、滞納が3か月以上あり、督促しても支払われなかったなど信頼関係が崩れている客観的な証拠が必要です。いつ、どのようなアクションをしたか、口頭・文書での督促や内容証明郵便発送の日付も含めて細かく記録しておきましょう。

家賃の滞納の督促状の文例

家賃の支払いを求める督促状の文例は、次の通りです。

滞納から1週間を経過した時の督促状

うっかりミスで家賃の支払いが遅れている可能性があるため、最初の督促状はソフトな対応を心掛けましょう。期日などは設けずに、自発的な支払いを促すことが大切です。

【文例】

家賃のお支払いに関するご連絡

いつもお世話になっております。

〇〇様がご入居中の△△号室の賃料ですが、

□月□日のお支払い期日を過ぎてもご入金の確認が取れておりません。

大変お手数ではございますが、内容を確認のうえ、

下記の振込先へ早急なご入金と当方へのご連絡をお願いいたします。

なお、本状と行き違いですでにご入金をいただいておりましたら、ご容赦ください。

ご不明な点などあれば、当方までご連絡をお願い申し上げます。

滞納から2週間以上経過した時の督促状

2週間以上経過して支払いがない時は、タイトル、文章ともより厳しい口調で2通目を発送します。意図的に支払いを怠っている可能性があるため、文面に連帯保証人へ連絡を入れる旨を記載して事の重大さが伝わるようにするのがポイントです。

【文例】

賃料の滞納について

以前にご連絡したように、〇〇様がご入居中の△△号室の賃料の滞納が続いており、

現在も入金の確認ができておりません。

つきましては、□月□日までに、下記の滞納分のご入金をお願いいたします。

なお、期日までにご入金の確認ができない場合は、

連帯保証人へ連絡させていただきますので、ご了承ください。

滞納された家賃を督促する時の注意点

最後に、滞納された家賃を督促する時の注意点を解説します。

当然オーナー側には督促する権利がありますが、間違った対処をすることで却って訴えられたり不利になったりするケースもあるので注意が必要です。

注意点1.督促する時は伝える相手に注意しよう

電話や郵送で督促する時は、原則として滞納者本人に督促します。勤務先や実家など、関係者に無断で取り立てに行くことは貸金業法でも禁じられているので注意しましょう。

ただし、本人が「家族に電話して請求してくれ」など合意している場合、連絡して問題ありません。同じく、本来の滞納者へ電話が繋がらない(電話番号が変わったなど)場合も、勤務先や実家に連絡して取次を頼めます。

あくまで本人と連絡を取りたいことを伝えるのに留め、滞納者の社会的名誉を傷つけないように配慮しましょう。

注意点2.社会通念上の常識的な時間帯を守ろう

社会通念上の常識的な時間帯に督促することも大切です。具体的には、貸金業法の第十九条法第二十一条第一項第一号の内閣府令で定める時間帯(8時から21時)の範囲で行いましょう。

訪問はもちろん、電話・Fax・メール・文書の投函なども、夜間や早朝に実施しないことがポイントです。裁判時に常識的な時間帯での督促であったことを証明できるよう、時間帯が分かる写真や記録を残しておくと安心です。

注意点3.強引な手段は避けよう

貸金業法の第二十一条では、取り立てが私生活を害するものであってはならない、と定められています。期限から1週間程度で督促したり、短期間で何度も督促したりすると、過剰な行為とみなされる恐れがあるので注意しておきましょう。

また、マスターキーを使って許可なく室内に入ることや、勝手な家財の移動・処分、職場など第三者に滞納の事実を公表することもNGです。

遅延損害金の利率は原則、当事者間で定めることができますが、上限は年14.6%までと決まっています。それを超える金額は無効となるため、覚えておきましょう。

家賃の滞納トラブルを防ぐためにできること

家賃の滞納トラブルを解決するのは大変なので、未然に防ぐのが第一です。次の対策で、安定した家賃の回収を目指しましょう。

オーナー自身も入居者を審査する

管理会社や仲介店がいても、オーナー自身の目で入居者をしっかり審査する必要があります。まずは、転居の挨拶や入居祝いを持参して顔をあわせておきましょう。人柄や勤務状況を確認して良好な関係を作っておくと、万が一トラブルが起きても対応しやすくなります。

賃貸保証会社を利用する

家賃滞納に備えるためには、入居者に賃貸保証会社の利用を促す必要があります。管理会社や仲介店に対しても、入居者との契約時に賃貸保証会社を利用するようお願いしておくのがおすすめです。

自主管理の場合は管理会社の利用を検討する

不動産管理会社には、入居者の家賃管理や督促業務を委任できます。委託料はかかるものの不動産経営の負担を大きく減らせるので、自主管理をしている場合は前向きに利用を検討しましょう。

ただし、不動産管理会社は債権の回収は違法行為に当たるためできません。督促状の送付までに留まり、全てを任せられるわけではない点を覚えておきましょう。

まとめ

家賃の滞納は、オーナーにとって速やかに解決したいトラブルです。一声かけてもなかなか支払ってもらえなかったり、明らかにモラルの問題で滞納していたりする場合、つい強引な督促をしてしまいがちなので注意しましょう。

場合によってはオーナー側の督促に違法性があると判断され、却って訴えられたり不利な条件になったりすることもあります。そのため、あくまでもオーナー側は法律とルールに則り、弁護士と相談しつつ手続きをすることが重要です。

今回紹介した内容をもとに、多少時間をかけてでも確実に滞納家賃を回収し、キャッシュフローの悪化を防ぎましょう。